【連載】

カーエレクトロニクスの進化と未来

94 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(前編)

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半導体設計ツールのEDA(自動電子設計)ベンダであり、最近は組み込み系設計ツールにも進出しているMentor Graphicsが、「Mentor Automotive」という新ブランドを全面的に押し出してきた。EDA、組み込み、そしてカーエレクトロニクスへと手を広げるMentorの戦略を2回にわたって紹介する。

図1 Mentor Graphics Automotive Marketing担当ディレクタのAndrew MacLeod氏

Mentorは実は25年間にわたって自動車エレクトロニクスに取り組んできた。そのため、自動車分野は同社にとって新しい市場というわけではないが、ここ最近はMentor Automotiveブランドを掲げ、クルマに押し寄せているデジタル化の波、コネクテッドカー、自動運転、電動化(EV化)、スマートシティといったトレンドのけん引を図っている。クルマにとってのスマートシティは、「クルマと通信する道路情報や駐車場情報など交通問題のすべてを解決するテーマ」、と同社Automotive Marketing担当ディレクタのAndrew MacLeod氏(図1)は定義する。

コネクテッドカーのインパクト

これらはITの進展というメガトレンドと歩調を合わせている。かつての自動車産業はOEM(自動車メーカー)、ティア1と呼ばれるECU(電子制御ユニット)などのクルマ部品メーカー(デンソーなど)。さらに半導体メーカーのような電子部品のティア2などで成り立っていた。ここにさまざまな業種が参入してきた。2016年2月のMobile World Congressでは欧州の自動車工業会と通信工業会がコネクテッドカー/自動運転で提携したように(参考資料1)、通信オペレータが参入し、さらにEricssonや華為技術などの通信機器メーカーや、Amazonなどのクラウドコンピューティング、ビッグデータ解析、AppleやGoogleのような民生企業でさえクルマに押し寄せてきた。

市場調査会社Boston Consultingによると、革新的な企業トップ10の内、9社が自動車関連の企業であり、この中にトヨタ自動車工業やBMWはもちろん、AmazonやGoogleなども入っている。15年前に同じ調査しても自動車関連企業は1社も入っていなかったとしている。Mentorはこれをニューサプライチェーンと呼んでいる。最近の投資先は自動運転技術が多く、2016年の第1四半期にはセルラーの加入者の1/3がコネクテッドカーだったという。次のトレンドはビッグデータだとして、データ解析だけではなく、運転行動や、運転手の生体情報などを集め、コネクティングサービスを提供するという。

図2 コネクテッドカーが急増 (出典:Business Insider/Mentor Graphics)

Mentorは、採用が加速している3つのクルマ技術に注目している。1つは、組み込みコネクティビティ(図2)。2024年に発売されるクルマの90%に通信機能が装着されると予測されており、クルマとセルラーネットワークが接続する。2番目はADASおよび自動運転である。ここでは非常にたくさんのデータが集まり、しかも急増している。その結果、2020年には250億ドルの市場に膨れ上がるという。3つ目の電動化ではTeslaなどEVメーカーの増加だけではなく、充電ステーションの設置などのインフラにも投資が必要となる。2040年には発売される新車の35%がEVになると予想されている(図3)。

図3 クルマの電動化は進む。2040年にはすべての新車の35%がEVに (出典:Mentor/Bloomberg)

EV化に向けてエレクトロニクス化はさらに進む。すでにラグジュアリクラスのクルマではソフトウェアのプログラム行数が1億行にも達しているという(図4)。自動車に占めるエレクトロニクスの割合が急速に増えて複雑化していることに起因する。クルマのソフトウェア行数は、スマートフォンのOSの1200万行やF-35ジェット戦闘機の2500万行と比べても何倍も多い。MacLeod氏は「私たちは、いまだに自動運転のソフトウェアもV2Vコネクテッドカーのソフトウェアの完成版を知りません。基本的に非常に複雑だからです」と述べており、ソフトウェアは今後も増えていきそうだ。

図4 クルマのソフトウェアに関するコードの行数が最も多い (出典:Mentor Graphics)

クルマの複雑化をアーキテクチャから解く

これらのコネクティビティ、自動運転化、電動化に加え、クルマ全体のアーキテクチャも重要になるとする(図5)。システムのアーキテクチャは電動化とも深く関係する。ベンツクラスの高級車だと、144個ものECUが搭載されているという。これまではダッシュボードやエンジンルームに搭載していてもそれぞれ独立に動作していて、互いに通信し合うことはなかった。ところが今は各ECUが互いに通信し合うようになっている。そこで、シミュレーションして合成する能力がシステムレベルで必要となってくる。これをMentorはクルマの「System of Systems」と呼び、多数のシステムの中のシステム同士の通信と考えている。

