2016年の締めくくりとなる秋ドラマ22作が出そろった。リオ五輪の影響をモロに受けた夏ドラマからの巻き返しを図るべく、各局とも本気モード。現在最高のシリーズ作と言える『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系、以下『ドクターX』)をはじめ、男女ともに「これぞ主演」と呼べる人気俳優を配して必勝を期している。

初回視聴率では大方の予想通り『ドクターX』の20.4%が断トツ。2番手に『IQ246~華麗なる事件簿~』(TBS系、以下『IQ246』)の13.1%、3番手に『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系、以下『校閲ガール』)の12.9%が続いた。

一方、テレビウォッチャーの視聴満足度でも『ドクターX』がトップ。『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ系、以下『ラストコップ』)、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)、『砂の塔~知りすぎた隣人』(TBS系、以下『砂の塔』)が続いた。

しかし当然ながら、ドラマの面白さと視聴率、質の高さと満足度は、あくまで別問題。秋ドラマで本当に面白くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今回もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、秋ドラマの傾向とおすすめ作品を挙げていく。

秋ドラマの主な傾向は、[1]各局の戦略が丸かぶり [2]リアリティ無視のお仕事ドラマ [3]シリアスの中で輝く幸福感 の3つ。

傾向[1] 各局の戦略が丸かぶり

『逃げるは恥だが役に立つ』の新垣結衣

今期は各局の狙いが驚くほどかぶった。その筆頭は、変人が主人公の事件解決ドラマ。国民的ドラマ『相棒』のほか、織田裕二が"貴族の末裔"を演じる『IQ246』、阿部寛が"犬並みの嗅覚を持つコンサルタント"を演じる『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK、以下『スニッファー』)、唐沢寿明が"30年間の昏睡から目覚めた時代遅れの刑事"を演じる『ラストコップ』、玉木宏が"ぶらぶら町を歩く警察署長"を演じる『キャリア~掟破りの警察署長』(フジテレビ系、以下『キャリア』)、深夜帯でも柄本佑が"プロ級の料理知識と腕前を持つ刑事"を演じる『コック警部の晩餐会』(TBS系)が放送されている。

2つ目の丸かぶりは、「平日は女優主演、土日は男優主演」という色分け。夏ドラマでもその傾向が見えはじめていたが、今期は約8~9割がこれに該当する形になった。色分けの理由は、平日は「女優主演で、現在のドラマ視聴を支える女性の支持を得よう」、土日は「知名度の高い男優主演で、老若男女すべての関心を誘おう」という意図があるから。

ただし、「平日が女性目線のドラマばかりで、男性が見やすいものが少ない」という弊害があり、目先の数字を求めてこの傾向を加速化させると、ドラマ業界は苦しくなっていくだろう。

『IQ246』(左からディーン・フジオカ、織田裕二、土屋太鳳)

3つ目の丸かぶりは、『逃げ恥』、『校閲ガール』、『ラストコップ』、『IQ246』で、主要キャストが「同じ家に暮らす」という設定がかぶったこと。多くの時間を過ごすことでキャラクターの喜怒哀楽を引き出し、オフの無防備な姿を見せて親近感を生み出そうという意図がうかがえる。

これらの丸かぶりが見られたのは、やはり視聴率狙いによるところが大きい。視聴率がテレビ業界の生命線であるのは言うまでもないが、今秋からタイムシフト視聴率(録画)が導入され、両者を足した総合視聴率が発表されることになった。

これによって、「ドラマは録画されやすいから」という言い訳が通用しなくなり、制作サイドは「リアルタイムで見てもらう」ための工夫と、「録画して見たくなる」ような保存性を共存すべく試行錯誤していて、奇しくも策がかぶってしまったのではないか。

傾向[2] リアリティ無視のお仕事ドラマ

左から『Chef~三ツ星の給食~』の天海祐希、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』の石原さとみ、『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』の吉田羊

