Satya Nadella氏がCEO(最高経営責任者)に就任した2014年2月から1年が経過した。以前のMicrosoftと同じ企業とは思えないほど、その姿勢やアクションは大きく変化し、日本マイクロソフト関係者の言葉の端々からも戸惑いと期待とが伺える。
Nadella氏が発したキーワード「モバイルファースト、クラウドファースト」は、人々が持ち歩くデバイスだけではなく、出向いた先にあるデバイスを含むモバイル、そして、これらがすべてクラウドへ常につながった世界をMicrosoftが目指すというものだ。そこにはデバイスはもとよりOSというプラットフォームの仕切りすら存在しない。その姿勢をよく現しているのが、iOS/Android向けのアプリケーションやサービスだ。
Microsoftが公開した「2014年を振り返るB-roll」と題した動画より。CEO就任時のシーンでは、歴代CEOであるBill Gates氏(左)やSteve Ballmer氏(右)にNadella氏(中央)が祝福されている |
iTunesで検索したMicrosoft製のiOSアプリ。執筆時点でiPhone向けは43タイトル、iPad向けは37タイトル。一方、Google PlayにおけるAndroid向けアプリは57タイトルだった |
以前のレポート記事でも紹介したように、クロスプラットフォームに対する取り組みはOfficeチームが特に際立っている。もちろんOSのような縛りが存在しないからこそフットワークも軽く、iOSやAndroidといった他のOS版をリリースできるのだろう。
Officeチームはさらにオンラインストレージという分野でもクロスプラットフォーム化を推し進めている。2014年11月にはDropboxとの提携を発表し、iOS/Android版OfficeアプリケーションからDropbox上のファイル編集を可能にした。
Microsoftが自社のオンラインストレージであるOneDriveにこだわらず、他社製オンラインストレージをサポートしたことに驚きを覚えた方も少なくないだろう。だが、前述したNadella氏の方針を踏まえれば、それすらも不思議な話ではない。そしてOfficeチームは新たな施策を発表した。
ポイントは「Cloud Storage Partner Program」の設立と、「Office Online(旧Office Web Apps: 2014年3月に改称)」もオンラインストレージを統合したという2点。
2月17日にリリースしたiOS版Officeのバージョン1.6は、iCloudなどオンラインストレージ上のファイル編集・保存を可能にした。ただし、OneDriveやDropboxと異なり、Microsoftアカウントによる「サービスの追加」には未対応。ファイルピッカー画面から「その他」を選び、さらに「場所」から使用するオンラインストレージサービスを選択する仕組みになっている。OneDriveやDropbox上のファイルをシームレスに編集できる経験をすると、煩雑な印象を受ける。なお、筆者が確認した限りでは、2月19日にリリースした同バージョン1.6.1でも結果は同様だった。
Officeチーム担当CVPであるKirk Koenigsbauer氏は、Windows 10に対応するユニバーサルアプリや、Android向けOfficeにも今後、同様の機能に取り組んでいることを明らかにした。BoxのCEOであるAaron Levie氏も、新プログラムの創立メンバーとして参画したことをうれしく思うと表明している。
そして、Office Onlineの統合は、iOS向けOfficeと同様にOffice Onlineからもオンラインストレージを使用可能にするというもの。ただし執筆時点では動作せず、オンラインストレージ名もMicrosoftがサンプルとして使用する仮想企業"Contoso"であるため、開発中なのだろう。Koenigsbauer氏はローンチ時期を明らかにしていない。
Koenigsbauer氏が述べるように本発表は、「小さな拡張に見えるが、Officeアプリケーションやユーザーにとって重要なステップ」であり、冒頭から述べてきたクロスプラットフォーム化を加速させるファーストステップとなるだろう。Windows 10はデバイスサイズを問わない"One Windows"、Officeはクロスプラットフォーム化、そしてサービスやあらゆるデバイスの背後に位置するクラウド。Nadella氏の「モバイルファースト、クラウドファースト」は着実に歩みを進めている。
阿久津良和(Cactus)