小規模なユーザーからエンタープライズの中のワークグループに適したツールとして、幅広い業態で利用されているデータベースソフトウエア「FileMaker」。マイナビニュースでもこれまで、さまざまな導入事例を紹介してきたが、今回は、1988年に創立したセレクトショップ、ネペンテスのバイヤーである片庭秀幸氏にお話を伺った。

今回取材させていただいのは、青山のネペンテスが展開するブランド/ショップ「Engineered Garments

ネペンテスは、1988年に創立したセレクトショップだ。東京とニューヨークを拠点とし、世界中から厳選されたアイテムの販売を行っている。今回ご登場いただいたのは、バイヤーを務める片庭秀幸氏だ。FileMakerを導入したのは、実に17年も前のことだという。

ネペンテスのバイヤー・片庭秀幸氏

片庭 ENGINEERED GARMENTSのデザイナーでNEPENTHES AMERICA代表の鈴木(大器)がもっと前から使ってて、プロダクトカタログみたいなのを最初作ろうってことでというのがスタートですね。Mavicaっていうソニーのフロッピーディスクカメラで撮影をして、データを取り込んで作ってました。そこからどんどん派生していって、社内のネットワークとかデータ管理なんかも全部やるようになりました。長い道のりですね(笑)。FileMaker自体には20年近く前に出会ってはいるんですよ。たぶんその頃ってまだ住所録くらいの機能しかなかった。その住所録を鈴木がアメリカで使っていて、で、あとはファックスをそれで送っていた。当時、電話回線からMacで送る形式があってそれでやっていて、ああ便利だなと。それが最初だったと記憶してます。

--相当気合の入ったユーザーであることが、これだけで分った。17年の間に使い方も変わってきているとは思うが……。

片庭 そのころはサンフランシスコのデザイナーとやりとりしてて、そこの連中はなんでもIllustratorでやるんですが、そういうのいろいろ見てたりとかしていて、国内の工場への指図書というか、製図みたいなもんですよね、そういうものもIllustratorで僕が書いたりしてたのですが、もう一時期はIllustratorとFileMakerしか使ってなかったですね。Macintosh G3時代。まあ、プロダクターカタログっていうのはこういう感じなんですけど、写真が入ってて、そこにプロダクト情報が全部入っている。今はこれで原価管理、在庫管理、メーカーへの発注なども含めて、全部にここから派生している格好ですね。それの原版を17年前くらいに鈴木が作って、そこに僕が付け足したり、集計用のファイルにディレーションつけたりとかして、そこらスクリプト入れてみたりとか。今はクラウドにして、他店舗や地域店舗でもブラウザから入れるようにしてます。

--ブラウザから入れるようにしたのは、操作できない人にはなんだか全然わからないので、その敷居を低くするためだという。知らなくていいものは知らなくていいというスタンスらしく、仕組みより、よりポップにできることのほうが重要だとのことだ。現在の形の運用になってからは3年になるという。

片庭 それまでは、たとえば他店舗でこの在庫があるかどうか調べるには、電話して、とことん電話してという感じでした。お客さん待たせてしまうこともままありましたね。それぞれのMacではFileMaker入れて打ち込みはしていましたが、それが共有化されていなかったので、自店の在庫はわかるが他店のことはわからなかったんです。どうせ打ち込むならっていうところで今の形になったのが3年前です。導入以前はお客様対応がスムーズとは言えなかった、そういう問題がありました。今はアタリがつけられて、その上で確認くらい。本当にあるよね?っていう確認くらいで済む状態です。

店舗をまたいだ在庫確認がFileMaker Go上で可能になり、お客様対応がよりスムーズになったという

--また、これまでは仕入れのプロセスはバイヤーの勘に頼る部分があったが、データ情報を盛り込むことにより、判断材料が増えたと話す。筆者のアパレル業界のイメージだと、紙に注文がいくつ入って、在庫がいくつあってというのを書き込んでというのがあるのだが。

片庭 紙で残す部分と残さない部分と。たとえばチェックしていくものなんかは、紙のほうが早いですし、一覧性が高いんですね。なのでそれは紙でやってます。日計表とかレポートものは全部PDFでそのまんまメールで送っていて紙で残してないですね。最終的に税務上、紙にしないと……みたいなのがあるので、他の担当者が一カ月分まとめてプリントアウトしてファイルして保管みたいな感じです。なので、いちいち毎日出してパンチングして、というものはやっていないです。なぜかっていうと、メール送った段階でバックアップがあるので。誰かのPCにPDFあるので、紙で残す必要ないんです。アパレルは、サイズが多くて、色が多くて、毎シーズン変わって……なので、ものすごい情報量なんです。これのクラウド化をお願いするときも、こんなに項目あるんですかと言われる(笑)。それが毎シーズン増えていくのをデータ処理しなきゃいけないので、更新のときは要る・要らないをサーバの負担上してください、とお願いされたときは、あらためて特殊だなと思いましたよね。

