「素材を組み合わせる中から生まれる無限の可能性を楽しみたい」

DIR EN GREYやthe GazettE、湘南乃風など日本のトップクラスのミュージシャンや、現在世界中でブームを巻き起こしているBABYMETALなどさまざまなアーティストたちのCDジャケットデザインを手がけるアートディレクター、コラージュアーティストの依田耕治(よだこうじ)氏。圧倒的な世界観で目を引くその作品は、さまざまな素材を組み合わせて一枚の絵を完成させるという独自の方法で制作を行っている。

依田氏の作品

依田氏は2011年にあらゆるアートワークを担う職人集団「六識」(ROKUSHIKI)を発足。シックスセンスとも言われる仏教の六根(眼,耳,鼻,舌,身,意の6つの感官能力)をネーミングに取り入れ、数年前の個展開催のタイミングから「コラージュアーティスト」を名乗っているという。

絵の具を混ぜて作りあげられたテクスチャや自身で撮影した植物の写真、そして様々なデジタル素材を、それぞれ計算され尽くしたバランスで組み込むことで新たな生命観をもった作品は、見る人を惹きつけて止まない。直近では、ワコム主催の「Create more」キャンペーンに参加し、その精緻なコラージュ作品を生み出す過程を公開している。

今回はそんな依田氏に、ご自身のお仕事とその制作を支えるツールとの関わり方についてお話を伺った。

アートディレクター、コラージュアーティスト・依田耕治氏。日々、忙しく働いている依田氏だが、これまで営業をしたことはないという。「人とのつながりを大事にしている」という言葉通り、気づけば人の紹介で次の仕事の依頼が入ってくるそうだ

――まず、現在のお仕事にいたるまでの経緯を教えてください。

僕の場合、やはり一番やりたかったのがCDのジャケットのデザインだったので、そういうことができる仕事はないかと探しました。

デザイン専門学校を出た後、SP(セールスプロモーション)ツールなどを製作する会社で働いていてその後、フリーアシスタントとしてジャケットデザインをしているディレクターについて働いたのが最初ですね。そこから僕の世界はガラっと変わりました。

――DIR EN GREY(ディル・アン・グレイ)のアートワークを長らく手がけていらっしゃいますが、直近のアルバムはどのように制作されたのでしょうか?

このアルバムの制作は本当に大変でしたね。タイトルの「ARCHE」(アルケー)とは哲学用語で「はじめ・根源」という意味があってそれをどうコンセプトに据えてデザインをしていくのか、ストーリー立ててプレゼンテーションするところから始めました。

『ARCHE』DIR EN GREY
このCDは最終的にジャケットが決定するまでに数十案の提案を繰り替えしたという。さらにそこからタイトルのフォントや置き位置を決めるために部屋中にバリエーションの出力を広げてメンバーも全員参加の上、決められたそうだ

CDのデザインって、自分と、アーティストがいかに気持ち良くなれるか、っていうところが大切なんです。だからこそ、お互いの表現したいものや世界観の溝をうまく埋めていくのが難しいですし、そこが何より面白いところです。海から全てが始まり、命が誕生していく地球の営みの中このオブジェは妊婦を模していて、妊婦は胎内に音楽を宿しているというストーリーです。

アーティストというのは基本的にアルバムを制作し、そのアルバムのコンセプトにそってツアーを展開していきますが、実はこのビジュアルで使用したオブジェはまだ全景を公開していないんですね。いずれDIR EN GREYのツアーの中で、次第にその輪郭がはっきりしていくと面白いですね。彼らは音楽にもデザインにもとてもこだわりのある人たちなので、度重なる軌道修正に対応しつつ、しっかりした着地点を見出してデザインしていくことに苦労しました。

こちらは「かなり自由に作らせてもらった」という湘南乃風の『バブル』のジャケット。 ゲーム「龍が如く0」の主題歌となったこともあり、派手な勢いと裏腹の儚さがにじむギラギラとした仕上がりが印象的だ

――いつ頃からデジタルでの制作を始められたのですか?

