第49回江戸川乱歩賞受賞作『翳りゆく夏』とは
2003年の作品だが、読んだときは「本当にそんな前に書かれたのか!?」と驚いた。それくらい、本作のテーマは現代日本の問題をあぶり出すものになっている。だからこそ、今になってドラマ化されたともいえるのかもしれないが。
「誘拐犯の娘が新聞社に内定」――週刊誌のそんな見出しが、大手新聞社である東西新聞を大きく揺るがした。20年前に起きた誘拐事件で死亡した犯人の娘が大学生になり、東西新聞社に内定が決まったことを週刊誌が嗅ぎつけたのだ。入社を辞退させないため、東西新聞社の重役が働きかける一方、窓際社員だった梶は、東西新聞社の社主から20年前の誘拐事件をもう一度調査し始める。風化しかけた事件の記憶が呼び起こされ、やがて封印されていた真実が明らかになる――。
「20年前の事件」が本作の鍵を握っているわけだが、調査に乗り出した梶は刑事ではなく記者なので(正確には元記者)、強引な捜査ができるわけではないし、権限もない。20年前に何があったのかという記録にあたるところからスタートし、関係者を探し出し、一人ひとり話を聞いていく。足を使った取材により、少しずつ真相が明らかになっていくストーリーは、上質なルポルタージュを読んでいるような気分だ。
この取材シーンのリアリティは、作者である赤井三尋がラジオ局やテレビ局に勤務するメディア関係者であることも大きいだろう。時には遺族に辛い取材をしなければならないこともあるマスコミという仕事のジレンマに、梶が苦悩する場面の描写は圧巻だ。
一方で、週刊誌が「誘拐犯の娘」であることをセンセーショナルに書き立てる導入は、部数や視聴率といった数字に追われるマスコミの負の側面を端的に表している。「話題になりそう」で「数字がとれそう」なら、否応なしに世の中に引っ張りだされてしまう怖さは、今も12年前も変わらない。
読み進めるたびに謎が解けていくルポとしての面白さだけでなく、ミステリーとしての構成も巧みだ。ちょっとした描写に伏線やヒントが隠されており、意外な真相がどんどん明らかになってくる。「これが真実だろう」と思わせておいてからのどんでん返しも絶妙で、最後まで読み手を飽きさせない。なるほど、これは連続ドラマにぴったりのストーリーだ。小説は小説として楽しみつつも、おそらく舞台が現代に移っただろうドラマ版も楽しみである。
いかがだっただろうか? 今回紹介した第49回江戸川乱歩賞を受賞した赤井三尋原作の『翳りゆく夏』は、波多野貴文監督で連続ドラマ化され、1月18日(毎週日曜22時)からWOWOWプライムにてスタートする。
20年前に起きた新生児誘拐事件を再び追う元敏腕記者が封印された真実に迫るノンストップサスペンスだ。また、主演が渡部篤郎のほか、時任三郎、門脇麦、菅田将暉、前田敦子、橋爪功など豪華なキャスティングとなってるのにも注目だ。連続ドラマW『翳りゆく夏』の特設サイトはコチラから。
さらに、第51回江戸川乱歩賞を受賞した薬丸岳原作の『天使のナイフ』は、小出恵介の主演でWOWOWプライムにて2月22日(毎週日曜22時~ 全5話 第1話無料放送)スタートとなる。
同作品も倉科カナ、藤本泉、若村麻由美といった演技派のキャストが集結し、その他に村上虹郎、北村匠海、清水尋也、桜井玲香(乃木坂46)、西野七瀬(乃木坂46)、松村沙友理(乃木坂46)といった旬の若手キャストも出演するので、この機会にミステリー&サスペンスの傑作をたっぷりと頼んでいただきたい。
なお、連続ドラマW『天使のナイフ』の特設サイトはコチラからチェックできるので、放送前に各情報をチェックしよう!