日立製作所は6月26日、AI(人工知能)とウェアラブル技術を用いて組織の幸福感を計測する技術について、同社グループ内の営業部門26部署約600人を対象に行った実証実験の結果を発表した。

ウェアラブル技術と組織の幸福感を計測する技術とは?

説明会において、日立製作所 研究開発グループ 技師長の矢野和男氏は初めに「われわれは14年ほど前から、人や組織の活性度、幸福感、生産性の関係性に着目し、研究を重ねてきた。2015年に、名札型ウェアラブルセンサーと人工知能『Hitachi AI Technology/H』を活用することで、組織活性度を計測・分析する技術を開発し、既に20社を超える組織にサービスを提供している」と語った。

日立製作所 研究開発グループ 技師長 矢野和男氏

2016年6月には、Hitachi AI Technology/Hを活用して働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを自動作成する技術を開発したことを発表。

同技術は、個人の大量の行動データを名札型ウェアラブルセンサーから取得し、「Hitachi AI Technology/H」で分析して、各利用者に対し、職場でのコミュニケーションや時間の使い方などの組織活性度の向上につながる行動に関するアドバイスを自動的に作成および配信するもの。利用者は、スマートフォンやタブレット端末から日々のアドバイスを確認して活用することが可能。

同社は、組織の幸福感(ハピネス度)を「組織活性度」と定義している。同技術は、個人の「ハピネス度」ではなく、本人とその人が関わる周りのメンバーの平均ハピネス度を計測し、平均ハピネス度向上に有効な個人の行動に関するアドバイスを自動で作成する。

システムの概要

名札型ウェアラブルセンサーによる計測技術の概要

矢野氏は「7社、10組織、468人、5000人日、50億点の計測データと幸福感に関する20の質問から、組織活性度の定量化を行った。人間には無意識に身体が静止している時間がある。『静止せずに動き続ける時間』の多様性とばらつきが大きな組織ほど幸福感が高く、一方、多様性とばらつきが小さな組織ほど幸福感が低いことがわかった」と説明した。

また、「集団の幸福感は定量化できるが、どうやって幸福感を高めることができるかは個人によって異なる。だから、個人のデータを基に分析を行ってアドバイスを送る」という。

「組織活性度」(組織のハピネス度)を評価する仕組み

同技術の発表に合わせて、日立グループの営業部門の人財約600人を対象に実証実験を開始したことも発表され、今回その結果の発表が行われたことになる。

組織の幸福感が上昇した部署の受注額が平均より11%上回る

同技術を活用したサービスは既に提供されているが、実証実験では新たにアプリが導入された。同アプリは、名札型センサーが取得したデータを可視化するほか、AIにより「出社・退社時刻」「会議の長さや人数」「デスクワークの仕方」についてアドバイスが自動で表示される。

例えば、「タイプ診断」では、「午後に会話をするとハピネスが高くなるタイプ」「午前中のデスクワークでハピネスが高くなるタイプ」「会議が多い日のほうがハピネスが高くなるタイプ」といったタイプを提示してくれる。

また、「今日のおすすめ」では、「デスクワークに集中できる環境を作りましょう」「〇〇さんといつもより多めに話してみましょう」「テンポよく仕事をこなすことを意識してみましょう」といったその日のアドバイスをくれる。

アプリケーション画面例

働き方のアドバイスの例

矢野氏は今回の実証実験で得られた結果として、3つの事象を紹介した。

1つ目は「働き方アドバイス」による働き方の改善と組織活性度の向上が確認されたことだ。アプリの利用時間が長い部署ほど、翌月の組織活性度の増加量が多いことが明らかになったという。

2つ目は「組織活性度と受注達成率の相関性」が確認されたことだ。営業部門において、組織活性度の変化量と翌四半期の受注達成率が有意に相関することが明らかになったという。

具体的には、組織活性度が上昇した部署では翌四半期(10月~12月)の受注額が目標より平均11%上回った一方、組織活性度が下降した部署では平均16%下回り、両者では27%の業績差が出たそうだ。

矢野氏は「これまで、コールセンターなど、その日の業務がその日に業績に結び付く業務において、この技術が有効であることは確認できていた。今回、法人営業というその日の業務の成果が四半期先などに出る業務においても相関性が確認されたことは意義がある」と述べた。

3つ目は、「組織活性度と従業員満足度の関連性」が確認されたことだ。同実証実験で取得したデータを、日立グループの従業員満足度調査の結果と組み合わせて分析することにより、働きがいのある職場づくりに重要な項目を特定できることが明らかになったという。

具体的には、組織活性度が高い部署では、自身の「意思決定や権限委譲」と「挑戦意欲」に関する項目について前向きな回答をしていることが確認されたとしている。また、名札型ウェアラブルセンサーで計測した対面コミュニケーション中の双方向の会話比率が高い部署ほど、従業員が「上司からのサポートを実感し、やりがいを持ち、質の高い仕事に取り組んでいる」と回答していることも確認されたという。

これらの結果から、個人の「意思決定や権限委譲」「挑戦意欲」を重視した人財育成や評価などの制度設計や、双方向コミュニケーションを重視した組織文化づくりが、今回対象とした営業部門においては、組織活性度を高め、業績向上に有効であることが考察できるとしている。

矢野氏は今後の展開として、「今回アプリを開発したことで、アドバイスといったアクションに関する機能をスケールできるようになった。これにより、サービスとして展開しやすくなり、幅広い人に提供できるようになった。今後は、協力いただける企業で実証実験を行いたい」と語った。