ドラマ版『デスノート』と『ど根性ガエル』が話題を集めている。なかでも圧倒的に目立つのは、「原作からなぜ変えた?」「キャスティングが違う!」などの厳しい声。脚本・演出・演技などのクオリティ以上に批判が集まっているのは間違いない。
ただ、このような批判は今クールの話だけではなく、マンガ原作の実写化が発表されるたび、判で押したように同じ現象が起きている。では、なぜこのようなことが起きてしまうのか? なぜ批判が多いのにマンガ実写化が減らないのか? 過去の作品を交えつつ、マンガファンと制作サイドの両面から考えていく。
第ゼロ印象は最悪。それでもOK
『デスノート』『ど根性ガエル』ともに放送前の評判は最悪だった。「何で今さら」「原作を汚すな」などの過激なコメントも多く、スタッフとキャストは心を痛めていたようだが、フタを開けてみたら初回の視聴率は16.9%と13.1%。内容の賛否両論はあれど、上々のスタートを切った。
基本的にドラマの場合、お金を払ってわざわざ出かける映画とは異なり、無料の自宅テレビだけに「とりあえず初回を見てみよう」という様子見の視聴者が多い。これは一見マイナスのように感じるが、制作サイドから見たらそれでもOK。娯楽が多様化し、便利なデバイスが普及した現在では、初回を見なかった人の途中参戦は極めて難しく、「どんな形でもいいから初回を見てもらいたい」というのがホンネなのだ。
先日あるドラマ演出家に話を聞いたのだが、「批判の声で最も多いのは、一度も最後まで見ていない人。最近の視聴者は何でも自分の意志で決めたいから、一度でも見た人なら、次に見るか見ないかは自分で決めるはず」と話していた。確かに、グルメの「食べログ」に置き換えても分かるように、クチコミを参考にするのはその店に行く前の人たちであり、批判を書く人ほどコメントに具体性がない。その意味でドラマ制作サイドは、自分の作品を信じているように、一度でも見てくれた視聴者のことも「信じよう」と思っているのかもしれない。
「成功」が多いのは恋愛と熱血モノ
次に、マンガ原作の実写化における「成功」と「失敗」を考えていこう。テレビの視聴率や、映画の興行収入などの数字がよければ、「成功」とするのが自然ではないか。また、原作マンガファンから称賛を集めたドラマに関しても「成功」。なかでも原作の世界観を広げたドラマに関しては、「大成功」なのかもしれない。
まずドラマの実写化で最も成功しやすいと思われるのが恋愛モノ。古くは『東京ラブストーリー』の大ヒットがあり、21世紀に入っても『花より男子』『ホタルノヒカリ』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』『モテキ』『きょうは会社休みます。』などが大きな話題を集めた。"恋愛モノ"は、原作マンガの世界観がシンプルなため壊れにくく、キャスティングさえハマっていればファンからの批判を受けにくい。新たなファンを開拓し、若手の登竜門になるというメリットもある。
また、『海猿』『サラリーマン金太郎』『GTO』『ごくせん』『ROOKIES』『アオイホノオ』などの"熱血主人公モノ"も「成功」とされるドラマが多い。紙で伝わりにくい"熱さ"は、まさに映像向きであり、主人公をハジけさせるほど視聴者に臨場感や爽快感を与えられる。
さらに、『Dr.コトー診療所』『医龍』『仁-JIN-』などの"医療モノ"や、『孤独のグルメ』『深夜食堂』『味いちもんめ』などの"料理モノ"にも「成功」とされるドラマが目立つ。ともに紙では描き切れない肌感覚を伝えられるジャンルであり、原作を大幅に変えた意欲作も多い。
その他もクラシックブームを作った『のだめカンタービレ』、いまだ復活待望論が消えない『特命係長 只野仁』、ヒロインを代えて繰り返し実写化される『南くんの恋人』、まさかの実写化とキャスティングで度肝を抜いた『荒川アンダー ザ ブリッジ』など、「成功」とされるドラマはまだまだある。ジャンルは音楽、アクション&セクシー、ファンタジー、ギャグと異なるが、原作マンガを忘れさせる突き抜けた演出で称賛を集めた。
マンガと小説の実写化はどう違う?
ちなみに同じ実写化でもマンガと小説では事情が異なる。原作への思い入れこそ大差ないが、絵が描かれているマンガは読者のイメージが同一化・均一化されやすいため、実写化に対する批判が集約され、一気に炎上してしまう。一方、文字だけの小説は読者のイメージが人それぞれのため、実写化に対する批判も集約されず、大きなうねりにはなりにくい。
「何も考えずに読める」マンガと、「想像力を働かせながら読む」小説の違いと言ってもいいのだが、「何も考えずに見られる」ドラマはどちらかと言えばマンガの感覚に近い。だからドラマを見たマンガファンが内容や印象の違いを感じると、思わず批判したくなってしまうのではないか。
また、小説よりもマンガの方がヒーローやヒロインが神格化されているケースが多く、その程度が強いほど実写化のリスクは上がる。特にリスクを負うのはキャスト側。キャスティングが発表されたとき、「イメージと全然違う!」「事務所のゴリ押し!」などの総攻撃を受けるリスクが高いからだ。一方、小説は見た目のイメージがないため、そこまで主人公が神格化されるケースは少ない。
いずれにしても、ネットへの書き込みは批判をしたいときにヒートアップする。さらに、見ていないのにそれを面白がってあおる人も多い。もともとマンガファンとネットユーザーは親和性が高いため、批判のベクトルが合いやすく、大きなうねりが生まれやすい傾向がある。それだけに制作サイドとしては、放送前の段階から「批判を受けにくい」コンセプトやキャスティングを意識しなければいけないのだ。
原作ファンにとって「成功」はない
制作サイドに求められるのは、原作ファンの批判を受けないようにしつつ、一方で「あまり気にしすぎない」姿勢ではないか。実際、シーンやキャラを1つ追加しただけでも気に入らないファンも多く、そもそもドラマ化どころか「アニメ化さえ許せない」という人もいる。
それでもテレビはマンガよりも圧倒的に母数の大きい媒体だけに、新たなファン開拓の可能性が高い。マンガファンだけに気をつかってそのチャンスを逃してしまうのはもったいないのだ。もともとマンガファンは、どれだけ脚本・演出に工夫を凝らしたとしても、自分の好きなマンガを超える「成功」はないと思っている。決して「これはこれ、あれはあれ」とはならないのだから、「配慮の跡をどう見せるか」だけを考えればいいのかもしれない。
現状は制作サイドがマンガファンに気をつかいすぎている印象が強い。しかし、原作者は、「好きにやってください」という人の方が多数派だ。むしろ、「自分の作品をどう料理してもらえるのかな」とワクワクしているだけに、もっともっと賛否両論を巻き起こす大胆なアレンジがあってもいいような気がする。それこそ「原作」ではなく、「原案」という扱いで思い切ったドラマを作ったら、マンガファンをいい意味で驚かせられるのではないか。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。