ダウンタウン・松本人志、バナナマン・設楽統、小池栄子がMCを務める伝聞紀行バラエティ『クレイジージャーニー』(TBS系毎週木曜23:53~24:38)が、"テレビ離れ"が叫ばれている昨今で、異様な盛り上がりを見せている。毎回ゲストに招かれるのは、常人では決して踏み入ることのない世界を知る人物たち。番組では、敬意を込めて彼らを"クレイジージャーニー"と称し、時には番組スタッフ同行の取材映像も交えながら、3人は狂気的な旅人たちの体験談に耳を傾ける。
中でも登場機会が多いのは、危険地帯ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏と、奇界遺産フォトグラファーの佐藤健寿氏。丸山氏の取材対象はスラム街が中心で、どんな食べ物でも「とりあえず食べてみる」という豪快な取材スタイルが特徴だが、時には動物のフンを踏んでしまう脇の甘さも。一方の佐藤氏は端正なルックスが人気で、冷静かつ緻密に計算されたスケジュールをこなしながら"遅刻グセ"があるなど、番組ではそんな2人の個性的な一面も親しまれている。
昨年正月の深夜に放送されたパイロット版から、同年4月にはレギュラー化。先月27日には第1弾のDVDが発売され、すでに累計出荷1万5,000枚を突破している。先月31日に都内で行われたDVD発売イベントは、"ミスタークレイジージャーニー"ともいえる丸山氏と佐藤氏が登壇。会場は250人分の観覧席が完売した上に立ち見が出る盛況ぶりで、一般客に混じってDA PUNPのTOMO、裁判傍聴マニアのお笑い芸人・阿曽山大噴火といった著名人も駆けつけた。お笑い芸人のあべこうじが司会を務めたトークイベントは、その熱気に後押しされるように、予定されていた30分を大きくオーバーする1時間15分。この"夢の共演"を、本記事で記録する。
出演後の反響
――反響はいかがですか?(以下質問者はあべこうじ)
丸山ゴンザレス(以下丸山):街中で声を掛けられることがありますが、一番多いのは空港。海外で声を掛けられることもあります。中東のとある空港で、ケニアの方に「観てます。ジャマイカ編よかったです」と日本語で(笑)。今まではどんな人が観てくれているのか分からなかったんですが、そういう反響があるのはうれしいですね。
佐藤健寿(以下佐藤):僕もゴンザレスさんと同じで、新宿や渋谷以外でも、番組の取材で台湾に行った時に声を掛けられたり、いろんな人が観てるんだなと感じました。『奇界遺産』(写真集)は番組でも連呼していただいているので、番組が放送されるとAmazonの順位がバンっと上がってうれしいです(笑)。
――同行するスタッフが少々"ウザめ"と聞きましたけど、その辺は大丈夫ですか(笑)? (※佐藤氏は取材現場に私物のドローンを持ち込むこともあり、同行スタッフが「ドローン飛ばしますか?」としきりに催促するくだりは番組でおなじみの笑いどころ)
佐藤:すごく良い人なんですけど、わりとテンションが高いというか……僕とちょっとバイオリズムが違う人(笑)? 取材の帰りでも、よくしゃべる方なんですよね。最初の1、2回はちょっと「あっ……」と思う瞬間があったんですが、だんだん慣れていくうちにお互い良い距離感ができてきたので、また新しい人に代えるよりもいいんじゃないかなと。
――ゴンザレスさんは、穴に入った時にちょっとイラついたと聞いたんですけど(笑)? (※ヨーロッパ・ルーマニア、マンホールタウンロケの際、丸山氏は先にマンホールに入ったものの、地上スタッフとのやりとりでイラつくそぶりを見せて松本人志らを笑わせた)
丸山:あれは(笑)。カメラ兼ディレクターの方が同行していて、僕が穴の下から話し掛けても、「はい? はい?」って何度も聞き返されたのでイラッとしてしまいました(笑)。もともと狭い所が好きではないので、早く終わらせたかったんです。基本的には人見知りをしないので、誰と一緒でも平気なんですけどね(笑)。
ルーマニア・マンホールタウン ~奇跡の取材とレモネードの思い出~
――地下で暮らしている人々の取材、やっぱりすごかったですか?
