――これは報じ手としてはうれしいエピソードですね。
ほかにも、放送終了後に近所の人が家から出てきて「ありがとうございました」って言葉をかけてくださったりして、僕も支えになりましたね。なかなか取材の手法がどうなのかなとか、テレビ屋的なアプローチが被災された方を不快にさせているのではないかとも感じながら、放送を構築する上で必要なものは当然あるというジレンマがありましたから。
――4月29日の放送のエンディングで、そうしたマスコミ取材について、謝罪の言葉を話していましたよね。災害報道のニュース番組の中で、大変異例な発言だったと思います。
金曜日の放送で、次の日に1回東京に帰ると決まっていたので、そこは言おうと思っていました。決して被災者の人たちを怒らせたり、不快にさせたりするためにわれわれが現地に入っているつもりわけではありませんから、そんなつもりは無いんですよ、と。でも、そこはいるだけで不快に思う方もいらっしゃるので、ちゃんとお詫びするべきではないかという強い思いがあったんです。
――今回の地震では、さまざまな局面でマスコミの取材のあり方がクローズアップされ、フジテレビ系列でも中継車のガソリンスタンドでの割り込みが問題となりました。そうしたことも含めてお詫びの思いが積もっていたんですね。
一連の被災地からの報告については、僕に任されていた面もありますが、ああいう発言を誰にも相談せず言ってもいいというところに、フジテレビの良さを感じましたね。ただ、別に怒られてもいいと思ったんですよ。「それはそう思ったんで言いました。すみません」って言うつもりでした。
――今回の現地取材を通して、テレビの可能性や、反対に限界を感じた部分はありますか?
今回は、物資のミスマッチを解消する上で、TwitterやFacebookなどのSNSが果たした役割がすごく大きいと言われているんですけど、そういうものとテレビがうまく補完し合う形が必要なんだと思います。仮にテレビが少しでも信頼をしてもらっているんだとすれば、われわれのカメラが捉えたものとか、僕らが発する言葉が、そういうSNSのようなきめ細かい装置とうまく連動する形で、被災地のためになればいいなと思いますよね。
――SNSが使えない高齢者の多い避難所に、物資が届かないという話もありました。
そうですね。みんながみんなインターネットで情報を知ることができる状況ではないですし、被災されていない地域のネットを見ない方々に、熊本の現状を伝えるという役割もあると思います。われわれの責任のもとに取材してVTRなり生放送なりで伝えるわけですから、僕らが日々努力して信頼を勝ち得ていかなきゃいけない面は多分にありますけど、現場で伝えることに対して、何か感じてもらえたら、すごいエゴですけど、うれしいというか、ありがたいなと思いますよね。
――『みんなのニュース』が始まって1年1カ月がたちました。初めての報道番組メインキャスターですが、あらためていかがですか?
他の番組をやらずに『みんなのニュース』に専念しているので、だいぶ生活が変わりました。今回の取材でもそうだったんですけど、取材のノウハウとか、現場のキャリアとかという部分においては、まだ乏しいところもあるので、果たして僕がそれを担うべき人間なのかというところは、相変わらず自問自答の日々ですね。
――バラエティや情報番組の世界から報道というのは、だいぶ環境が違いますか?
作り方が違うので、戸惑っているのは事実ですね。良くも悪くもバラエティは、タレントや企画にほれ込んだプロデューサーとディレクターがいて、こんな番組にしたいんだという方向感と現場の空気を大切にして作っていくじゃないですか。でも報道は、情報の扱い方とか危機管理とかが必要な部署なので、空気感や作り方の手法も違います。それを僕自身がまだ本当の意味で理解してないというところもあるんでしょうけど、ただ、僕が報道に来たというのは、そういったものを壊すというか、これまでになかった報道番組を作って行くという面が期待されている部分もあると思うので、頑張っていきたいと思います。
■プロフィール
伊藤利尋(いとう・としひろ)
1972年7月22日生。兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学法学部卒。
1995年にアナウンサーとしてフジテレビ入社。『めざましテレビ』キャスター、『めざましどようび』MC、『知りたがり!』MCなどの情報番組や、『とんねるずのみなさんのおかげでした』、『ネプリーグ』(天の声)、『VS嵐』(天の声)などのバラエティ番組で活躍。
2015年4月からは『みんなのニュース』メインキャスターを務めている。