【レポート】

格安ロケットひしめく2020年代、業界の雄「アリアンスペース」はどう戦うか

1 開発進む次世代ロケット - 現行機からコスト半減、能力と信頼性は維持

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フランスのロケット運用会社アリアンスペースは4月20日、同社CEOのステファン・イズラエル氏が来日したのに合わせ、都内のホテルで記者会見を開催した。

同社は1980年の設立以来、欧州共同開発の「アリアン」ロケットを中心に、大・中・小のさまざまなロケットの運用を担い、欧州内の政府系衛星の打ち上げと、そして米国や日本など他国を含む、数多くの衛星通信会社の衛星の打ち上げをこなし続けてきた。現在は大型の「アリアン5」ロケットを駆り、静止商業衛星の打ち上げ市場でシェアの半分以上を握っている。そして2020年の初打ち上げを目指し、新型の「アリアン6」ロケットの開発も進めている。

一方、イーロン・マスク氏率いる米国のスペースXは、ロケットの再使用によって打ち上げコストと価格を大幅に低減しようとしている。スペースX以外にもブルー・オリジンが同じく再使用で低価格なロケットを提供しようとしており、さらに中国やロシア、そして日本も新型ロケットを投入するなど、2020年代はこれまで以上に多くの種類、そして低価格なロケットがひしめき合う時代になろうとしている。

はたして業界の雄であるアリアンスペースは、この2020年代をどのように戦い抜こうと考えているのだろうか。

アリアン6ロケットの模型の前で写真撮影に応じる会見の登壇者。ステファン・イズラエルCEO(中央)、ジャック・ブルトン取締役営業担当上級副社長(右)、高松聖司・東京事務所代表(左)

欧州が開発中の次世代主力ロケット「アリアン6」 (C) ESA

アリアンスペース

アリアンスペースは、欧州宇宙機関(ESA)が開発した「アリアン」ロケットを運用する会社として、1980年に設立された。これまでに500機を超える人工衛星を打ち上げた実績をもつ。

同社は現在、大型ロケットの「アリアン5」と、ロシアから輸入した中型ロケット「ソユーズ」、そして小型の固体ロケット「ヴェガ」の、3種類のロケットを運用している。中でも主力となっているのはアリアン5で、毎年6機ほどのペースで打ち上げが行われており、さらに2002年以来、77機連続で成功を続けている。回数そのものは少ないものの、アリアン5はその強大な打ち上げ能力を活かして、衛星を2機同時に打ち上げることができるため、衛星の打ち上げ数で見ればその2倍近くになる。

そのため、アリアン5は世界中のロケットの中で最も信頼性が高いという評価を得ており、通信衛星や放送衛星など静止商業衛星の打ち上げ市場では、半分以上のシェアを握っている。

アリアン5の製造を担当しているのは「エアバス・サフラン・ローンチャーズ(ASL)」という別の会社である。同社は、旅客機などでもおなじみのエアバスと、エンジン・メーカーとして有名なサフランとが、2015年に半々の出資で設立したジョイント・ベンチャーで、現在アリアンスペースはその子会社にもなっている。

ASLは現在、アリアン5の製造を続けるかたわら、その後を継ぐ新型ロケット「アリアン6」の開発も進めている。またアリアンスペースも、ASLの子会社という立場から、またこれまでのアリアン・ロケットの販売と運用の実績から、その開発に深く関与している。

会見するアリアンスペースのステファン・イズラエルCEO

アリアンスペース、そして欧州の主力ロケット「アリアン5」 (C) ESA

次世代ロケット「アリアン6」

アリアン6はアリアン5、そしてソユーズの後継機となるロケットで、現在2020年の初打ち上げが予定されている。

アリアン6には「アリアン62」と「アリアン64」の2種類が用意され、両者の違いは、62は固体ロケット・ブースターを2基、64は4基もっているということだけで、62は中型、大型の衛星を1機のみ、64はアリアン5と同じように、衛星を2機同時に打ち上げることができる。

