夏になると心配なのがエアコンの電気代だ。「こまめにオン・オフをするより、つけっぱなしにする方が安くつく」という話を聞いたことはないだろうか。幼い頃から「電化製品のつけっぱなしはダメ」と教えられてきた身としては、ちょっと抵抗のある話だ。実際のところ、本当に"エアコンつけっぱなし"はお得なのか? ダイキン工業の広報担当・垣永大輔さんに聞いてみた。

エアコンつけっぱなしって結局得なの?

"温度が下がりきるまでの時間"が重要

――「エアコンはつけっぱなしの方が電気代が安くなる」と聞きますが、本当ですか?

エアコンは、基本的に温度を維持する時より下げる時に多くの電気代がかかるものなんです。使い方にもよりますが、頻繁にオン・オフを繰り返すよりはつけっぱなしの方が安くなる場合もありますね。

ただ、一概につけっぱなしの方が安いとは言い切れません。というのも、室内の温度は住宅の性能や日当たり、気候などにも大きく影響されるんですよ。例えば最近のマンションのように気密性が高い部屋は室外の影響を受けにくいので、温度を下げる時間が短く済むこともあります。この場合、ライフスタイルによっては、つけっぱなしにしない方が安くなる可能性もあります。

一方で、通気性が高い日本家屋などの場合、エアコンをオフにすると室外の気温に影響されて室内の温度もすぐに上がることがあります。こうした場合にエアコンを切って外出した場合、帰宅時には気温が上がりきってしまうので、再び設定温度まで下げるのに電力をたくさん消費してしまいますね。こうしたケースだと、つけっぱなしの方が安くなる場合もあるでしょう。

――つまり、電気代を抑えるためには、「設定温度に下がりきるまでの時間」を短くすることが重要だと

そうですね。ですので、基本的に風量は"自動"モードで運転させるのがオススメです。設定温度に下がるまでは強運転で送風し、設定温度に近づくにつれて段々と風量が落ちていきますので、最も効率的なんです。

風量は"自動"が正解

――例えば、「時間がかかってもいいからずっと弱運転で冷やす」という使い方は自動運転より省エネにならないのですか?

基本的には自動運転の方が省エネです。"強運転"というと電力をたくさん消費しそうなイメージですが、風量の強弱は設定温度の上げ下げに比べると電気代への影響は大きくないんですよ。風量を大きくしても、室内機のファンがたくさん回るだけですからね。一方で、設定温度を低くすると室外機の圧縮機に負荷がかかります。こちらの方が消費電力が大きいわけです。

ずっと弱運転だと、冷やした空気が少しずつしか出ないので、設定温度まで下がる時間が長くなってしまうんですよね。なので、圧縮機に高い負荷がかかる時間も長くなってしまう。自転車と一緒で、こぎ始めが一番大変なので、最初は強運転のほうがいいんです。

弱運転は、省エネなようで室外機に高い負荷が……

――なるほど。勘違いしていました。てっきり弱運転が一番省エネかと……

強運転の時は風の音が大きいですから、いかにも消費電力が多そうに感じてしまうんですよね。基本的には自動運転が一番お得、と覚えてもらえばいいと思います。

風向は上向きで!

――ほかに、エアコンの賢い使い方があれば教えてください

風向は上向きに設定したほうがいいですね。「風に当たりたいから、風向は斜め下にする」という人もいると思うのですが、冷たい空気は下に沈み込みますので、風向を下向きにするとすぐに床に冷気がたまってしまいます。

室内の気温はエアコンの室内機が測定しているので、部屋の上部と下部で温度ムラが出てしまうと、「設定温度に到達していない」とエアコンが勘違いして部屋を冷やしすぎてしまうことがあります。そうなると、冷やしすぎた分の電気代が無駄ですよね。

部屋の上下の温度ムラによる冷やしすぎに注意!

――なるほど。「つけっぱなしは嫌だ」という人へのアドバイスはありますか?

日中に部屋が暖められますので、夜遅い時間に帰宅すると、室内の温度が室外より高くなっている場合があります。その場合、まずはエアコンをつけずに窓を開けて換気したほうがいいですね。自然の力で温度を下げてからエアコンを運転させると省エネになります。

それから、日中に部屋を空けるときは、カーテンを閉めるのを忘れずに。日光に当たったガラス窓は高温になり、部屋の温度を上げる原因になります。雨戸を閉めるのも有効ですね。

――部屋の温度を上げない工夫も大切ですね。ありがとうございました

「つけっぱなし」も選択肢に

垣永さんに話を聞いた結果、「エアコンはつけっぱなしの方が電気代が安くなるのか」という疑問は、「ライフスタイルや住宅環境による」という結論となった。当たり前といえば当たり前だが、「場合によってはつけっぱなしの方がお得」というのは本当のようだ。

そのポイントは、「エアコンは部屋の温度を下げている間に多くの電力を消費する」というところにある。つまりは、「つけっぱなしにする」というより、「エアコンが気温を下げる時間をなるべく短くする」ことが重要なのだ。

暑く感じても設定温度はむやみに下げず、気流で体感温度が下がるように風量を強くしてみる、外出時はカーテンを忘れずに閉める、などの心がけも節電につながるだろう。

猛暑が予想されている2016年の夏、エアコンを使わざるを得ない地域も多くなりそうだ。毎年冷房の電気代に悩まされている人は、「つけっぱなし」を選択肢に入れてみてもいいかもしれない。

※記事中の情報は2016年7月時点のもの

イラスト: ぷちめい