このコラムも50回をゆうに超え、さすがにお題も弓折れ矢尽きたという感じで、いつコラムニストの禁じ手「昨日見た夢の話」が繰り出されてもおかしくない状況である。

ところで、気づいた読者がどれくらいいるかは怪しいところだが、本コラムの掲載面が企業ITチャンネルというところに移った。そこで新たに担当に提案されたのが、「コラムの掲載面が移ったのだから、今IT界隈で流行っている単語をテーマに書いては」ということだった。得体のしれないワードをまず調べずにその語感から何であるか予想し、あとで答え合わせしてみようというのが、今回からの本コラムのテーマになる。

だが、チャンネルの移動と言われても当方には何ら関係のないことだ。基本的に私は原稿料さえ払ってもらえれば、コラムがどこに載ってもいいし、仮に発注相手が犬であっても構わないと思っている。もし犬の方が高い原稿料を出すと言うなら、本コラムは今回で終了とし、これからは御ドッグ様のためだけに文章を書きたいと思う。

それはともかく、記念すべき企画第1 回目のお題は「IoT」である。

IoTとカレー沢氏の「挑戦」

驚くほど何も思い浮かばない。

担当も私に何か連想させたかったのなら、最初くらいもっと想像の翼が羽ばたくワードを提示してはくれまいか。平素から「担当殺す」などと言っている私だが、ついに担当側も初手からこっちを屠りに来るという、企画自体はコケているかもしれないが、バトルものとしては「面白くなってきやがったぜ」という展開である。

まず「I」は「INU(犬)」である、とボケる元気もないし、これから私に単価の高い仕事をくれるかもしれない御ドッグ様に失礼なので、普通に考えて「I」は「Internet」もしくは「Information」だろう。何故なら最初に「IT用語」と言われているからだ。これで「正解は犬です」と言われたら、「新年度を迎えてオレの担当の殺る気がすごすぎる」というタイトルでラノベを書こうと思う。

次に「o」は、「of」もしくは「or」だろう。略称の間に挟まっている「o」は大体それらである。

「IoT」で一番重要なのは「T」が何であるかだろう。担当がこれだけ攻勢なのだから、こちらも迎え撃たなければ失礼だろう。

思えば当コラム、もともとターゲットにしている読者層が「処女懐胎で生まれた聖人」なので、不穏当な表現、もっと簡単に言えば下ネタは98%ぐらい修正される。しかし、私は「これは修正されるだろうな」とわかっていながら果敢にも卑猥なことを書き、やっぱり修正されるという行動を、皆さまの知らないところで何回もやっているのだ。むしろ私の人生で、これだけ諦めずに挑んでいることなどほかに一つもない。

なので、今回も挑ませてほしい。「T」とは「TIMCO」である。何と読むかは言わない、言ったら載らなくなるからだ。そもそも答えなどない、個人の判断に任せる。「ラストは皆さんが考えてください」というような、しゃらくさい映画みたいな感じがこの知的コラムにソーマッチだ。

「T」がなんであるかわかった今、Iは「Information」、Oは「of」で決まりだ。「TIMCOの情報」、これは欲し過ぎる。

さて、完璧な答えが出たので答え合わせなどいらないと言うか、どんな答えがでても「こっちの方が正解だ」という自信があるのだが、一応調べてみると「IoT」とは「Internet of Things」の略で、日本語にすると「モノのインターネット」だそうだ。

意味は「コンピュータなど通信機器のみならず、さまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互に通信したりすることにより、自動認識や自動制御などを行うこと」らしい。

意味を読んだ上で意味がわからないという緊急事態である。つまり、今までPCとか携帯とかプリンタとかIT機器に接続されてきたネットを、それ以外の「モノ」にもつなぐ技術ということらしい。まだピンとこないが、例えばドアなどにネットを繋げれば「今ドアが開きました」などの情報を遠方にいながら得られるというわけである。

確かにすごい技術かもしれない。しかし、「TIMCOの情報」に比べると心躍らな過ぎるのではと思ったが、なんとペットをネットに繋ぐことにより、ペットの動向が逐一わかるようにもなるらしい。これは素晴らしい技術である。

もし私が猫を飼ったとしたら、猫のことが心配すぎて、会社になんか行けるはずがない。よって、退職、無職、餓死である。つまり今までの「猫を飼う=死」という常識が「IoT」により解消されるというわけだ。

だが、その猫の情報が例えばスマホに配信されるとしたら、一日中スマホを見てしまい、会社をクビになってしまうような気がする。なので、直接脳みそを猫につなげてくれないだろうか。

「Brain to Cat」、「IoT」より先に研究されるべき技術としてここに提唱したい。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売される。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年5月10日(火)掲載予定です。