つまり、アリアン62は中型ロケット、アリアン64はアリアン5をやや上回る打ち上げ能力をもつ大型ロケットという位置づけとなり、これにより欧州の政府系衛星から世界各国の民間企業の衛星まで、あらゆる需要に柔軟に応えられるようになっている。

アリアン6は、ロケットそのものだけ見ると、それほど目新しい部分はない。たとえば第1段エンジンの「ヴァルカン2.1」は、現在のアリアン5が使っているヴァルカン2の改良型であるし、第2段エンジンの「ヴィンチ」も、もともとアリアン5の改良型で使うために開発されたものを使う。

また、ESAはヴェガの改良型として「ヴェガC」の開発も進めているが、このヴェガCの第1段と、アリアン6の固体ロケット・ブースターは共通のものが使われる。つまり大量生産によるコストダウンが見込める上に、ヴェガCの初打ち上げはアリアン6より1年早い2019年に予定されているため、アリアン6が打ち上げられるころには、その固体ロケット・ブースターはすでに"飛行実証済み"ということになる。

「アリアン62」(左)と「アリアン64」(右)の想像図。アリアン62は中型ロケット、アリアン64はアリアン5をやや上回る打ち上げ能力をもつ大型ロケットという位置づけになる (C) ESA

欧州は同時に小型ロケット「ヴェガ」の改良型「ヴェガC」の開発も進めている。ヴェガCの第1段は、アリアン6のブースターと共通化される (C) ESA

アリアン6の打ち上げ価格、打ち上げコストの詳しい数字は明らかにされていないが、コストは現行のアリアン5の半額になる見込みだという。SpaceNews紙によると、アリアン5は約1億5000万ユーロで販売されているため、コストをその60%とすると9000万ユーロ。アリアン64のコストをその半分とすると4500万ユーロになる。そこに、アリアン5と同じ利益を出すため6000万ユーロを乗せた場合、アリアン64の価格は1億500万ユーロ(最近の為替レートで約127億円)ということになる。

一方、イーロン・マスク氏率いる米国のスペースXは、ロケットの再使用によって打ち上げコストと価格を大幅に低減しようとしている。ファルコン9は現時点で公称価格は6200万ドル(約69億円)であり、さらに機体を再使用することで10%程度の割引が可能だと明らかにしており、アリアン6が登場する2020年ごろには、6000万ドル前後にまでなっている可能性はある。

単にロケットそのものの価格だけみると、アリアン64はファルコン9より高価なものの、前述のようにアリアン64は衛星の2機同時打ち上げが可能なので、顧客が支払う価格はそれを分けたものになる。つまり価格的には、十分勝負ができる範囲にある。

しかし、アリアン6はファルコン9のように機体を再使用することはできない。エンジンなども前述のように新しいところはない。にもかかわらず、なぜ、これほどまで安価にできるというのだろうか。

「よく『アリアン6はいったいどこが新技術なの? エンジンも機体も、アリアン5と同じでしょう?』と聞かれます。そんなとき、私たちはこう答えるんです。『ロケットを造る体制を新しくしたこと、それこそが新技術なのだ』と」。

アリアンスペース東京事務所代表の高松聖司(たかまつ・きよし)氏はこう語る。この狐につままれたように思える言葉こそ、アリアン6の開発に欧州がかける意気込みと、そしてコストを半減できる理由を端的に表した言葉でもある。

会見するアリアンスペース東京事務所代表の高松聖司氏

アリアン6はアリアン5の能力と信頼性は維持しつつ、コスト半減に挑む (C) ASL

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インデックス

目次
(1) 開発進む次世代ロケット - 現行機からコスト半減、能力と信頼性は維持
(2) 高い打ち上げ能力と信頼性、そして隠し持った"プロメテウスの火"を武器に
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