今秋、約2年3カ月ぶりに連ドラへ戻ってきた香里奈。復帰作の『結婚式の前日に』(TBS系)は、いわゆる"難病モノ"であり、脳腫瘍の診断を受けたヒロイン・ひとみと家族のやり取りを描いた物語だ。
つらく苦しい難病モノは、「スカッと爽快な物語を好む」現在の視聴者ニーズとは真逆。そのため放送前から苦戦が予想されていたが、案の定、視聴率は5~6%と大苦戦している。すると「待ってました」とばかりに、昨年3月の写真流出騒動を蒸し返す声がネット上を賑わしたが、ちょっと待ってほしい。
視聴率や心ない報道に流されるのはフェアではないし、見るべきは「女優・香里奈」としての姿だろう。ここでは極めてフラットな目線から、女優・香里奈の現在地を考えていきたい。
連ドラ初主演作以来の難役
『結婚式の前日に』は、父親役に遠藤憲一、母親役に原田美枝子、婚約者役に鈴木亮平、その母役に江波杏子、幼なじみ役に山本裕典、主治医役に戸田菜穂と、演技巧者の脇役がズラリ。「視聴率が取れる俳優」より、「演技力のある俳優」を優先させようというスタンスがうかがえる。そこに「復帰作となる香里奈の演技力を引き出したい」という制作側の思いが透けて見えるのだ。
実際、香里奈は、遠藤には自然体で、原田には厳しく、鈴木には穏やかに、江波にはしおらしく、山本には反発し、戸田には不安げに接している。つまり、相手によってさまざまな表情を演じ分けているのであり、それだけで熱演と言っても過言ではない。
さらに、演技巧者の脇役よりもやっかいなのは、難病の役柄。病気に悩まされ、立ち向かう姿を演じるのはやはり難しく、まずリアリティがなくてはいけないし、一方で暗くなりすぎると痛々しくて見てもらえない。そのさじ加減はベテラン俳優でも難しいのだが、香里奈には今作を上回る難役の経験がある。2008年の『だいすき!!』(TBS系)は、連ドラ初主演にも関わらず、知的障がい者として母親になるヒロインを演じ切り、その演技に絶賛の声が集まった。
今作の香里奈を見ていると、演技巧者たちと向き合うことで、連ドラ初主演作で見せたあの輝きを再び放ちはじめたような気がするのだ。
ジャニーズ俳優のベスト相手役
香里奈の女優人生を語る上で欠かせないのが、ジャニーズ俳優との共演。恋人や妻役で、あるいは仕事上のパートナー役で、これほど多くのジャニーズ俳優の相手役を務めた女優は珍しい。
主なところだけでも、『カバチタレ!』(フジテレビ系)では山下智久の恋人役、『夜王』(TBS系)では松岡昌宏らホストに否定的な編集者役、『僕の歩く道』(フジテレビ系)では草なぎ剛を見守る獣医役、『バンビ~ノ!』(日本テレビ系)では松本潤の同僚料理人役、『みゅうの足パパにあげる』(日本テレビ系)では松本潤の妻役、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(TBS系)では香取慎吾の同僚巡査役、『フリーター、家を買う。』(フジテレビ系)では二宮和也の同僚役、『美咲ナンバーワン!!』(日本テレビ系)では藤ヶ谷太輔と北山宏光の担任教師役、『PRICELESS』(フジテレビ系)では木村拓哉の同僚役、『SUMMER NUDE』(フジテレビ系)では山下智久と恋に落ちる料理人役。その他、国分太一やHey! Say! JUMPとの共演もあるなど、幅広い世代のジャニーズ俳優と共演してきた。
ジャニーズ俳優と共演する女優は、清楚すぎてもセクシー過ぎても、相手役としては合わない。ヒロインであるにも関わらず、「目立ちすぎない」存在感の保ち方と、彼らの演技をしっかり受け止める包容力が求められる。言い換えると、相手を引き立てる姿勢と、それをするためのバランス感覚が必要なのだが、それができる主演クラスの若手女優は少ない。「個性がぶつかり合ってしまう」、あるいは「引き立て役になりすぎて存在感が薄い」となりがちで、香里奈のようにそつなくこなせる存在は貴重なのだ。
真野恵里菜との比較で見えるモノ
『結婚式の前日に』には、ひとみの婚約者に思いを寄せる真菜役で、真野恵里菜も出演している。真野は『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)での好演に加え、今年7本のドラマに出演するなど業界での注目度は高く、まさに売り出し中の若手だ。
真野は現在24歳で、31歳の香里奈よりも7歳年下。若さとフレッシュさ、そして、時の勢いもあって、真野は今作でも堂々とした演技を見せているが、見逃せないのはそれを静かに受け入れる香里奈の脱力した姿。劇中では、まくしたてるような真菜のプレッシャーを、ひとみはただただ受け止めるだけ。香里奈はじっと耐える姿の中に、ショック、不安、悔しさ、反発などのさまざまな感情を込めようとしているのがわかる。
香里奈がこのような、より抑えの効いた演技ができるようになったのは、もしかしたら女優業を休んでいた効果なのかもしれない。ただでさえ31歳という年齢は、女優として、女性として、これまでの人生を振り返り、これからの人生を考える時期。仕事にプライベートに、思い悩むことが多かったであろう2年3カ月間の成果が、形となって表れている気がするのだ。少なくとも、ブランクはもはやないと言ってもいいだろう。
綾瀬はるかの『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)、吉高由里子の『美丘』(日本テレビ系)、沢尻エリカの『1リットルの涙』(フジテレビ系)など、女優主演の難病モノに共通するのは、終盤に見せる渾身の熱演。「感動シーンが約束されている」とも言えるだけに、復帰作の香里奈がどう演じるのか、期待して見守りたい。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。