まずは、続編が無事出てくれたことを神に感謝している。

前作「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(以下、キンプリ)を見たとき、これがここで終わっていいはずがないと強く思った。法隆寺の建立が途中で投げ出されるぐらいの損失である。

そして、めでたく建立が再開された文化遺産「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」(以下、キンプラ)を先日見学してきた。

以下、ネタバレ、キャラクターへの偏愛による偏った感想である。また、当方がキンプリとキンプラのみ視聴した状態で書いているため、細かい設定理解の齟齬があるかもしれないことをご容赦いただきたい。

しかし「ネタバレ注意」と言っても、キンプリシリーズはネタバレされてもどんな話かまったくわからないという画期的アニメであるため、結局「見に行くしかない」のである。

キンプラで「地球の色」を知りに行く

キンプリ公開時は、見ると「語彙が死ぬ」という副作用があったため、前作を見た人間は「キンプリはいいぞ」「尻からハチミツ」「イージードゥーダンス」の3語ぐらいしか言わなくなっていた。そのため、あれだけ多くの人に見られ、Twitterなどで連日感想がつぶやかれていたにも関わらず、公開から3カ月後に見た私でも、ほぼ真っ白な状態で鑑賞することができた

キンプラも大体同じような状態だが、その中で一つ気になる感想があった。

「キンプラ見てない人、まだ地球が青いと思っているの?」

違うのかよ。

しかし、よく考えてみたら地球の色など肉眼で見たことがない。それがキンプラを見ることによりわかるなら、地球人として行くしかないだろう。

このように「間違った常識を正す」という意味でもキンプラは見に行く必要があるのだ。

12時間はある話を10分に凝縮

まずキンプリおよびキンプラの概要を説明すると、登場人物は主にプリズムショーというスケートダンスと歌を披露する、プリズムスタァおよびプリズムスタァを志す少年たちであり、前作ではエーデルローズという養成学校に所属する3人組ユニット「Over The Rainbow(オバレ)」の「コウジ、ヒロ、カヅキ」と、プリズムスタァを目指す「シン」を中心に物語が展開された。

一方、キンプラでは、4年に一度のプリズムスタァの王者を決める「プリズムキングカップ」が開催されるというところから始まる。

しかし、エーデルローズの看板であるオバレのメンバーの一人・コウジは、前作でギリシャ神話になって銀河鉄道でハリウッドに行って星座になったため(略して海外で仕事)不在。

さらに、インパクトがでかすぎる収支報告書に定評があるエーデルローズ(前作の応援上映では、エーデルローズの抱える負債額が画面に出たときコールをするのが定番になっていた)の借金のカタに、コウジが作ったヒロの十八番曲「pride」(名曲である)の権利を、ライバルである養成学校「シュワルツローズ」に奪われてしまった。

その上、ヒロの無二の親友であるコウジがシュワルツローズのために曲を作るという情報まで流れる。当のコウジもわざわざハリウッドまで真意を尋ねに来たヒロに、塩どころか激辛対応。あまりのことにヒロはすっかり調子を崩してしまう。あと、カヅキは何故か別行動だ。

物の数分で凄まじい窮地に追い込まれるエーデルローズ。そう、冒頭だけですでに1クールぐらいはありそうな話なのだが、キンプラの上映時間は70分である。

ストーリーの展開が非常に速く、情報量がおびただしいため、初見ではついていけないこともあるかもしれないが、「ストーリーについて行く必要は特にない」のもキンプリシリーズの特徴だ。それに、12時間はある話を10分ぐらいに凝縮してくれたおかげで、キンプリシリーズの目玉「プリズムショー」シーンを前作以上に楽しむことができるのである。

ストリート系の魅力と「見えそうで見えない」ショー(※特にネタバレ注意)

そして私が一番楽しみにしていたのが、「大和アレクサンダー(アレク)」のプリズムショーだ。

一作目を見る時と、続編を見る時の心境というのは全く別である。一作目はこれから何が起こるのだろうという期待のみだが、続編になるとすでに「推しキャラ」が決まっているからだ。推しキャラの活躍を期待し、不遇な扱いをされないことを願い、もう最悪「死なないでくれ」という、祈りにも似た気持ちで鑑賞しなければいけないのである。

キンプリは元々女児向けアニメの派生なので死にはしないだろうとは思うが、相手はギリシャ神話と銀河鉄道で星座になるキンプリだ。何が起こっても不思議ではない。よって「今日が別れの日かも」という覚悟で見る必要がある。

結果から言うと、アレクは死ななかったし、彼のプリズムショーは今回も素晴らしかった。このアレクを含む「ストリート系」のダンスバトルは前作同様、キンプリシリーズ最大の見せ場のひとつと言って過言ではない。

プリズムスタァは大別して「アカデミー系」と「ストリート系」に別れる。アカデミー系は「女子を喜ばせる」ことを主体とし、そのダンスバトルも「男同士の甘噛み合戦。全裸もあるよ」と言った感じで、色んな意味で女子大歓喜なのである。