図5 Mentor Automotiveが掲げる4つのテーマ

さらに、ECU同士をつなぐワイヤハーネスや熱の問題が生じ、1つの問題をクリアしても次々と問題が生じる。System of Systemsを、ツールを使ってそれぞれの問題を理解し、システム的なソリューションをMentorはクルマメーカーに提案しているという。

参考資料

  1. Automotive and Telecom Industries Set Joint Priorities for Connected and Automated Cars, ACEA press release, (2016/02/22)

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インデックス

連載目次
第102回 自動車産業の構造変化を見逃さずコネクテッドカーに注力するWind River
第101回 レベル5の自動運転に対応した設計ツール - メンターが提供を開始
第100回 ADAS/自動運転車の開発・検証するMathWorksのプラットフォーム
第99回 燃料電池の劣化を短時間で検出するインピーダンス法を開発
第98回 EVのバッテリマネージメントICを無線でつなぐ
第97回 進化するEV向けワイヤレス給電技術
第96回 ポルシェの新型パナメーラはコネクテッドカー
第95回 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(後編)
第94回 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(前編)
第93回 コネクテッドカー時代に不可欠なセキュリティチップをInfineonが開発中
第92回 自動運転に向けてAI利用を進めるNVIDIA
第91回 冗長構成に向いたARMのCortex-R52安全管理プロセッサ
第90回 GNSS+GPSの測位チップで、測位精度を向上させたu-blox
第89回 ADAS/自動運転のシミュレーションデータからビッグデータ解析まで可能に
第88回 酔っ払い運転をテクノロジーで防ぐ
第87回 クルマにも大容量ストレージが搭載される時代が到来
第86回 ゴムまりのようなタイヤのコンセプトカーをGoodyearが提案
第85回 車内での音声認識を確実にするNuanceの騒音抑制技術
第84回 ルネサスのクルマ用半導体の戦略と戦術(後編)
第83回 ルネサスのクルマ用半導体の戦略と戦術(前編)
第82回 クルマの全体最適化を容易にするメンターのソフトウェア
第81回 クルマのコンピューティング機能を高めたR-Carシリーズの狙い
第80回 衝突防止レーダー時代が到来
第79回 東京モーターショーで高成長を確信したクルマ用半導体の未来
第78回 ビデオと音声を同期しながらEthernetで通信できる - Connected OSの背景
第77回 ルネサスのV2Xチップ、欧米で実証実験
第76回 ビデオ映像を1ms以下の遅延でイーサネット伝送できるルネサスのSoC
第75回 自動運転のクルマを目指し、さまざまな手を打つZMP
第74回 どっこい、鉛蓄電池も進化する
第73回 ADASの進化にはプログラマブルSoCで対応
第72回 クルマのナンバープレートが消える日
第71回 Infineon、HEV/EV用のIGBTモジュールの次世代版を開発中
第70回 車内ワイヤレスネットワークによりハーネス除去を目指す英国ベンチャー
第69回 クルマの安全性向上と共に増えるFPGAの実装
第68回 ルネサス、ソリューション提案を本格化-未来のクルマのロードマップを示す
第67回 コネクテッドカーをよりセキュアにするNXP
第66回 ルネサスの制御マイコンRH850はソフト開発の負担を軽減
第65回 欧州のクリーン化で世界を攻めるInfineon
第64回 画像合成・認識・視点変換・座標変換を搭載したADASチップをルネサスが実現
第63回 クルマ用組み込みシステムのすべてを設計できるMentorのツール
第62回 後発組としてニッチを狙うMaxim
第61回 新自動車用マイコン「Traveo」で富士通の強みを発揮するSpansion
第60回 トヨタグループが開発を進めるSiCパワー半導体とは何か?
第59回 小型モータ駆動用のパワー半導体に特化するON Semiconductor
第58回 ダイナミックレンジ120dBの1280×1080画素CMOSセンサチップ - OmniVision
第57回 カメラの映像処理がクルマの安全技術を握る
第56回 SIM-Driveが研究開発から実用化フェーズにギアチェンジ
第55回 プラグインハイブリッドに有利な欧州のCO2規制
第54回 Maxim、カーエレを市場/製品/製造/品質/供給の各戦略から攻め切る
第53回 車車間、車路間通信規格802.11pチップをNXPがSDRで実現
