当初10回で終了予定の当コラムであるが、人気のため後10回ほど延長することになった。というのは担当編集の言だが、おそらく次書いてもらおうとした人に断られたのだろう、それは別に悪くない。「生涯代打」という生き方もある。

そして、記念すべき延長第一回目のテーマは「息抜き」についてである。どう考えても、前とテーマがかぶっているが、担当が同じテーマを投げてよこしてきたので仕方ない。この辺からも担当のやる気ぶりが伺える。(すみません、エゴサーチ以外の息抜きもお聞きしたかったので…(編集担当))

「エゴサーチ」の息抜き

前回息抜きは「エゴサーチ」と言ったが、四六時中しているわけではない。と言いたいが本当にずっとしているので、仕事の息抜きとなるとまた同じ話になってしまう。だが、エゴサーチの息抜きは、と聞かれたら「ゲーム」であろう。

一応「ニンテンドー3DS」や「プレイステーション・ポータブル」、「プレイステーションVITA」などの家庭用ゲーム機は多数所持しているが、プレイするのはもっぱらスマホやパソコンのゲーム、いわゆるソーシャルゲーム(以下ソシャゲ)である。

ゲームも日々進化しているようだが、進化しすぎてもはやついて行けないし、こちらの脳はどんどん退化している。なので、システムがシンプルで、どこでもできるソシャゲは暇つぶしにはもってこいである。もちろん、それが暇じゃない時間までつぶしだすのにそんなに時間はかからなかったが、ソシャゲの恐ろしい所は、時間どころか金まで食いつぶしだすことである。

現在ソシャゲのほとんどが「基本無料」をうたっている。それは嘘ではないが、逆に言えば「使おうと思えばいくらでも使える」ということなのである。

「無料で出来る物に何故金を出すのか理解できない」という人もいるだろうが、課金すると「無課金では手に入らないレアなキャラやアイテムが手に入ってイエーイ!」なのである。ますます理解できなくなったと思うが、それ以外に言いようがない。しかも、金を出せば必ず欲しいキャラが手に入るというわけではない。まず金を払って「ガチャ」を回し、運が良ければ欲しいキャラが手に入るが、出なければ出るまで課金しなければならないのである。

なぜ人は萌えゆえに課金するのか

実は自分もソシャゲに大分課金してしまっている。正確な金額は計算していないが、大体トータルで20万は使っている。うなりをあげて読者が引いて行く音が聞こえるが、私は何も「課金して強いレアキャラを集め、敵を蹂躪してやる」というヒャッハー精神で金を出したわけではない。では何のために、と言われたら一片の曇りもない「萌え」のためであり、20万はその崇高な精神の前に殉死したにすぎない。

ソシャゲの中には、「ゲーム性は皆無だが、好きなキャラのカードを集めてひたすらペロペロできる」という萌えに特化したゲームが多く存在し、おそらくより廃課金になりがちなのはそちらの方だと思う。正直、私の20万など塵に等しく、何百万も使っている高僧も存在する。もはや課金ではなく「徳を積んでいる」と言った方がいい。

萌えとは、喜怒哀楽どの感情にも当てはまらない。というより喜怒哀楽全てであり、時には萌えのあまり怒りだしたり泣き出したりするという、とにかくオタクにとって何を犠牲にしても得たいものなのである。

具体的にそのガチャを回すのにいくらかかるかはゲームによって違うと思うが、大体10回で3,000円ぐらいが相場と思っていい。もちろん欲しいカードが出るかは運だ。この時点で、オタク気質のない人には信じられない話だろう。「米が買えるじゃないか」というツッコミが聞こえる。だが逆に言いたい、「米に萌えられるのか」と。確かに米を美少女に擬人化して売っているところもあるが、それはまたアナザーストーリーだ。

カレー沢氏が課金を「卒業」した理由

しかし、これだけ熱弁しておいてなんだが、現在、私は課金から足を洗っている。きっかけは、某萌えソシャゲの好きなキャラのカードを1種類集めるために、10万ほど使ってしまったことである。カードをそろえたことに後悔はないが、「これを続けていたら確実に後悔することになる」とはっきりとわかったからである。ソシャゲの良い所は、買い切りゲームならひと通りクリアしたら終わりだが、ソシャゲの場合、終了しない限りは次々と新しい要素が追加され、好きなキャラのカードもドンドン増えていく。そのたびに10万出し続けていたらどうなるだろうか。想像はたやすい。

このように、何十年も私を楽しませてくれた「ゲーム」というものから、「不幸」の臭いが漂っていたのである。つまり、ギャンブル依存症などにおける「底つき」が、割と浅い段階で来てしまったわけだ。人間の底が浅いと、こういう底も浅くて助かるという利点もある。

しかし、ソシャゲ自体に絶望したわけではなく、そのゲームも無課金で続けているし、他にも色々とやっている。だが、「課金から足を洗った」と言っても、課金衝動というのは、酒やたばこ、ギャンブル、果ては麻薬と同じで、克服したと思ってもふとした瞬間襲ってくるものであり、また1回でも課金したら元通りになる自信がある。

息抜きのためのゲーム、だったはずなのだが、そのせいでまたひとつ生きづらくなった。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。