住宅の「リフォーム」や「リノベーション」と聞いて、あなたはどのようなイメージを抱くだろうか。2016年4月に住宅デザイン・設計プラットホームのサービスを展開するHouzz Inc.の共同創業者2人が来日し、日本特有のリフォームへの認識について語った。

(左から)Houzz Inc.の共同創業者であるAdi Tatarko(アディ・タタルコ)氏とAlon Cohen(アロン・コーエン)氏

13カ国で展開する巨大プラットホーム「Houzz」

ビジネス戦略発表の記者会見に登壇するために来日したのは、Houzz Inc. CEO兼共同創業者のAdi Tatarko(アディ・タタルコ)氏と、同社プレジデント兼共同創業者のAlon Cohen(アロン・コーエン)氏。2人は夫婦でもある。

同社が展開する「Houzz(ハウズ)」は、住宅デザイナーや建築士、収納アドバイザーなど、住宅に関するプロフェッショナルと一般ユーザーをつなげるWEBサービスだ。「Houzz」に登録したプロは自分が手がけた事例の写真を「プロジェクト」として公開し、ユーザーはプロの実績を写真で確認しながら、施工の依頼などのコンタクトをとることができる。利用料金はプロもユーザーも無料だ。また、ユーザー同士が交流できる「ディスカッション」機能や、気に入った写真をアーカイブする「アイディアブック」機能も備えている。

住宅に関するさまざまなプロフェッショナルを検索できる

ユーザーやプロが意見を交わせる「ディスカッション」機能

気に入った写真をアーカイブする「アイディアブック」も

「Houzz」のサービスが日本で開始されたのは2015年4月と日が浅いが、アメリカでは2009年に開始。現在はイギリスやオーストラリア、スペイン、シンガポールなど世界13カ国でサービスを展開している。月間平均ユニークユーザー数は4,000万以上で、100万人以上のプロフェッショナルユーザーを有する巨大プラットホームだ。また、プロフェッショナルや事例の写真には、国や地域の区別なくアクセスが可能となっている。

そんな「Houzz」の創業者からは、日本の住宅事情はどのように見えるのだろうか。共同創業者の両氏に聞いた。

日本人は「修繕主義」?

タタルコ氏は日本人の住宅観について、国土交通省が公表しているデータを引用しながら語った。

日本のリフォームは「修繕主義」? (画像はイメージ)

「国土交通省が発表している数値によると、日本のホームオーナーのリフォームの動機としては、その半数以上を『住宅を修繕したい』というものが占めています。住宅が古くなり、機能が落ちてしまったのでその修理をしたいというものです。『家の機能を高めたい』『家族が快く暮らせるように環境を改善したい』というのは、2番目の理由でしかありません」。

日本人は、より快適な住環境を求めるためではなく、劣化した部分を原状復帰させるためにリフォームという手段を取る傾向にある、というわけだ。その一方で、アメリカでのリフォームの動機にも特徴的な傾向があったという。

「ハーバード大学からも、国土交通省と同じような調査結果が発表されています。私たちが『Houzz』を設立した当時、アメリカにおけるリフォームの動機としては『転売時の価値を高めるため』というものが最多でした。しかし、ここ数年間で『Houzz』ビジネスが進展したおかげもあってか、直近の2年間では『住宅の機能向上』や『ライフスタイルの改善』がトップになっています」。

アメリカでは、中古の戸建て住宅を購入し、住みながらセルフリフォームをしていくスタイルが多いという。うまくいけば、購入時よりも高い値段で転売できるからだ。「住宅は一生の財産」という認識が強い日本ではなじみのない習慣である。ある意味、アメリカ特有の住宅観と言えるだろう。日本における「修繕主義」も、そうした特徴的な価値観と言えるのではないだろうか。

一方でアメリカでは、ここ2年間でリフォームの動機が「住宅の機能向上」や「ライフスタイルの改善」にシフトしているという。タタルコ氏は、「Houzz」ビジネスの進展と絡めてこれを語ったが、日本のリフォームにおいて「Houzz」はどのような役割を担うのだろうか。

「リフォームは楽しいものだと思っていた」

「Houzz」創業時のエピソードに、そのヒントがある。「Houzz」の主な機能は冒頭に挙げた通りだが、サービスを立ち上げるきっかけとなったのは、タタルコ・コーエン両氏が経験した住宅リフォームだった。2人が住まいとして購入したのは、1955年に建設された一軒家。建造以来、全くケアがされていなかったその家を自分たちの手で改修することにしたのだ。

コーエン氏は、そのときの思いをこう語る。「私たちは最初、自分たちが購入した家を奇麗に改修するというプロセス(過程)は本当に楽しいものだと思っていました。しかし、着手してみると課題が山積していました。まず、建築関連の本を買って写真を1枚1枚眺め、改修のイメージを膨らませました。そして、イメージ通りの家を作ってくれるような施工業者も探しました。そのどちらも非常に大変な作業でした」。

共同創業者の2人が改修を試みた一軒家

リフォームは手軽にできるものではない。第一に、情報を集めて住まいのアイデアを構築することが難しい。第二に、アイデアを適切に実現してくれるプロフェッショナルを見つけることが難しい。2人はこの二つの壁に突き当たり、そのソリューションとして「Houzz」のプロジェクトを始めた。

「『Houzz』のサイトを立ち上げた時のユーザーは、子供が通う学校で知り合った親たち20人程度です。登録してもらったプロフェッショナルは、地元で仕事をしている建築家や施工業者でした。その後に『Houzz』はビジネスとして進展していくわけですが、私達が求めているものは一貫しています。それは、人々がリフォームのプロセスを楽しめること」。

リフォームの"過程"を楽しめる国に

最初は本業の片手間で始めた「Houzz」だったが、徐々にサービスが進展していき、本格的なビジネスとしての立ち上げを決定。リフォームで高いハードルだった「アイデアの構築」「適切なプロフェッショナルの検索とコンタクト」を無料で、しかも高いレベルで実現できるサービスを目指した。

その目標は、アメリカを中心としておおむね達成されている。月間4,000万以上のユニークユーザーを持つだけでなく、スマートフォンアプリのレビューでは最高の5つ星を35万件以上獲得。タタルコ氏は「Houzz」の実績について、「『Houzz』はもともと収益を目的としたサービスではありません。ですので、プラットホームに載せるプロダクトの質の良さや、参画する人々の満足度を最重要視しています。結果的にはそれが奏功し、有料サービスの要望が自然発生しました。プロフェッショナルからは"地域を限定した自社ブランドの宣伝"、ユーザーからは"インテリアなどのEコマース"といった具合です」と語る。

アメリカでは、ユーザーが「Houzz」から商品を購入できるEコマースも展開されている

"マネタイズは二の次"と考えているからこそ、確固とした収益源が生まれるというわけだ。日本ではこれらの有料サービスは実施していないが、将来的には実装する予定だという。

タタルコ氏は、「『Houzz』のビジネスが進展することで、日本でも住宅リフォームの動機が変わっていくことを期待しています。現在は『古い家の修繕』が一番の理由ですが、将来的には、自分たちがより幸せに暮らせるように『住宅の機能を高める』リフォームをする選択が一番になることを楽しみにしています」と語った。単なる「修繕」の先にある、より幸せな暮らしを手に入れるためのリフォームを浸透させることが、日本における「Houzz」のミッションと言えそうだ。

世界中の住まいの写真を自由にコレクションし、それを手がけたプロフェッショナルにコンタクトを取れる「Houzz」プラットホーム。同サービスによってリフォームの「過程」を楽しむことが、日本人の住宅観を変革するきっかけになるだろうか。今後に注目したい。