2016年2月に、日本サムスンが主催する「2016 Samsung SSD Forum,Japan」が開催された。SSDやNANDフラッシュに関する技術、具体的な製品が主要テーマではなく、経済産業省の基調講演、および日本におけるサムスン電子の顧客企業が登壇した講演が主な内容だ。とはいえ、最新のSSDや3次元構造のV-NANDに関する情報のアップデート、そしてSamsungが今後投入する思われるSSDの展示もあったので(会場では何となくひっそりとした存在だった…)、そのあたりを中心に見ていく。

2016 Samsung SSD Forum,Japanのメイン会場

HDDからSSDへの転換が加速する

サムスン電子 専務・メモリー事業部 商品企画 TEAM長 李禎培氏

イベントのタイムテーブルでは最後だったが、まずはサムスン電子 李禎培氏の講演から紹介する。李氏は、ビッグデータ時代を迎えてHDDからSSDへの転換が求められているとして(SSDはHDDより省電力で、省スペースで大容量化が可能)、Samsungにとって大きなチャンスと述べた。実際に、SSDやモバイル分野でNANDフラッシュが普及し始めたここ5年、Samsungは世界の市場でトップシェアを続けている。

この大きな理由として、NANDフラッシュに加えて、キャッシュに用いるDDRメモリ、コントローラなど、SSDを構成するデバイスをすべて自社で開発、製造できる点を改めて強調。他社に先駆けて製品化した3次元構造のV-NANDを振り返り、2015年に第3世代となった48層のV-NANDだが、さらに進化を続けていくとした。

Samsungは従来のプラナー型NANDフラッシュメモリの技術革新も継続するとし、プロセスルールの微細化は1z nm世代まで達している。「2016年にはもっと小さく大容量の製品を紹介できるだろう」(李氏)。

【左】世の中で生まれるデータはどんどん増える。2020年には44ZB(ゼタバイト、約470億TB)のストレージニーズが 【右】NANDフラッシュやSSDの市場にて、Samsungは5年連続でトップシェア

【左】世界的に見て、日本はSSDの普及が遅い。写真左の縦棒グラフは、下からアメリカ、ヨーロッパ、日本、中国、アジア太平洋地域 【右】Samsungは、SSDを構成する主要パーツ(NANDフラッシュ、DRAMキャッシュ、コントローラ)をすべて自社生産できる。サーバー、PC、ユーザーにとって、SSDは多くのメリットがある

また、欧米やアジア各国と比べて、日本はコンシューマ領域もエンタープライズ領域もSSD化が遅いという。価格、技術的なリスク、マーケティングといった要因を挙げつつ、「最大のキーファクターは認知度。メリットを明確にしてアタッチレートを高めたい」(李氏)とした。ちなみにコンシューマ領域では、SSDやNANDフラッシュ製品における最大ボリュームは、やはりノートPCだ。

ワールドワイドで見て、現在は30%近くのノートPCがSSDやeMMCを搭載している。今後、メインストリームからハイエンドのノートPCは、PCI Express接続やNVMeといったテクノロジーのSSDが新たなトレンドになっていく。コストや容量の面でHDDを採用することが多かったエントリークラスのノートPCでも、SSD化が進むはずだ。「SSDは収益性でもHDDに近づいている。予想より早く追い越すかもしれない」(李氏)。

3次元構造のV-NANDのおさらいと、従来のプラナー型NANDの比較。現在は第3世代のV-NANDだが、今後も積層を増やして、同程度のチップサイズで大容量化を図る。プラナー型NANDと比較して、V-NANDは2倍の書き込み速度、半分の消費電力、10倍の耐久性を持つ

【左】とはいいつつも、Samsungはプラナー型NANDの研究開発も継続。2015年には1z nmというプロセスルールの微細化を実現している。一般的には、1z nmはだいたい14nm~10nmとされ、プラナー型NANDはコストメリットが大きい 【右】2016年2月時点での、Samsung SSDラインナップ