今期は、出版社の校閲者が主人公の『校閲ガール』、女性シェフが学校給食に挑む『Chef~三ツ星の給食~』(フジテレビ系、以下『Chef』)、女医チームが原因不明の病に挑む『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』(フジテレビ系関西テレビ、以下『レディ・ダ・ヴィンチ』)、女装した男性が家政夫として働く『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系、以下『ミタゾノ』)など、女性(女装含む)のお仕事ドラマが多い。就職としての契約結婚を描いた『逃げ恥』も実質的には家政婦であり、お仕事ドラマの1つと言っていいだろう。

各作品で職種こそ異なるが、「リアリティよりもエンタメ重視」のスタンスは共通している。『校閲ガール』は、編集に口を出すなどヒロインの越権行為が目立ち、『Chef』は、食中毒、食材費、調理過程などの扱いが非現実的。『レディ・ダ・ヴィンチ』の解析診断部そのものや、病院を出て独自調査するシーン、『ミタゾノ』の違法行為もリアリティに欠けるのは言うまでもない。

この傾向は、「リアリティよりエンタメ」のスタンスで成功を続ける『ドクターX』の影響が大きいのだが、すべてを「ドラマだから」という理由で片付けていいかと言うと疑問が残る。たとえば、『校閲ガール』の校閲者は、まだあまり知られていない職業であるにも関わらず、職域を逸脱した描写が多く視聴者をミスリードしかねない。やはり制作サイドの良識とバランス感覚が求められるだろう。

傾向[3] シリアスの中で輝く幸福感

『逃げるは恥だが役に立つ』(左から星野源、新垣結衣)

今期は『IQ246』、『スニッファー』、『キャリア』、『相棒』などの事件解決モノに加え、『砂の塔』、『レディ・ダ・ヴィンチ』も謎解きを求められ、さらに『石川五右衛門』(テレビ東京系)、『忠臣蔵の恋~四十八番目の忠臣~』(NHK)も含め、シリアスな作品がそろった。

各作品ともに、笑いを誘うシーンを組み込むなど、見やすくするための工夫は見られたが、それでも全体のトーンがシリアスであることは変わらない。そのように秋ドラマ全体が事件の思いムードに覆われる中、視聴者の心をつかんだのが『逃げ恥』。新垣結衣と星野源のキュートさ、悪人のいない安心感、エンディングの"恋ダンス"などのほほえましい世界観で、視聴率以上の反響を呼んでいる。

つまり、「視聴者が支持しているのは、"重厚なストーリー"でも、"痛快なエンタメ"でもなく、"幸福なファンタジー"だった」ということ。たとえば、事件解決モノには、笑いを加えるためのボケとツッコミ役を置いてコントのようなシーンを採り入れているが、『逃げ恥』はボケもツッコミもいない並列の人間関係が築かれている。

今期はシリアスな作品がそろう中、相対的にふわふわとしたファンタジーの評価が上がっているだけなのか。それとも視聴者のニーズとして、新たな潮流になっていくのか。次期以降にも注目していきたい。


これらの傾向を踏まえつつ、今クールのおすすめは、バカリズムの緻密な脚本と女優たちの熱演が冴える『黒い十人の女』(日本テレビ系読売テレビ)と、ほのぼのとしたワントーンで見事にパッケージ化した『逃げるは恥だが役に立つ』の2本。ともに、プロデューサー、脚本家、演出家のセンスと思い切りの良さを随所に感じる。

その他のおすすめは、トレンドに流されずスローテンポに大人の恋を描いた『運命に、似た恋』(NHK)。重厚なのに洒脱さを感じる映像が魅力十分の『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK)。「デカなのか、バカなのか」の一点突破にこだわった『THE LAST COP/ラストコップ』。TVerや各局のオンデマンドなどで、ぜひチェックしてほしい。

おすすめ5作

No.1 黒い十人の女(日本テレビ系読売テレビ 木曜23時59分)
No.2 逃げるは恥だが役に立つ(TBS系 火曜22時)
No.3 運命に、似た恋(NHK 金曜22時)
No.4 スニッファー 嗅覚捜査官(NHK 土曜22時)
No.5  THE LAST COP/ラストコップ(日本テレビ系 土曜21時)

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。