一方ストリート系は客相手というより、己をどこまで高められるかに重きを置いているらしいが、簡単に言うと、相手を本気で殺しにかかるのがストリート系である。

前作でも、最初は普通にダンスをしていたはずなのだが、気づくと相手を物理的に攻撃しており、最終的にはダブルKO、という展開に一気にハートを持っていかれた。今回のアレクはさらにパワーアップし、気づいたらプリズムキングカップの会場全体を爆撃しはじめているのである。

後に調べてみると、アレクは死傷者がでないように配慮した爆撃(配慮のある爆撃とは)をしていたとわかるが、初見では完全に皆殺しに見えるし、アレクの優しさ(優しさとは)も後から知れたので、「なんの予備知識もなく見て良かった」と心から思った

続いて、破壊行為を阻止せんとするカヅキの後輩タイガとアレクのダンスバトルがはじまる。タイガは前作ではダンスシーンがなかったキャラなので、タイガファンは必見だ。バトルの詳細は伏せるが、あまりに激しすぎて、戦いが終わるころには会場がドラゴンボール級に破壊されてしまう。

ちなみに、プリズムキングカップは審査員や観客がシュワルツローズ側に買収されているなど、エーデルローズは不利な戦いを強いられる。普通の大会ものなら「この不利な状況をどう覆すか」みたいな話になると思うが、さすがキンプラ。そんな些末な展開にはならず「会場が破壊されたので大会はここで終わり」というさらにスケールのでかいピンチに陥るのである。

ここで我らがカヅキパイセンの登場である。タイガも良い戦いを見せたが、カヅキパイセンのショーはさらに半端なかった。どのぐらい半端なかったかというと、詳細は例によって劇場で見て欲しいが、端的に言うと半端なさすぎて、会場が直った。

しかし、アレクは会場を破壊したから失格、タイガはアレクを邪魔したから失格、カヅキは会場を直すとか想定外だから失格という「ルールとは何なのか」としか言えないルールにより、ストリート系スタァはトリプルKOになる。

この無情な結果にも、カヅキパイセンは男気全開の対応を見せる。ここのストリート系勢のやりとりには、2兆人のストリート系ファンが死んだと思うし、私もあと5兆回ぐらい見たいと思っている。

ともかく、会場が直ったので大会は続行となる。私にとっては推しの出番が終わったのでここでクールダウンかと思ったのだが、やはり気づいたら目が離せなくなっているのがキンプリシリーズの恐ろしいところだ。

特に、シュワルツローズ所属の謎の少年・ルヰの演技には瞬き一つできなかった。問題は彼の衣装である。露出的には前回のギリシャ神話になった時のオバレぐらいなのだが、とにかく「見えそうで見えない、いや、やっぱりちょっと見えてる」のである。

よって、「見えた!」「見えた!?」「見えたー!?」と、やっている内にルヰのショウは終わってしまうのだ。やはりこのシーンも都合10兆回は見直す必要があるだろう。

だが、ルヰのショーを見終わった時点でも、まだ地球は青かった。そして、それはトリである「あの彼」のショーを見たとき覆った。確かにこれは言わざるを得ない。

「地球、まだ青いと思ってるの?」と。

その後、物語は怒涛のクライマックスを迎える。

たったひとつの「いいぞ」と言えない部分

キンプリシリーズは奇抜な演出や応援上映ばかりが取りざたされることも多いが、根底には友情、絆、人を笑顔にしたいという願いなど、ド鉄板な思想が流れているのが最大の魅力である。そうした思いが底にあるからこそ、70分ずっと洪水に飲まれているようなものなのに、最終的に心から「良かった!」と思えるのである。

だからこそ自信をもって前回のコラムでも「キンプリはいいぞ」と言えたのだが、今作・キンプラはひとつだけ「いいぞ」と言えない部分があった。

仁がかわいそうなのである。

仁とはシュワルツローズの総裁、物語上の悪の親玉である。

前作キンプリを見たときから私は「仁を嫌いになれない問題」を抱えていた。いや、まったく問題ではないのだが、こういう悪役を好きになるとつらいことになると経験上わかっていたので、できるだけ好きにならないでおきたかったのだ。

しかし、今作キンプラ内で彼が最初に登場した瞬間「あ…好き」となってしまったのである。そうなると、最終的に「仁――!!」と叫びたくなってしまうのだ。仁が何をしたというんだ!…と言うと色々やっちゃってるので何とも言えないが、推しを擁護している時のオタクに理屈は通じない。

そしてその時気づいた、こういう時のための応援上映だと。不幸にも私が見たのは応援上映ではなかったのだが、応援上演ならば、推しがどんな目に遭おうとも「俺だけはお前の味方だ」と、声に出して相手に伝えられる。素晴らしいシステムである。

すでに都合15兆回は見る予定にはなっているが、まず一刻も早く仁を応援しに行かなければならない。

前作では文化のために続いて欲しいと思ったが、今回は仁をこのままにしないでくれという気持ちで続編を望む。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。