ローコストキャリア(LCC)のPeach Aviationは現在、国内線13路線・国際線9路線を展開している。16機のA320を用いて1日最大90便以上にもなる全フライトを集中管理しているのが、関空内のPeach本社内に設置されたオペレーションコントロールセンター(OCC)だ。今回、Peachの運航のカギを握るオペレーションの中枢で行われていることを運航統括責任者のひとりである深澤容子課長に聞いた。
"アリのコミュニケーション"が可能な環境
OCCでは各空港や天候、機材などの状況を24時間体制で見守り、定時・安全運航のサポート以外にも、台風や大雪などの悪天候や機材のトラブルなどのイレギュラーな事態にも迅速に対応している。PeachのOCCには運航管理やスケジュール統制などいくつかの部署が集約されており、スタッフは全員キャリア採用となっている。統括はシフト制で、運航管理を担う深澤課長もそのひとりだ。
Peachは2012年3月に就航し、同年10月には日本初となるLCC専用ターミナルとして誕生したターミナル2に移行した。そのターミナル2で運用が開始された時、Peachは環境の変化もあって一時的に定時運航率が落ちた時があったと深澤課長は言う。
「その時はすぐに関連部署が集まって、地上ではどのような工夫をすべきか、旅客や客室、委託先であるグランドハンドリングはどうすればいいのかをみんなで知恵を出し合って考えました。いかにしてオンタイムで飛ばすか。Peachは実行に移しやすい環境ということもあり、いい提案に関してはどんどん取り入れるようにしています」(深澤課長)。
この"実行に移しやすい環境"というのは、Peachのオフィス構造そのものにも理由がある。Peachのオフィスはワンフロアという開放的な空間になっており、井上慎一CEOを挟んでエアポート・オペレーションコントロール部、その隣に整備部と運航部があり、航空機の運航に直接関わる全ての部門がCEOの周りに配属されている。通常、CEOの席というと別室などという構造になっているものだろうが、Peachでは一般社員と同じくごく自然に井上CEOが座っているのがとても新鮮に思えた。
オフィスの構造に関して井上CEOは、「この位置からだと社内で起こっていることがすぐ分かる。何かトラブルが起きていそうならすぐ駆けつけられ、情報共有や解決への意見もすぐできる。私はこれを"アリのコミュニケーション"と言っているのですが、スピード感が全然違ってくるんです」と語る。実際、その効果はオペレーションの決定においても現れているという。
台風から飛行機を守るために
深澤課長に今までで一番、OCCの団結力を実感したことはなんですかと聞いたところ、日々いろいろある中での一例として、台風時の対応を例に挙げた。
台風で関空にも影響が及ぶ可能性がある場合、格納庫に飛行機を全てを収めることはできず、そのまま駐機場に飛行機を置いておくこともできない。そのため、各空港に飛行機に飛ばして安全なところに駐機させる必要があり、仕事先に協力を仰ぎみんなで飛行機を守る対応を迅速に行ったという。
その場合、運航乗務員はもともと予定をしていない運航でのステイとなるため、その運航乗務員の調整も必要となる。限られた時間で決定を下すために、全ての部署が緊密に関わりあえる環境は強みと言えるだろう。
乗客の利益のために遅延してでも飛ばす
8月8日にPeachが羽田=台北線を就航した際、台北線行きの初便は台湾に上陸した台風13号の影響で、定刻から約10時間45分遅れの16時40分に羽田空港を出発した。この時の状況として深澤課長は「お客さまの救済が第一でした」と語る。
「お盆前の繁忙期に振替先があるわけではないですし、また、うちが安いから選んでくださっているお客さまであるにも関わらず、高い他社便を薦めることはできません。そのため、できるだけ就航させたいという想いがありました。国際便だと海外に取り残されるという場合もありますし。条件がそろったので、遅延もありましたが飛ばすことができたという状況でした」(深澤課長)。
機材数に限りがあるLCCでは、大手などに比べるとイレギュラーがあった場合に動かせる機材に余裕がないのが実情だろう。その中でも、その時に使える機材や乗員が乗務できる時間、空港の運用時間などあらゆることを考えた上で、乗客の利益のために遅延してでも飛ばす。もちろん、できない時は欠航することもあるのだが、深澤課長が言うような「その時々の状況でベストを尽くす」ことがオペレーションコントロールの信念と言えそうだ。