10月7日、2012年2月に発売した「Let'snote SX1」から約3年半ぶりのフルリニューアルを果たした、光学ドライブ搭載の12.1型ノートPC「Let'snote SZ5」が発表された。「Let'snote」シリーズの2015年秋冬モデルだ。

この「Let'snote SZ5」は最軽量構成時、光学ドライブ搭載PCで世界最軽量の929gを実現したモバイルPCだ。この929gという軽さは、初代SXシリーズの「Let'snote SX1」SSDモデル(約1.12kg)から約190g、前モデル「Let'snote SX4」(約1.17kg)からは約240g軽い。今回、この「Let'snote SZ5」の開発にまつわる裏話を、パナソニックAVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部「Let'snote SZ5」プロジェクトリーダーの坂田厚志氏、ITプロダクツ事業部モバイル開発部の鈴木亜紀子氏に聞いた。

パナソニックAVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部「Let'snote SZ5」プロジェクトリーダーの坂田厚志氏

「Let'snote SZ5」(左から2機種目)と、「Let'snote」シリーズの2015年秋冬モデル

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――「Let'snote SZ5」の前身となるSXシリーズから、久しぶりのリニューアルですね。前モデルの「Let'snote SX4」は2015年6月に発表されましたが、外観・内部のフルリニューアルは、2012年2月発表の「Let'snote SX1」以来ではないでしょうか。

坂田氏(以下敬称略): 「Let'snote SX」シリーズ(以下、SX)は、だいたい2年から3年のスパンでリニューアルしています。Let'snoteは、だいたい完成の1年から1年半くらい前に開発をスタートするので、今回の「Let'snote SZ5」(以下、SZ5)は、2014年の3月くらいに構想を始めました。

実は、ここ数年は「Let'snote RZ」(以下、RZ)などの2-in-1 PCに力を入れていたんですね。なので、SXの通常のスパンからすると1年くらい遅れましたが、世界最軽量の第5世代として、こうして世に出せました。

――光学ドライブ搭載で929gですね。もともと、「この軽さにしたい」というターゲット値はありましたか。

坂田: 最初の目標値は、950gでした。そこから、少し下回れました。実は「1kgを切る」というのがそもそもの目標だったんです。でも999gだと面白くないので(笑)、じゃあ950gを切ろうよ、という話になりました。チーム皆が頑張ってくれて、結果だいぶ下回りましたね。

――当初の想定よりかなり軽くなったんですね。どの部分を軽量化したのでしょうか。

坂田: 多くのパーツが軽くなっています。きょう体で約40g、ファンのモジュールを含めたメイン基盤で約40g、液晶やキーボードのユニットで合計約60gくらい軽くなりました。この部分は、全体における軽量化の割合としては大きい部分ですね。

全体では、初代SXシリーズの「Let'snote SX1」SSDモデル(以下、SX1)から約190g軽くしているんですが、40g、40g、60gを足してもまだ140gですね(笑)。

残りはいろいろな部分で工夫しているんですが、特にSSDですね。SXシリーズでは、ケース型のSSDを使っていたので、重たかったんですよ。SZ5のSSDはM.2接続のスティック型になったので、これだけで約40gくらいは軽くなりました。

――最も軽量化に貢献した部分はどこでしょうか。

坂田: パーツとして一番軽量化に貢献したのは実は液晶で、ここだけで約50gほど軽くなっています。液晶は今回、ガラスの厚みを0.3mmから0.2mmに薄くしました。とはいえ、ガラスを0.1mm薄くするだけじゃ、50gも軽くならないですよ(笑)。

一般的には、液晶のガラスを0.1mm薄くすると、20g~25gほど軽くなります。 SZ5では、バックライト基盤や導光板、反射シートといった液晶ユニット内の構成パーツを、薄くしたり、材料を変えたりして、約50gの軽量化にもっていきました。

あとは、内蔵ファンも軽くなってますね。今までファンとヒートスプレッダが分離していたので、ヒートパイプが長くなり重量増になっていたんですが、SZ5ではヒートスプレッダ一体型ファンを採用し軽量化しました。羽の厚みも7mmから4mmに薄型化して、数字だけでいえば、SX1から約15gほど軽くなっています。

これ、実はトリックがあって(笑)。SX1では、TDP35Wの標準電圧版CPU(Core i5-2540M Pro)を放熱する必要があったんですが、SZ5で搭載するのはTDP15Wの省電力CPU(Intel Core i5-6200U)なので、必然的に軽くなるんです。

