アイドルとは何か。「戦国時代」ともいわれるブームの中でわれわれが目にしてきたアイドルたちは、ファンに夢と希望を与えながら群雄割拠を生き抜いてきた。しかし、彼ら彼女らが時に代償を払うことが強いられる場面に遭遇すると、ふと冒頭の言葉が最近よぎる。
SUPER☆GiRLSの浅川梨奈(18)も、アイドルとして生きている一人だ。2015年頃からグラビア界を席巻し、映画では『14の夜』(16年)、『咲-Saki-』(17年)、『恋と嘘』(17年秋)、『honey』(18年春)、ドラマでは『咲-Saki-』(16年・TBS系)、『ファイブ』(17年・フジテレビ系)に出演するなど女優としても活動の幅を広げている。
小学生の頃にAKB48やSUPER☆GiRLSをはじめとしたアイドルに憧れ、2012年の「avex アイドルオーディション2012」に応募。候補生などを経て、SUPER☆GiRLSの正式メンバーに加わったのは今から3年前のことだ。
そんな彼女に大役が巡ってきた。桜庭ななみ、土屋太鳳らのその後の活躍から「女優の登竜門」と称されるシリーズの最新作『人狼ゲーム マッドランド』(7月15日公開)の主演。今回のインタビューでは、長編映画初主演の思いを掘り下げる中、浅川の「アイドルとしての覚悟とプライド」に火がつく。
多くの人に支えられているからこそ、今の自分がある。そして、そんな人々を裏切らないために。"趣味・アイドル研究"を公言する浅川が、自分自身に誓うアイドル論。
ネガティブ思考の「支え」
――今回でシリーズ6作目となります。終盤は驚きの展開でした。
ありがとうございます。綾部監督とは今回が初めてだったんですが、出演者一人ひとりの性格に合わせて、設定も変えてくださるんです。最初は小島梨里杏さん(16年『人狼ゲーム プリズン・ブレイク』)のような弱々しい女の子のイメージで台本が書かれていたんですが、稽古やリハーサルを重ねていくにつれて、「浅川さんは弱いイメージじゃないから」という理由で、古畑星夏ちゃん(17年『人狼ゲーム ラヴァーズ』)のような「強い女の子」のイメージに変えてくださいました。シリーズの主人公は、このどちらかのパターンです。
10人のキャスト一人ひとりとの稽古でもっとこうした方がいいとか話し合いながら変えていって、撮影現場でもセリフが変わることは何度もありました。クライマックスのシーンで笑うのか、泣くのか決まっていなかったのも、役の気持ちを大切にしながらの順撮りだからこそ成立するもので、ラストは演技を見て決めるとおっしゃっていました。
――あらかじめ決まってないと不安になったりしないんですか。
順撮りだからこそ、その日にあった出来事を経て次のシーンを迎えることができるのですっごくやりやすかったですし、あるシーンの台本では「抱き合う彩乃と萌」と書いてあったんですが、2人の関係性で抱き合うって変だよねと。彩乃役の(松永)有紗ありさちゃんと話し合った結果、変更することになりました。前のお芝居の流れを汲んでやっていく現場は、すごく新鮮でした。
――キャストが発表された時、「この10人で歴代を越えたい」というコメントを出されていました。どんな思いが込められていたのでしょうか。
やっぱり、主演をやらせていただくとはいえ、私が一番演技の経験が少ないし、一番頼りないかもしれない。だけど、みんなと一緒に作り上げるからこそ、私も「主演です」と言える。こうやってインタビューさせていただけるのも、10人の代表のような気持ちで臨んでいます。スタッフさん含め何十人……もしかしたら何百人の方々が携わってくれるのかもしれない。「みんな」で作っているものなので、「私が」「私が」ではなく、全員で越えていかないといかないと意味がありません。
キャストのみんなからも学ぶことがすごく多くて、みんなから吸収しながら演じさせてもらったので、本当に感謝しかないです。そういう思いでコメントさせていただきました。
――今回に限らず、どのような仕事にもそのような気持ちで向き合っていらっしゃるんですか。
どの仕事、作品も自分一人だけでできることではないですし、支えて下さる方がいるからこそ。言葉を交わし合って一緒にお芝居をするからこそ、作品ができあがる。長編映画は初めてのことで、主演もやったことがなかった。不安な状態の中で心強いみんながいるからこそ、日々勉強しながら楽しんでやらせていただけました。