第52回 ボディ制御ECUをハード/ソフト同時設計できるツール - ルネサスとSynopsys
第51回 バッテリ状態をスマホで可視化できるユニットをパナソニックが発売
第50回 携帯電話で培った低消費電力とエコシステムを生かすARMのCPUコア
第49回 FSL、外から360度クルマが見える映像を合成するチップを開発
第48回 加速感を重視したスポーツカー仕様のSIM-Driveの第3号車
第47回 カーエレの頭脳から近未来のクルマを予測する
第46回 ニッケル水素電池でアイドリングストップの回生エネルギー能力を引き出す
第45回 APEV、EVプラットフォーム戦略をベースに学生向けデザインコンテストを開始
第44回 カーレースのデータを次世代安全システムに生かすフリースケール
第43回 通信ネットワークのクルマ応用を推進するNXP
第42回 鉛蓄電池を大事に使おう
第41回 メルセデス・ベンツのクルマに見る衝突防止システム
第40回 シャーシの基本設計を見直し、480kmの走行距離を実現したTeslaの新型EV
第39回 海外企業としてはじめてデンソーから技術開発賞を受賞したInfineon
第38回 専用チップにより一段と高まるクルマの音声認識レベル
第37回 富士通がカーエレのソリューションビジネスに本格参入を宣言
第36回 e-Summit 2012 - ADASに参入するEDA/通信半導体/FPGAの各企業の戦略(後編)
第35回 e-Summit 2012 - ADASに参入するEDA/通信半導体/FPGAの各企業の戦略(前編)
第34回 クルマ用のイーサネット規格は安全性見地から標準化と相互運用性で
第33回 居住性追求もやはり"燃費"が良いインホイールモータ - SIM-Driveの第2号車
第32回 小さなモータ駆動用マイコンで大きな自動車市場を攻めるFreescale
第31回 インホイールモータ応用を狙うSiCインバータを三菱電機が開発
第30回 エネルギーハーベスティングによるタイヤ空気圧モニタリングシステム -IMEC
第29回 モータ駆動用インバータを1/10に小型化できるSiCトランジスタ
第28回 インホイール・モーター車の実用化を早めるSIM-DriveとDassaultの提携
第27回 ソフトウェア無線技術を生かしカーワイヤレス分野を着実に伸ばすNXP
第26回 中国BYD、独自のトップダウン式垂直統合システムで急成長
第25回 携帯端末用マルチプロセッサ、カーインフォテイメントにも威力を発揮
第24回 車載用SoCをハイエンドからローエンドまで広くカバーするルネサス
第23回 ルネサス、車載向け「V850」マイコンシリーズが90nmを採用し第4世代に突入
第22回 クルマのインテリアデザインの革命児になるか、有機ELライティング
第21回 電気自動車普及協議会が設立 - 注意すべき点はEVのガラパゴス化
第20回 電気自動車とスマートグリッド構築の実験をナノオプトが開始
第19回 トヨタと米電気自動車ベンチャーの提携の先にあるもの
第18回 エンタメ系半導体でシェアをじわじわ獲得 - NXPがソフトウェア無線を推進
第17回 クルマの中でもホームエンタテインメントと同じ環境を構築 - Roviの戦略
第16回 電気自動車はクルマのデザインを見直す時代に - 差別化はデザインで
第15回 EVの航続距離を伸ばすインホイール・モーター技術 - SIM-Driveが開発を加速
第14回 Freescale、SiGeのBiCMOSプロセスで77GHzのミリ波レーダーを開発
第13回 エコブームに乗り電気自動車が相次いで発売される
第12回 より大容量のリチウムイオン電池開発を極秘に進める自動車メーカー
第11回 電気自動車のエンジンはずばりリチウムイオン電池だが、充電方法にも大革命
第10回 電気自動車に向くモーター駆動用パワーデバイスはSiのIGBTか、SiCのFETか
第9回 電気自動車の実用化に向け、その問題点と解決策を探る
第8回 パッケージの上からチップIDがわかるX線装置と記録インクを東レが開発
第7回 半導体の産地偽装に対処する強い味方、チップやECUのトレーサビリティ
第6回 カーナビ用OSにHMIツールなどを付加 - 進化を続けるMicrosoftのクルマ戦略
第5回 ハイブリッドカー専用のパワーモジュール - Infineonが開発中、150℃保証
第4回 画像認識プロセッサの品種拡大で最高車種から低価格車種まで狙うNECエレ
第3回 "より安全に"を加速するFreescale - 横滑り防止にはセンサで対応
第2回 最先端65nm技術を使ったルネサスの車載半導体から見える自動車の近未来
第1回 エレクトロニクス化をひたすらつっ走る自動車

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