既報のとおり、独シーメンスはEDAベンダのMentor Graphicsを買収することを11月に発表した。シーメンスはPLMソフトウェア事業部(いわゆるシーメンスPLMソフトウェア)を有しており、Mentorはここに組み込まれることとなる。シーメンスがMentorを買収する意図はどこにあるのか、シーメンスPLMならびにメンターのこれまでの動きから推測したい。

まず前提条件となるのが、自動車をはじめとするメカトロニクスがエレクトロニクスによって制御される、というメカエレ連携を前提として考える必要が近年、高まってきており、この対応の強化をシーメンスPLMでも事あるごとに語ってきたという点。そうした流れを受けて、MCADは自社でECADはパートナーで、という関係性を続けてきた経緯があるが、半導体の高機能化を背景に進むエレクトロニクスの多機能化、複雑化に、こうした姿勢での取り組みでは限界が見え、新たな段階に踏み込む必要性があったと考えられる。

シーメンスPLMソフトウェアにてシミュレーションおよびテストソリューション担当シニア・バイスプレジデントを務めるヤン・ルリダン氏

買収発表直後に、シーメンスPLMソフトウェアにてシミュレーションおよびテストソリューション担当シニア・バイスプレジデントを務めるヤン・ルリダン氏と話す機会をいただいたのだが、その際に同氏は、自動車を例に挙げて、「自動運転を実現しようとすれば、通信インフラとのやり取りや車車間通信を実現する必要が出てきて、自動車1台のみで開発が終わる、ということがなくなった」と語っていた。一方、Mentorは津田氏によるカーエレクトロニクスの連載(第94回第95回)でも触れているように、自動車向けブランドを立ち上げ、近年、半導体の搭載比率が高まる、つまりエレクトロニクス化が進む自動車のさまざまなレイヤに向けたソリューションを展開してきていた。

こうした両社の動きを踏まえれば、ある意味、必然とも言える買収劇だったととらえることができる。「Mentor Graphicsの買収により、EDAがMDA(メカニカルデザインオートメーション)に統合されることになる。これは顧客にとっても重要な意味を持つ。すべてのコンポーネントに制御系や電気電子系のシステムが入るようになっているためだ」とルリダン氏は述べており、シーメンスPLMにとっても、この買収が次のステップに進むための非常に重要な位置づけにあることを示していた。

具体的に、どのような取り込まれ方をしていくのか、というと、公にされていないため、あくまで推論であるが、シーメンスは2012年にLMS、2016年にCD-adapcoを買収しており、それらを「Simcenterソリューション」として包括して提供することを進めている。「さまざまなアプリとPLMをつなぐことで、検証の妥当性を確認できるようになるほか、すべての情報をコンテキストの中に埋め込むことができるようになる。その結果、製品情報にテスト結果を反映させたり、そこからテストをどうするべきかを定義したりできるようになる」(同)というのが、Simcenterの特徴であり、これにより、1Dシミュレーション、3Dシミュレーション、テスト、CFDといった連携を可能としているほか、個々のアプリを単体で用いる以上の性能を発揮できるようにしているという。こうした取り組みに向けて、補完性があるのがMentorのソリューションであり、これらを組み合わせることで、これまで以上のメカエレ連携に対する取り組みができるようになる可能性が出てくることが考えられる。

もちろん、どのような形で最終的に顧客に向けてソリューションが提供されていくことになるのかについては、まだ不透明だ。しかし、これまでの両社の取り組み、そして世の中の潮流である留まるところを知らないエレクトロニクス化を踏まえれば、この買収はメカトロニクス業界、エレクトロニクス業界に対して、よりポジティブな要素を届けるものとなることが期待される。

2016年11月29日ならびに同12月1日に日本で開催されたメンター・グラフィックス・ジャパン主催の「IESF 2016 Japan」の基調講演にて、Mentorが用いたスライド。IESF自体はグローバルイベントで、シーメンスの買収発表以前より開催されてきたものだが、メカトロニクスとエレクトロニクスをいかに融合させるか、という点で両社はアプローチやスタンスは異なるが、かなり近しい認識を有していることが見て取れる内容であった