丸山:大変でしたね。どうやって取材をしていけばいいのか分からなかったというか。そんなところを紹介してくれる人もいないので、とにかく行くしかありませんでした。放送上ではあまり映っていなかったと思うんですが、彼らから出されたものも食べました。ただ、食べ物が汚いわけではなくて、食器が汚いんです。中では猫とか犬がいっぱい飼われていて、ご飯が載っている皿の上を歩いていくんですよ(笑)。これは大丈夫かなと思いました。
――でも、うまそうに食べてましたね(笑)。
丸山:出されたものを残さず食べると、だいたいどこの国の人でも受け入れてくれます。相手の歓迎を受け入れれば、自然と打ち解けることができるんですよね。マンホールタウンではブルース・リーが「飲め」とレモネードを差し出してきたんです。
――絶対飲めないですよね。怖くないですか? あの、レモネード。
丸山:僕はあのレモネードがうまくて、あれ以来レモネードにハマってて(笑)。あまり飲んだことがなかったんですけど、おいしいんですよね。
――パサパサのパンで喉が渇いている時のレモネード(笑)。マンホールの中は暑いんですか?
丸山:すっごく、暑いです。下水管がだいたい50度ぐらいで、そこには熱湯が通っています。コンクリートで固められていて、さらに分厚い毛布を3枚ぐらい重ねて温度調整しながら、暖房として機能しています。外はマイナス15度ぐらいで寒いので、そういう環境じゃないと暮らせないんですよね。
――そんな中でもブルース・リーは薄着でしたね(笑)。やっぱり彼は、絶対権力を持っているんですか。
丸山:権力者ですね。ただ、彼を含めて下っ端の連中は歓迎してくれているのですが、その立場を虎視眈々と狙う幹部たちは、カメラを向けると嫌がっていました。それから、マンホールの下はごちゃごちゃしていたこともあって、持ち物が盗まれる危険性もありました。貴重品はポケットに入れないようにしていましたが、ブルース・リーが客人として僕らを紹介してからは、触られることもなかったので、やっぱり権力者なんだなと感じました。
――最終的には地上で暮らして、みんなで幸せになりたいなんてことも言ってましたけど、その後のブルース・リーは?
丸山:彼らは麻薬の売買を主な仕事としていたんですが、ルーマニアの社会問題としてドラッグが蔓延していることが問題視されていて、次第に海外メディアも取り上げるようになりました。ブルース・リーがその象徴的な存在だったので、捕まったんです。ルーマニアの友人に今朝確認したんですが、刑務所に入っているそうです。
――もう、あの姿は見られないんですね?
丸山:今はあの穴も埋められて、警察も頻度を高めて巡回しているそうです。街並みはすごくきれいなところだったんですが、あそこだけは別世界。地上の家はほとんど放送されていなかったんですけど、DVDには少し入っています。今はその家も壊されてしまったんですけどね。
ドラッグなどで稼いだお金で建てた、地上の家。この取材がうまくいった一番の要素は、実はあの地上の家なんです。あれが完成した日に僕が行って、すごくブルース・リーの機嫌が良かったんです。だから、取材を受けてくれたんですよね。地元でいろんな人に話を聞くと「よく取材受けてくれたね」と言われました。本当にラッキーでした。
イギリスのマンセル要塞 ~船長の助言に苦渋の決断~
佐藤:イギリスにある海上要塞「マンセル要塞」。放送でもありましたが、ここに行くのは本当に大変で。船で2~3時間ぐらいかけて行って、建物の中に入れる予定だったんですが、波があまりにも強くて船を横付けできませんでした。船長から「今は無理やり横付けすることができるが、帰る時に横付けする保証ができない」と言われて、ディレクターさんと相談しながら建物の周りを1時間ぐらいぐるぐる回っていました。波がどんどん激しくなって、船長の判断で引き返すことになりました。
――次に行くときは入りたい?