--FileMakerの魅力は、どのようなところにあるのだろう。

片庭 拡散の仕方がデータ1個からの拡張と、他のアプリケーションよりは圧倒的にすごい、いいですよね。僕はExcelも使うんですが、やはり感覚的にはFileMakerのほうが、これとこれが繋がってという図式で見えていて、イメージというか、こう、形になりやすいっていう感じです。リレーションだったり、ブロックを組み合わせるような感覚が、それが多分、専用ソフトとかになると大変なコストと時間と精度が必要となると思うのですが、それが要らないのが当社で導入できた部分かなと。さっきも言いましたけど、ポップさというかそういのが可能なソフトだと思うのですよね。

--20年くらい前のアパレル業界というと、Webサイトを作ることにも躊躇いがあったと認識している。そういうことに興味がないかと訊くと「パクられるから嫌だ」という答えが返ってくることも。それくらいITには興味がない人が多い業界だと思っていたので、ネペンテスのアプローチは、正直、不思議に感じられる。

片庭 SNSが脅威的すぎて、たぶん、パクリがどうのって言ってらんないんですよね、あんまり。20年前はそうだったかもしれませんけど。FileMakerについて言うと、さっきも指摘しましたけど、拡散の仕方とかデュプリケートとかそういうものはアパレルには向いてると思うんですよ。これの色違いといったらデュプリケートしてカラーだけ変えればいい。Excelで同じことやるとなるとビューっと引っ張ってコピーしてというそのアクションが多いと思います。FileMakerのほうがデュプリケートのときのアレンジ速度が、凄く速い。それがアパレル向きなんですね。だいたい1シーズンで色番含めて800品番くらいはあるので、それをやっぱり全部デュプリケートとか、リストにする、タグにするっていうのやってくと恐らくExcelでは無理。あと既成のものだと、このタックシール用紙を買ってくれとかパッケージ売りがありますよね。CPが低いですよ。

見た目ポップなユーザーインタフェースを作れるので、それまで触ったことのないスタッフでも、とっつきやすくすぐ使えるようになるとのこと

--バイヤーという仕事の仕方も変わっているように思える。

片庭 そうですね、デジカメ持っていく人が殆どいなくなってる。みんなiPadで撮ってますね。いちいち取り込まなくていいじゃないですか、デジカメのように。iPadだったらスライドで見ていったりといったことがすぐできる。iTunes、iPhone、iPadの激震って、つなぐと全部リンクされてるところ。落とすっていう感覚がないところですよね。

--今後FileMakerに期待することを聞いてみると。

片庭 Bentoを復活してほしいです。なんであれやめたのか聞いてみたいのと、あとは、なんかこう、丸友青果さんみたいな感じで、ジャンル別にもっとイージーオーダーソフトみたいなの出してほしいですね、業界用に。Squareとか楽天と提携すれば必ずこういうものって、もっと普及していく場があると思うので。アメリカなんかもフリーマケットとかみんなこれにSquareつけて、誰もキャッシュ持ってないんですよ。みんな1ドルからカードで買ってて。「日本は独特」って言わないで、もう少しFileMakerのソフトが拡張する伸びしろはあるんじゃないかと思うのですよね。Apple Storeのセミナーとかよりも、もっとポップなのやってもいいのかもしれません。イージーパッケージ出すには、やっぱりBentoで、あれをiPadでやればもっといけるんじゃないかと思います。

***

こうしてお話を伺ってみると、筆者がアパレル業界と仕事をしてた20年前とは隔世の感がある。在庫確認や売り上げの管理がスムーズになったのはもちろんだが、接客業において、顧客を待たせないというのは非常に重要なことだ。データが入るようになったことで、より注力したいポイントを強化できるようになったことが分かる。また、これはバイヤーの判断をデータ任せにするということではない。顧客が何を求めているかを知るにはバイヤーのセンスや勘は絶対に必要である。FileMakerはあくまでサポート役として導入されているということなのだ。

アパレルはとにかく在庫の管理が大変なのだが、FileMakerプラットフォームで作成したカスタム Appにより無駄な部分がなくなり、売れ筋も客観的に評価できるようになる。服好きな筆者として、もし、残念な点をひとつだけ挙げるとしたら、何かの間違いで倉庫からひょっこり出てくるデッドストックと出会える機会が激減する、ということだろうか。