新社会人や人事異動で、職場環境が変わることの多い4月。新しい人間関係をスムーズに構築するためには、社内でのコミュニケーションが不可欠だ。そんな中、ユニークな職場環境推進プロジェクトを実施している会社として挙げられるのが「博報堂i-studio」。クリエイティブにテクノロジーをかけ合せ、新しいコミュニケーションを創出しつづける同社では、良質なクリエイティブを生み出すための働きやすい職場づくりを目指した「iGOCOCHiプロジェクト」という職場環境向上施策を開発・実施している。そんなユニークなプロジェクトに携わる担当者に、具体的な取り組み事例の内容や、社内環境の改善状況について話を伺った。
役員の“知識”もレンタル!?
同社がiGOCOCHiプロジェクトとして実施しているひとつが趣味モノ貸し借りサービス「Cali-Ciao!」。これは、趣味のモノの貸し借りを促す取り組みで、貸し借りで生まれる新たな会話のきっかけを創出し、社員間コミュニケーションを活性化することを目指したものだ。現在では、モノの貸し借りの枠を飛び越え、“知識”や“時間”の貸し借りなども盛んに行われるようになり、仕事に直結する知見やアイディアを共有する場としても活用され始めてきているという。プロジェクトを担当するメンバーから発展までの裏話をうかがった。
「以前から開催している社内セミナーのトークセッションで、若手から盛んに質問されていた役員の知識をCali-Ciao!に登録する話が出てきました。そこから“一緒にカラオケ”などの“時間”を共有する登録が増えていき、新しいコミュケーションのプラットフォームに発展してきました」(データドリブンクリエイティブ部チームリーダー/UXデザイナー・伊藤智之さん)
「役員との“飲みニケーション”が借りられることが一番多いですね。あとは、システム担当者の専門的な話を聞く時間とか。Cali-Ciao!のシステム的には、ウェブから本人にメールが直接飛ぶようになっていますので、そこから先は個人間でのやり取りになり新しいコミュニケーションが生まれることになります」(経営管理部情報システムチーム・ネットワークエンジニア・西牟田和子さん)
一方、プロジェクトの担当者たちは、バックグラウンドで取り組みが活性化するための施策を行っているという。「週刊と月刊でメルマガを発行して、ランキング紹介や季節的なイベントと絡めた特集を組んだり、サイト上で借りたいアイテムのリクエストを受け付け、そのアイテムを持っている人がいないかも呼びかけたりしています。」と西牟田さん。また、ログの解析を行い、メルマガの発行状況とセッション数の相関性なども分析し、仕組みをつくって終わりというだけでなく、持続的な活性化にも努めているという。
社内限定ラジオをオンエア
そして、これまでにない社内コミュニケーション方法として反響が大きいプロジェクトが「キキミミ」だ。会社改善の意見を従業員から募るために開始された全社目安箱システムで、活動2年目となる今年からは、目安箱に寄せられた意見をラジオ番組として発表する形式に進化。パーソナリティはプロジェクトメンバーが務め、従業員からの社内改善案や悩み相談から、会社周辺の美味しいお店情報など社員向けに特化した30分番組「キキミミラジオ」として月2回社内限定でオンエア放送している。メインはポッドキャストスタイルのオンデマンド配信だが、最近では12時~14時頃までのランチタイムに社内のリフレッシュラウンジでもオンエアしているとのことだ。
プロジェクトを担当し、番組内でDJも務めるコンサルティング事業部インタラクティブディレクター/UXデザイナーの小原大貴さんは「番組のSEやジングルも社員が制作し、音にはこだわってつくっています。番組内では、ラジオネーム制をとっていて、社員から投稿された意見を紹介したり、トーク番組のように、プロジェクトの担当者をゲストに招き、プロジェクトに掛ける想いを話してもらったり、解決策を求めたり。投書箱も最初のうちは、要望や不満が多かったんですが、番組をやっているうちに様々な提案が入ってくるようになり、投稿の質が変化してきましたね」伊藤さんも「キキミミは会社(経営陣)と従業員とのコミュニケーションツールですね。会社に対して提案ができるという雰囲気ができて、今までよりも意見を言いやすくなりましたね」と社内における変化を語る。
“晴れの舞台”用の衣装をレンタル
さらにもうひとつユニークな社内施策が昨年10月に新たに立ち上げられた「HAREGi」。競合プレゼンをはじめ、広告祭の授賞式といった“晴れの舞台”用の衣装やアイテムを従業員に貸し出す取り組みで、ネクタイを中心に、スーツやバッグなど現在20点ぐらいが利用できるという。晴れ着ということで、若手社員ではなかなか買えないような価格帯のアイテムをプロジェクト予算で揃えたとのことだ。iGOCOHiの新しい取り組みをプランニング・サポートする、データドリブンクリエイティブ部インタラクティブプラナーの田中耕太さん。実際にHAREGiを利用した社員の“着てみましたレポ”などを紹介しているという。田中さんは「どんな施策も実際にやってみないとそのよさがわからないというのがあります。HAREGiも同じことで、実際に使ってもらい、体験してもらうことが大事なんです。その上で別の要望があれば吸い上げて改善していきたいと思っています」とその意義を語る。また、小原さんによると、今後の展望として「最終的にはその衣装を着たことで"プレゼンに勝った!"というようなゲン担ぎのようなものにもなれればいいなと思っています」とのことだ。
“良質なクリエイティブを生み出すためには、日々多くの時間を過ごす職場の環境が大切”と考え、さまざまな職場環境改善プロジェクトに取り組む博報堂i-studio。どの業界においても、顧客のニーズに応える製品やサービスを生み出し、優れた成果や労働生産効率を高めるためには必然の条件だ。今回紹介した、デジタルクリエイティブ集団として業界をリードする博報堂i-studioの斬新で先進的な取り組みは、クリエイティブ業界に留まらず、その他多くの業界や企業にとっても社内コミュニケーション活性化に参考にしたいヒントが満載だ。