今回のテーマは「ドローン」である。

目に見えて、担当が出してくるお題が舐めプになって来ている。ちなみに舐めプとは「舐めたプレイ」のことだ、よくされるのでこういう用語だけは熟知している。

「ドローン」、そもそもIT用語なのかすら疑問だが、あの飛ぶ奴のことである。ではドローンが何のために存在しているのか、と聞かれたら、お前はなんのために生きているんだと聞かれた時と同様「わからん」と答えざるを得ない。

そもそも私がドローンという言葉を初めて認知したのは、「15歳無職少年がドローンを祭りで飛ばすと予告して捕まった」という報道だった気がする。「19歳少年がスナック菓子につまようじを入れて逮捕」と双璧をなすグッドスメルニュースだ。

では、ドローンとはド底辺ユーチューバ―が自己主張のために買うものかというと、多分違う。しかし上記の事件のおかげで、しばらくドローンはたとえ法に触れていなくても不用意に飛ばしたら職質を受ける確率が爆上がりする、激アツ確変アイテムになってしまったのではないか。少なくとも私がドローンを近所の公園で一人飛ばしていたら、一瞬で「近所の変わり者おばさん」の称号をゲットできるだろう。

ちなみにドローンは正確には「無人航空機」の総称であり、無人で空を飛んでいればドローンらしい。じゃあラジコンと同じではないかと思うが、ラジコンは操縦が必要だが、ドローンは自動運転ができるものもある、などの違いがあるようだ。

またドローンは元々軍事用に開発されたものであり、ホビーというよりは実用目的で作られているらしい。具体的にどのようなことで使われているかと言うと、人の足では行けない場所の偵察や撮影、また、今後は宅配分野でもドローンが活躍するのではと言われているようだ。

ドローンには難しい「臨機応変」な対応

しかし、宅配業務をドローンが行うというのには大きな不安がある。我々 が通販などで買った荷物が近い将来ドローンで届くかもしれないということだ。

このコラムの読者は、キャベツ畑で、あるいはコウノトリに運ばれて生まれてきた人ばかりなのでそういう経験はないかもしれないが、私のような下賎の民が通販で頼むものというのは、巻くだけで腹筋が鍛えられるマシーンや、飲むだけで痩せられるサプリばかりではない。むしろ、人様に買っている所を見られては困るからこそ(それらの商品も場合によっては親族に激怒されるが)、通販で買っているものもあるのだ。例えばそれは、Amazon.co.jpや楽天ではなく「とらのあな」からやってくる、市販の単行本より薄く、さらに登場人物があまり服を着ていない大量の漫画本だったりする。

そんな物が、ドローンのような小型のさらに無人の飛行機で空を飛んでやってくるなんて恐ろし過ぎる。ニトロを詰んでいるに等しい。墜落、または何らかのミスで、荷物が上空から地上に落下でもしたら一大事である。

昔、ギャグ漫画「こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)」でヘリからエロ写真をばらまいてしまうという話があったが、それが現実のものとなってしまうのだ。こんなところで現実が漫画に追いついても全く嬉しくない。

それに、運んでいるのが人であれば、もし仮に配送中のお宝を路上にブチまけてしまったとしても、瞬時に「これはアカンやつや」と判断し、光の速さで回収するだろうし、届かないところに行ってしまったなら、指先から粘着性の糸を出してでも拾うはずである。このように人が輸送するなら有事の際に機転が効くし、封印されし特殊能力に目覚めたりもできる。

だが、ドローンにはそんな臨機応変な対応はできないだろう。荷物が人に見られると人生が終わるものだろうがなんだろうが、「町のみなさまにサービスです」とばかりにバラまいたまま飛行を続け、空箱だけお届け! ということをやると思う。こういう物の品名には大抵「書類」と書かれているが、そうした気遣いも人ならではだ。

実際どういう形でドローンが荷物を運ぶのかは知らないし、荷物が空から落ちてくるようなことはないのかもしれないが、何が言いたいかと言うと、「無人であるドローンは突発的トラブルに弱いだろう」ということだ。むしろこち亀からのくだりは全然いらなかった。

また、ドローンでの宅配が普通になったら、あちらこちらでドローンが飛びまくることになる、そうしたら、「A×B」のBL本を積んだドローンと「B×A」のBL本を 詰んだドローンが正面から激突という大惨事も起こりうる。例にBLを出す必要は全くなかったが、そうした課題があるため、ドローンが民間の宅配に使われるのはもう少し先になるとの見方のようだ。

また現時点でも使われている「撮影」機能についても、プライバシー的に問題があるのではと言われている。確かに、ドローンを使ってスカートの中を空撮しよう としたら、相手が頭から地面に垂直に突き刺さってでもいない限り難しいが、部屋の中を撮影することはできてしまうかもしれない。

ちなみに、全く灯台下暗しだったのだが、私の夫も仕事でドローンを使っているようだ。もちろん、頭から地面に突き刺さっている人のパンツの撮影が目的ではない。「農薬散布」でもドローンは使われているのだ。その昔「今からヘリで農薬をまいてくる」と夫が言っていたのを思い出した、今思えばあれはドローンのことだったに違いない。そして「違うところに撒いて大変なことになった」と言って帰ってきた 。

恐ろしい話だ。つまり、ドローンが人に見られると人生が破滅するような同人誌を全く別の人の所に届けてしまう可能性はやはりあるということである。ぜひ実用化は慎重に行っていただきたい。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売された。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年6月14日(火)掲載予定です。