15年前くらいですね。ペンタブレットの機種で言うと、Intuos2の頃だったと思います。当時はコピースタンプツールを多用したレタッチをしていて、マウスを使っていました。

今でこそペンタブレットをメインツールとして使っていますが、実は、最初は使いこなせずにすぐに諦めてしまったんです…(笑) その後、Macやアプリケーションの性能が上がり、Photoshopでパスを切ってIllustratorに持っていく作業にストレスがなくなったんですよ。Intuos3が発売された時期だったでしょうか。そうしたらもう、マウスでチクチクと切っていくのが急にだるくなってしまって。そして、再度ペンタブレットを使ってみようと思い立ったんです。

3日くらいですっかりペンタブレットになれて、そうしたらもう絶対に戻れなくなりました。今はIntuos Proを使っていますが、Intuos3と比べると筆圧感知機能も格段に向上していて、本当に快適です。僕はイラストレーターではないので、細かい線を引くなどの作業はないんですが、写真を加工するという意味では、細かい部分の作画や修正、ぼかしなどに使用しています。

デザインのレイアウトではマウスを使って、画像の加工をペンタブレットで、と二刀流で使い分けているそうだ

圧倒的なレイヤーの数。ほぼすべてパスを切って制作していく

――ペンタブレットを持ち運んで使うことはありますか?

はい。Intuos5のSmallを持ち運んで使います。実は僕、結構「出張デザイン」するんですよ(笑)。締め切りが近いタイミングでアーティストがコンサートで地方に行ってしまっていたりするので、もうそうなると一緒に行くしかないので。手を動かしながら目の前でデザインを確認してもらう、なんてことも頻繁にあるため、Smallサイズは重宝しています。

――なるほど。では、ペンタブレットを使う時のこだわりなどがあれば教えてください。

先ほど言った通り、僕は今Intuos Proを使っていますが、カスタマイズなどは特にしていません。入力機器としてしっくり体になじむので、大変重宝しています。

でもつい最近、替え芯の存在に気づいたんですよ(笑) 当然それまでは標準芯を使っていたのですが、ハードフェルト芯を使ってみて虜になりました。もう全く書き味が違うんですね。びっくりです。

以前は「ここまで」と決めた終点部分になるとぶれないようにギュッと力を入れていたんですけれど、ハードフェルト芯を使うと適度に摩擦があって滑りすぎない。使用感が紙に近くて、無駄な「りきみ」がなくなり、作業がしやすくなりました。

プロ向けペンタブレット「Intuos Pro」は、ボタン操作の角度やフラット感などのユーザーエクスペリエンスの向上も大きな特徴となっているとのこと。またラジアルメニューやペンのサイドスイッチなどカスタマイズ性も自在

――主にどういった作業の際にペンタブレットを使うか教えてください。

作品の仕上がりによっても変えますが、バッサリと切り分けたい部分はパスで、なじませたい部分はマスクを使って、ボケ足の部分を調整したりしています。これらの作業にはすべてペンタブレットを使用します。紙を破ったようなフリーハンドっぽいパスなんかも、ペンタブレットなら簡単に作れますね。

――アナログからデジタルに変えてよくなったところはありますか?

正直なところ、デジタルとかアナログとか、そういった切り分けが僕の中にはあまりないんだと思います。写真を撮ったり、筆で描いたり、そしてデジタルで描いたりと、そういった作業を選ぶのもすべて同じことで、イメージしたものに何がどの方法が一番合うか、それに合わせてツール選択をしているだけにすぎないんじゃないかな、と。デジタルあるいはアナログのどちらかに絞って追求していこうという方向にならないのは、そういう思考があるからかもしれません。

とはいえ、ペンタブレットを導入したことで、作業効率もクオリティも圧倒的に向上したのは確かです。

――今後、取り組んでみたい作品は?

個人的には、壁一面になるくらいの大きな作品をつくってみたいなと思っています。コラージュという作品の性質上、絵描きともカメラマンとも違うので、既存の素材同士を単純に集めて組み合わせるというより、今後はもっと自身でコンセプトに基づいた素材作りから取り組むことによって、作品のオリジナリティーを高めていきたいです。

――最後に、ジャケットデザインを仕事にした依田さんから、クリエイター志望の人にアドバイスをお願いします。

『生き方を楽しむ』ことを大切にしてほしいと思います。「技術」というのは努力次第で後から付いてくるものですが「想像力」はそうはいかない。興味をもって「無駄だと思うこと」をどんどん経験して、たくさんの人に巡り合ってください。それが想像力を育て、発想や自分の引き出しを豊かにしてくれると信じています。

あと、ペンタブレットは早くから導入した方がいいですよ(笑) 3日握っていれば二度と手放せなくなる。ストレスが軽減されるし「自分、やってるぜ感」があるんですよね(笑)。このモチベーションって、すごく大切な気がしています。

なお、現在展開中の「Create more」キャンペーンでは、依田氏の作品が生まれる過程をeブック形式で公開中。キャンペーンサイトでメールアドレスを登録すると無料でダウンロードすることが可能なほか、6月27日には東京都・新宿にて依田氏自身がコラージュのテクニックを紹介するセミナーも実施される。同氏の作品や創作の秘訣についてより詳しく知りたい人は、ぜひチェックしてみてほしい。