「Let'snote」2015年秋冬モデル発表会では、SZ5の天板/液晶/キーボード部の特徴が展示された

――ディスプレイやファンの軽量化、薄型化と合わせて、ボンネット構造も「逆ドーム型」に変更しましたね。

坂田: 「ボンネット構造」という言葉自体は変わってないんですよ。SZ5では、きょう体全体を0.05mm~0.1mmほど薄型化しています。10.1型の「Let'snote RZ4」(以下、RZ4)なら、きょう体を薄くしても天板がたわまないんですが、SZ5のような12インチクラスだと、どうしても天板がたわんでしまう。これは品位も良くないし、耐久性も低いと思われてしまう。

そこで、SZ5の天板はあえて金型をへこませて、製品として天板がちょっとへこむように作ったんです。これが「逆ドーム型」構造で、強度を確保しつつ、天板のたわみを無くしました。「へこませたから耐久性が良くなった」ではなく、「耐久性を良くするために、へこませざるを得なかった」というのが正しいですね。

――発想の転換というか、意表をついたアイデアですよね。どこからこんな発想が生まれたんでしょうか。

坂田: それはもう、試行錯誤する中でですね(笑)。最初は、従来通りまっすぐ作りたかったんですが、耐100kg加圧など、従来通りの耐久性を求めると作れなかった。では「へこませてしまえ」「これなら上手くいくやん!」と(笑)。

SZ5の天板上に紙を垂直に立てた様子。直線の紙と比べると、わずかに天板がへこんでいることがわかる

――意表をついたといえば、光学ドライブが中央に配置されている内部構造も珍しいですね。

坂田: これも、軽量化の試行錯誤のひとつです。実は、光学ドライブを右に持って来ても、左に持ってきても、幅283.5cmの現行サイズから10mm~15mm程度大きくならざるをえなかったんですよ。どうしようかと困った時に、3D CADの設計図面を見ていて、「光学ドライブと基板が隣り合っている部分、空き地やん! 使えるんちゃう!?」と(笑)。

――光学ドライブと基板はオーバーラップ構造になっていますね。この2つを重ねることに、技術的な問題はなかったのですか。

坂田: 開発にあたり、「SXシリーズなら、大容量のHDDも、光学ドライブも、20時間もつ長時間駆動バッテリも載せないといけない」という制約がありました。しかもSZ5は、SX4のようにLバッテリが後ろに飛び出すことはNG。そこで、SZ5の見た目は、フットプリントが小さく、Lバッテリを装着しても出っ張らない、14型の「Let'snote LX」(以下、LX)に近い形にしようと。まず外観の方向性を決めて、それから内部構造を検討しました。

内部の製造過程では、マザーボード、コネクタ、バッテリ、HDDの順に配置を決め、最後に光学ドライブの配置を考えました。すると、光学ドライブは右に置いても、左に置いても、後ろに持ってきても、現在のSX4よりフットプリントが大きくなった。真ん中に置くのが一番小型化できたんです。

光学ドライブと基板を重ねるにあたっては、問題ではないですが、大きな部品は載せないこと、振動させても基板と光学ドライブがぶつからないことには配慮しました。

SZ5のブラックモデル。光学ドライブが中央に配置されている

SZ5試作機の内部構造

――Lバッテリが飛び出すのはNGですか? SX4でも後ろに飛び出していましたよね。

坂田: 見た目が良くないと指摘があったので、そこを解決しました(笑)。ただ、SX4のLバッテリは8セルだったのですが、SZ5では6セルしか載せられませんでした。Sバッテリは4セルで、従来と同じです。

実は、SZ5のバッテリを4セルから3セルにしたら、900gを切れたんです。SZ5の完成品は929gですが、バッテリの重さは1セル46gなんですよ。だから4セルを3セルにすると、単純計算で883gになったんです。でも、わざとやらなかったんです。12時間もたなくなってしまうから。

――バランスのせめぎ合いの中で、バッテリ駆動時間を優先したと。

坂田: もう、涙を飲んで(笑)。SXシリーズでと同じ水準の15時間、17時間駆動でないと、お客さんは満足できないだろうと思ったんです。900gは超えるけど、4セルでやりきろうと。結局、バッテリ駆動時間は、929gのモデルで約14.5時間を確保しました。せめぎ合いではあるんですが、目標は「いかにお客さんに満足して使っていただけるか」なんですよね。そこを守ったうえで、最大限何をしなければいけないかを、取捨選択しながら進めています。