自分はいつも自信なくて、不安を抱えてばっかりの人間なんです。だけど、「みんな」がいるからできることがたくさんある。歴代の『人狼ゲーム』シリーズはどれもすばらしい作品です。今回過去最少人数のキャストなんですけど、少ないからこそみんなで一人ひとりががんばらなきゃいけないし、一人でも欠けちゃいけない。そういう思いでした。
観客がいなければただの自己満足
――ブログには「皆様に見ていただいて完成するもの」と書かれていました。
演じさせていただく以前に、たくさんの方が企画してキャスティングしてくださったというのもありますし、撮影している最中、撮影後もたくさんのスタッフさんの支えがあります。クランクアップで撮影は終わりですけど、スタッフさんには編集作業も待っています。それから、宣伝をしてくださったりとか。自分が思っている以上に、たくさんの方に支えられています。
そんな自分ができることは、応援してくださる方に向けての告知をたくさんすることだと思うんです。「見ていただいて完成する」というのは、見ていただいた上での感想をいただくこと。プラスの意見、マイナスの意見、どちらでも自分にとっては1つの糧になりますし、感想をいただくことによって監督や支えてくださったスタッフさんも報われる。
たくさんの方に見ていただいてこそ。ドラマや映画、アイドルのライブも同じです。お客さんがいないと、ただの自己満足で終わってしまう。だからこそ、一人でも多くの方に足を運んでくださることがうれしいです。
――アイドルとして、この世界に。そこで「ファンあっての自分」を実感されたわけですね。
そうですね。ライブもファンの方がいなかったら成立しません……。どれだけ少ない人数でも「全力」でやることは変わらないですし、全力でやれば口コミやSNSの拡散で少しずつ人が増えていく。だからこそ、1回1回を大切に。お芝居であれば、1シーン1シーンを「全力」でやることによって、観てくださった方がもう一度私を見たいと思ってくださるかもしれませんし、『人狼ゲーム』シリーズの他の作品を観たいと思ってくださるのかもしれない。絶対にプラスになると思うので、ひとりひとりのファン、お客さんを大事にしないといけないと思います。
――もともとアイドルの大ファンだったことを公言されていますが、だからこそ今の言葉に説得力を感じます。
私自身もアイドルを応援する身として、実は「ここまでやられたら嫌」というラインがあるんです。
例えば、露出度が高くて小さな水着だと心配になるとか、演技でも、アイドルでいる間は激しいベッドシーンは避けたいとか。ファンの方々の気持ちを裏切りたくない。アイドルとして、キラキラした姿を見ていてほしいんです。
だから私はアイドルとして、アイドルを好きな身として、「ここからはできない」「ここまではできる」というラインを決めていて。でも、アイドルを卒業したら、どんなことでもやりたいし、多少なりとも激しいものでも体当たりでやりたいです。
――グラビアで知名度が一気に上がったと思いますが、最初ためらっていたのはそういう理由だったんですか?
最初、グラビアには抵抗があったんですけど、やることによってのプラスが大きくて、その時点で私にとってのマイナスはなくなりました。2年ぐらいやらせていただくと小さい水着を要求されたりするんですけど、そこは自分で「まだアイドルなのでもう少し大きくてもいいですか?」と聞くようにしています。こういうことは自分で言わないと、どんどん過激になっていきますし、グラビアをやらせてもらっていますけど、私自身は「グラビアアイドル」ではありません。アイドルという仕事に誇りを持っているからこそ、ちゃんとプライドを持って一つひとつのお仕事と向き合いたいと思っています。だからといって、グラビアを担当するスタッフさんにとって、「小さい水着」に悪意はないんです。きれいに、魅力的に見せたいから。誰も悪意なんてない。
職業観とファンの距離
――仕事の範囲をそうやって決めていらっしゃるんですね。
いただいた仕事は断る理由もないですし、何かを言えるような立場ではありません。いただいたお仕事はすべて全力という気持ちは変わらないですが、ファンの方にとってもデリケートなことでもあるので、自分の中での「浅川梨奈」というアイドル像は持つように心がけています。
――仕事の軸足はアイドルであると。
そうですね。SUPER☆GiRLS在籍中の軸足はアイドルです。いずれは卒業しますし、引退するかもしれない。みんな将来のことは分からないと思いますが、一人になった時に一人で食べていけるように今は地を固めたい。たくさん経験を積んで、たくさん勉強をさせていただいて、成長していけたらと思います。卒業しても一人でもやっていけるような人間でいたいです。