2016年の後半から出てきそうな超高速SSD

ノートPCが採用するSSDのフォームファクタは2.5インチSATAやM.2、接続インタフェースはSATA 3.0(6Gbps)が主流だ。しかし最近は、主にハイエンドクラスのノートPCにおいて、M.2フォームファクタ、PCI Express接続、NVMeプロトコルといった仕様のSSDを搭載する製品が増えてきている。詳細は省くが、PCI Express接続・NVMeプロトコルのSSDは、SATA 3.0(6Gbps)接続のSSDと比較して、別次元の読み書きスピードを叩き出す。

参考までに、PCI Express Gen3 x4接続・NVMe 1.1プロトコルの「Samsung SSD 950 PRO 512GB」(左)と、2.5インチSATA 6Gbpsの「Samsung SSD 850 EVO 1TB」を比較したもの

そして、PCI Express接続・NVMeプロトコルのSSDを、いち早く市場に投入したのがサムスン電子だ。M.2・PCIe・NVMeのSSDを搭載するノートPCは、たいてい、Samsungの「SM951」「PM951」を採用している。今回のイベントでは、これらの後継となる「SM961」「PM961」が展示されていた。

ひとつのポイントは新コントローラ「Polaris」で、5コア・8チャネルの新設計。NANDフラッシュメモリは、第3世代V-NANDだ。パネルに掲げられたスペックを見ると、思わず目をこすって見直してしまいそうな数字が並ぶ。

未発表の「SM961」と「PM961」のスペック概要。寄り目で凝視してしまった

ハイエンドのSM961は、シーケンシャルリードが3,200MB/s、シーケンシャルライトが1,800MB/s、4Kランダムリードが450,000IOPS、4Kランダムライトが400,000IOPS…。SATA 3.0(6Gbps)とは「0」がひとつ違う。PM961でも、シーケンシャルリードが3,000MB/s、シーケンシャルライトが1,150MB/s、4Kリードランダムが360,000IOPS、4Kランダムライトが280,000IOPSだ。

eMMCは過去のもの? BGAタイプの小型高速SSDに期待大

BGAタイプのSSD「PM971」にも注目したい。チップの大きさは16mm×20mmと、1円玉サイズだ。コントローラやDRAMキャッシュを含めてパッケージ化されてくるなら、小型のタブレット、ノートPCのストレージ勢力図を、一気に書き換える可能性を秘めている。こうしたPCは、ストレージにeMMC(NANDフラッシュを用いたストレージデバイスの一種)を採用することが多いのだが、現在のeMMCは基本的に読み書きが遅い。

対して、PM971のスペックは、インタフェースがPCI Express 3.0 x2、シーケンシャルリードが1,500MB/s、シーケンシャルライトが600MB/s、4Kリードランダムが190,000IOPS、4Kランダムライトが150,000IOPSだ。上記のSM961やPM961には及ばないが、それでもSATA 3.0(6Gbps)のSSDより速い。2016年の春ごろからサンプル出荷を開始する予定とのことなので、こちらも早ければ2016年の後半に採用PCが出てくるだろう。

BGAタイプのSSD「PM971」。写真のパネルでは「2Bit MLC」とあるが、実際は「3Bit MLC」となる。8型から10型クラスのタブレットPC、2in1 PCのストレージ速度を、大幅に改善してくれそうな点に期待

エンタープライズ向けにも激しい新型SSD

近年はエンタープライズ領域の製品でもSSD化が進んでおり、クライアントPCはもちろん、ラックマウントサーバやデータセンターの導入例も増えている。Samsungは比較的早い時期からエンタープライズ向けのSSD製品をリリースしているが、イベント展示の新製品では、シーケンシャルリードが実に5,000MB/sという「PM1725」が目を引いた。

PM1725はHHHL(Half-Height Half-Length)タイプのカードで、インタフェースはPCI Express 3.0 x8だ。シーケンシャルリードのほか、シーケンシャルライトは1,800MB/s、4Kランダムリードは1,000,000IOPS、4Kランダムライトは120,000IOPSとなっている。

エンタープライズ向けSSD製品の展示。HHHLカード「PM1725」のスペックに驚く

3月に発売されたポータブルSSD「Samsung Portable SSD T3」