坂上忍が『バイキング』(フジテレビ系)の全曜日メインMCに就任して2週間が過ぎた。偉大なる『笑っていいとも!』のあとを受けてスタートした反動もあって、視聴率や評判は低迷……。すっかり「残念な番組」という扱いに甘んじた感もあるが、巻き返しの光は見えているのか?

ここではリニューアル前後の違いと、坂上忍の"MCスタイル"を検証していく。

なぜか番組は落ち着いた方向へ

『バイキング』の全曜日MCを務めている坂上忍

まずはリニューアル前後の違いから。意外だったのは、事前収録したVTRのコーナーが多いこと。「坂上忍の年収を街頭インタビューで尋ねる」「アンガールズ田中卓志が巨大シェアハウスに潜入」「デヴィ夫人が行列店で並ぶ」など、生放送のライブ感とはかけ離れたものが多く、夜のバラエティ番組と変わらない印象を受ける。

これまでは「生中継! サンドウィッチマンの日本全国地引網クッキング」「商店街から生中継!『バイキング見た』で特典ゲット!」「メンディー先生の突撃! 昼休み学校訪問」「今田耕司の美人会社員巡り クリスマスまでに素敵な恋人を見つけよう」「宮迫和尚の悩める夫かけこみ寺」など、「時間が読めない」「ハプニング歓迎!」の生放送企画も多かったが、ここにきてグッと減った。これは放送時間のほとんどを収録コーナーに費やす、裏番組の『ヒルナンデス』と同じスタイルだ。

内容が落ち着いたのは各コーナーだけでなく、スタジオのセットも同じ。これまでは観覧客を入れ、MCや出演者は立ち話で進行していたが、リニューアル後はワイドショーのように座って話す形式に変わった。この変更によって「どんな発言が飛び出すかわからない」というムードは消え、「台本通りにトークを進める」という印象が強くなっている。

つまり、生放送ならではのドキドキ・ワクワクよりも、安定感・安心感を選んだということか。ただ、あのテーブルは、「タレント側と視聴者側を分け隔てる壁にもなりかねない」危険なシステム。生活情報を扱う番組だからこそ、親近感・一体感が失われてしまわないかと心配してしまう。

「路チュー」トークに坂上の真骨頂

そして、メインMCとなった坂上忍について。これまで月曜MCで見せていたキャラは、基本的に変わっていない。この人は立ち位置が変わっても全くブレることなく、「自分以上や以下のことをやろうとしない」タイプだ。

実際、すみれが紹介した料理を「これマズイ」と言い切り、関口メンディーのスベリギャグ「ウメンディー!」に嫌な顔をし、6歳の子役・寺田心くんにコーナーを締めさせ、「番宣が一番嫌い」とギリギリまでゲストを拒否したり、猫を紹介するコーナーで「僕は犬派」とつぶやくなど、そのスタンスは正直かつ自由極まりない。時に間違っていることもある反面、「よくぞ言ってくれた」のときもあるなど"共感できるギリギリのライン"をキープしているのではないか。

中でも坂上の持ち味が出ていたのは、2日の放送で"路チュー"の話をしていたとき。自ら「若いころはしまくっていましたよ」と前フリを入れつつ「(E-Girlsの)Amiちゃんはチュッチュチュッチュしてたんじゃないの?」としつこく追及して、「私、一度しました。ファーストキスは路チューでした。同じ学校の人で一緒に帰った別れ際に……」と赤面エピソードを引き出した。さらに、蛭子能収から「井の頭公園の木陰で……」、丸岡いずみから「路上はないけどお風呂で。一緒に入ってますよ」というコメントを引き出した上で、「気持ち悪い」とバッサリ切り捨てるなど、生放送とは思えないテンポのよさで爆笑を呼び込んでいた。

MCの仕事が増えるにつれて、発言や振る舞いがソフトになる有吉弘行やマツコ・デラックスとは異なり、坂上の姿勢は変わらず直球勝負。ダメ人間というより、どこか常識人を思わせる有吉やマツコに対して、坂上は子どもっぽいダメ人間キャラを貫いている。

坂上とMC芸人の微妙なトリオ

坂上のMCスタイルをシンプルにまとめると、"毒を吐きながら、素朴な疑問でネタを掘り下げ、女性陣にセクハラで絡み、結局持論で締める"。自然体で振る舞いつつ、盛り上がるシーンを要所に盛り込みながら、番組を進めているように見える。

しかし、昨今のブレイクでMCの場数を積んだ坂上も、ブラックマヨネーズ、フットボールアワー、雨上がり決死隊らMC芸人との"共同MC"は未経験であり、放送前は心配の声も上がっていた。

ところがフタを開けてみると、コンビの間に挟まれて立つ坂上に違和感はなく、特に小杉竜一や後藤輝基らツッコミ役との絡みは良好で、ボケ役の存在感が薄くなってしまうほど。ただこれは裏を返せば、「MC芸人たちが坂上に気をつかい、花を持たせる」とも言える。「MC芸人が坂上をうまく使い、お互いの持ち味を生かしている」夜のバラエティ番組とは対照的なのだ。

たとえば、テレビ出演の大半がMCである雨上がり決死隊は、手探りで坂上との距離感をはかっているように見える。今のところ空振りが多いものの、「宮迫が『天然素材』時代のように大声でボケまくる」などの化学反応が生まれつつあり、今後の融合に期待を持たせた。今後、坂上とMC芸人コンビが、お笑いトリオの"ツッコミ+ダブルボケ"のような図式に整理されていくのか、注目のポイントだ。

また、その点でイレギュラーなのが、唯一MC経験の少ないEXILE・NAOTOと組む火曜日。坂上に「NAOTOに頼らず自分発信で進めよう」という意識があるのか、人もモノも手当り次第にイジリ倒し、グイグイ引っ張っていく姿が見られる。「何とか食らいついていこう」と張り切るNAOTOと坂上の関係性は微笑ましく、芸人の師匠と弟子に近いかもしれない。

苦労、子ども、動物……資質は十分

もともと坂上は子役時代から波乱万丈の人生を歩み、実家の借金苦、両親と自らの離婚などで苦労を重ねてきた。また、子役育成スクールを運営しているため子どもの扱いがうまく、無類の愛犬家であるなど動物にも詳しいという一面もある。どんな話題にも対応できる上に、鉄板ネタの"子ども&動物"に強いとなれば、昼の帯MCとしては申し分ないだろう。

リニューアル直後だけに小さな違和感はあるが、『バイキング』にトークスキルの高いメンバーがそろっていることは確かだ。それだけに今後のカギを握るのは、「彼らを生かす企画をどれだけ発掘できるか?」。微妙に切り口を変えながら支持を集めている『ヒルナンデス』を見るとそのことが分かる。生放送らしいハプニングが発生するくらいの方が、坂上やMC芸人の生き生きとした姿が見られるのではないか。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。