佐藤:もちろん。本当はここでドローンを飛ばして撮る予定だったんですが。(会場から笑い)
ブルガリア・共産党ホール ~スタッフとのドローン攻防劇~
佐藤:ブルガリアのバズルージャという山の上に建っている廃虚「共産党ホール」。ここ数年、廃墟マニアの中ですごく有名になった場所です。UFOのような近未来的な形をしています。許可を取って撮影したんですが、現場に市役所職員のような方が来てくれていたので正面のドアを開けてくれるかと思ったら、「鍵がない」と言われて。結局、通気口のようなところによじのぼって入りました。
ドローンを飛ばそうとしたんですけど、ここも風が強くて(会場から笑い)。僕が諦めようとすると、ディレクターさんから「大丈夫です」と言われました(笑)。結構もめて、壊れたら保証してくれるのか聞いたら、「それは分かりません」と(笑)。諦めて山から降りているところで風が急にやんで、無事に撮影することができました。
丸山:ドームの横にあるタワーは入れないんですか?
佐藤:廃墟マニアの中には実際に入って、一番上から写真を撮っている人もいます。でも、市役所の方から「ここは崩れるから絶対に入れない」と止められました。ホールの中も崩れそうで、上からパラパラ破片が落ちてきていました。本当に危ない場所だと思います。
――でも、かっこいいですよね。こういうのを見るのが好きなんですか?
佐藤:見たいという気持ちもありますが、写真を撮って自分の本に入れたいという気持ちが一番の動機です。
ベルギーのパワープラントIM ~地元民、佐藤氏に驚く~
佐藤:ベルギーにある、パワープラントIM。火力発電所の冷却システムだった場所です。ベルギーのシャルルロワというあまり治安の良くない工業都市で、発電所がたくさんあります。パワープラントIMは取り壊しが決まっている場所らしく、中に入って写真に収めることができました。
――こういう場所はどうやって探すんですか?
佐藤:海外の廃墟マニアの中ではすごく有名な場所です。そういう海外の人でも、日本に来た時は日本の廃墟マニアに連絡してくるんです。僕もたまに聞かれることがあるんですけど。例えば関西で奈良ドリームランドという有名な場所がありますが、この前は台湾の女の子が「奈良ドリームランド以外で何かないか」と聞いてきました。そういう人は日本人よりも日本のことに詳しいんですよ。僕がベルギーに行った時も「ベルギーの人でもこんな場所知らないよ」と言われます。
――そうやって情報交換してるんですね。日本より海外の廃虚の方が魅力的なんですか?
佐藤:日本もいいんですが、移動費が高くて取材費がかかってしまうので、日本はあまり体が動かなくなる晩年に回ることができればいいなと。のんびりドライブでもしながら(笑)。
ウクライナのチェルノブイリ ~"動植物の楽園"の実態~
佐藤:実は2回目だったんですが、前に行った時は入れない場所だったので衝撃的な光景でした。散乱しているガスマスクは学校に常備されていたもの。それがこうして蹴散らされています。チェルノブイリはみんな退避させられているんですが、生活がままならないから結局戻ってきている人もいます。そういう不法滞在しているようなおばあちゃんにインタビューもできたので、すごく興味深い内容になったんじゃないかなと思います。
――廃虚にまつわる歴史が見えた方が、やはりテンションは上がりますか?
佐藤:そうですね。逆にそれがないと面白くないというぐらい、バックグラウンドに興味があります。
丸山:僕はスラムとか危険地帯に行くことがありますが、なぜそこが成立しているのかとかそういうバックグラウンドからの見方をするので、同じ考えなんだなと思いました。ちょっとお聞きしたいんですけど、チェルノブイリは動物もたくさんいるんですよね?
佐藤:イノシシとかオオカミとか野犬が増えていて、繁殖しやすい環境なので「動植物の楽園」とも言われています。「放射能のせいで怪物化した巨大犬がいる」とかよく噂されますが、現地の人もはっきりと否定していました。
丸山:僕の周りの廃墟マニアもよくチェルノブイリに行ってるんですけど、ナマズとかが飼われている池とかがあって、廃墟マニアの人たちが餌をたくさんあげているから、そのナマズはめっちゃ大きくなっているらしいです(会場から笑い)。