「Let'snote SZ5」(左)と「Let'snote SX4」(右)。SX4のバッテリは飛び出しているが、SZ5ではディスプレイサイズ内に収まっている

――SZ5の外観デザインでは、きょう体のエッジ部が少し削られましたね。これはなぜですか。

坂田: ちょっとでも薄く見せたいという気持ちです(笑)。周りを全部削って、C面(編集注:面取り。角や隅を削ること)をつけました。SXシリーズが厚さ24.5mmだったので、前モデルの厚みを超えることは「まかりならん」わけで。実はC面を切らないデザインも作ってみたのですが、かなり太く見えるんですよ。

――アスペクト比が変わって、前モデルより正方形に近い形になったのも要因ですか。

坂田: そうですね。SZ5の画面解像度は1,900×1200ドット(16:10)になって、1,600×900ドット(16:9)のSXシリーズより縦型になりました。試作段階で、同じC面のつけ方をしたLXとSZを並べると、分厚く見えるんです。横幅がないから。逆に14型のLXの方が、薄く見えるんです。歴代のSXシリーズを並べてみると、「SZ一番厚いやん!」と(笑)。実際には薄いんですが、横幅がないから、四角い塊みたいに見えちゃう。これが嫌で、削りました。

――画面の話が出ましたが、SZ5も含め、この秋冬モデルはLet'snoteシリーズ初のWindows 10搭載ですね。これに関して苦労した点はありましたか。

鈴木氏(以下敬称略): 今回、私がWindows 10搭載の部分を担当しました。今回はアップデートなどの対応に苦労しましたね。というのも、通常はメーカーがPCに搭載するOSが、ユーザーに提供する最初のOSになりますが、今回はWindows 10というものがすでに世の中にある中で、SZ5にWindows 10が載るという異例のリリースだったので。

――アップデートというと、Windows 10では独自ソフトウェアの対応が大変だったようですが。

鈴木: 問題ではないんですが、Let'snoteの独自ソフトウェアのひとつに、「パナソニックPC設定ユーティリティ」という、Let'snoteの設定ソフトがあって、今回、これをWindows 10向けに改善しました。今までは、省電力やユーティリティなど、設定ソフトが個別にあったのですが、「数が多くて使いにくい」という要望から、散らばっている設定ソフトをまとめた統合インタフェースを開発しました。

今まで個々に開発していたソフトをひとつにまとめるので、デザイン面含め、わかりやすく統一感あるUIにする部分が大変でしたね。

「パナソニックPC設定ユーティリティ」の例。輝度やバッテリに関する基本設定、画面回転や電源プランなどの拡張設定、ユーティリティ関連の設定などが、1ソフトにまとまった

――今回、キーボードのレイアウトも変わりましたね。

坂田: そうです。10.1型のRZが「小さいのに使いやすい」と好評で、レイアウトを踏襲しました。右下の特殊キーを通常キーと同サイズにしたり、独立カーソルキーを設けたり、といった部分ですね。RZと違い、ストロークは2mmですが。

ただ、Sシリーズ(編集注:SXシリーズの前身。2012年4月生産終了)も独立カーソルキーだったんですけどね(笑)。これを受け継いだRZが評判で「やっぱり右のカーソルキーは一段下がった方が使い勝手がいいよね」「句点や読点の特殊キーも、他のキーと差をつけすぎると使いにくいよね」ということで、SZ5はこのレイアウトになりました。いわば逆輸入ですね。

――最後に、ちょっと気になることを聞きたいのですが。SZ5は10月7日に発表されましたが、その直前、10月6日深夜に、Microsoftから高性能の2-in-1 PC「Surface Book」が発表されました。奇しくも同タイミングでの発表でしたが、同じ"ハイエンド"というカテゴリで、「Surface Book」と「Let'snote」は競合しませんか。

坂田: 難しいですね。「ハイエンド」という言葉だけでみたら、ジャンルは重なるかもしれませんね(笑)。しかし、形は重なってない。あちらは2-in-1ですし、Let'snoteにはしっかりしたキーボードがついています。我々としては、競合していないという理解です。

「Let'snoteを買うか、Surface Bookを買うか迷っている」というユーザーさんにとっては競合するかもしれません。しかし一方で、「クラムシェル型が一番使いやすい」というユーザーさんもいるでしょう。我々は、クラムシェル型ならストロークのあるキーボードが打ちやすいと思っていますし、仕事に必要なインタフェースを全部用意させてもらっています。Let'snoteが一番使いやすいんじゃないかと思って提供しています。

ただ、実際にユーザーさんがどう思うかは別ですし、「多い端子はいらない」「キーボードは薄いほうがいい」など、PCを選ぶ基準もそれぞれなので、我々がどうこう言うことではないのかなと思いますね。

――ありがとうございました。