秋クールの連ドラを引っ張ったのは、何と言っても米倉涼子の『ドクターX』。全話で視聴率20%を超え、最終回は27.4%、平均視聴率も22.9%を記録するなど数字としては、好調の朝ドラ勢を上回り、文句なしの今年ナンバーワンドラマとなった。
一方、秋ドラマ全体はどうだったのか? 放送前に話題を集めた「綾瀬はるかvs沢尻エリカの水曜22時バトル」や「『ぬ~べー』などのキャラクタードラマ」を検証するとともに、全19作品を振り返る。今回も「視聴率や俳優の人気は一切無視!」の連ドラ解説者・木村隆志がその理由に切り込み、ガチ採点していく。
■ポイント1 ヒロインたちの大勝負と明暗
月曜の仲間由紀恵、柴咲コウ。火曜の武井咲、永作博美&石田ゆり子、深田恭子&寺島しのぶ。水曜の綾瀬はるか、沢尻エリカ。木曜の沢口靖子、米倉涼子、石原さとみ&松下奈緒。金曜の榮倉奈々。土曜の桐谷美玲。日曜の満島ひかり。若手からベテランまでこれほど大物ヒロインがそろったのは珍しいが、視聴率と視聴熱(視聴者の思い入れ)では明暗が分かれた。
明らかな勝ち組は、米倉と綾瀬。ともに「これが私!」という自らのスタイルを貫いて支持を集めた。米倉は「キスをしない女優」、綾瀬は「どんくさい役なら彼女」という好感度の高いイメージを確立しただけに、今後も年1~2本の主演作は間違いない。
今クールで苦しかったのは、仲間と松下。仲間は『花子とアン』の好演を受けて期待されたが、フタを開けてみたらコスプレや特殊能力を盛り込んだコミカルなアイドル風ドラマ。長年言われ続けている脱『ごくせん』のきっかけをまたも逃してしまった。松下はダブルヒロインの石原ばかりに注目が集まる脚本に損をさせられた印象。来年は得意の“朝ドラキャラ”以外での引き出しが求められそうだ。
また、今クールで出番がなかった主演女優にも、新垣結衣、堀北真希、杏、井上真央、戸田恵梨香、長澤まさみ、上野樹里、上戸彩、竹内結子、松雪泰子、篠原涼子、天海祐希ら、そうそうたる顔ぶれがそろう。『アナと雪の女王』『花子とアン』の大ヒットで分かるように、視聴者のニーズもヒロインものに傾きつつある。2015年のドラマはさらに女優たちが輝く作品が増えるだろう。
■ポイント2 話題の水曜22時対決。真の勝者は?
水曜22時に顔をそろえた『きょうは会社休みます。』(以下『きょう会社』に略)と『ファーストクラス』(以下『ファースト』に略)。放送前は、「30歳処女の弱い女」vs「人を蹴落としてのし上がる強い女」という図式も含め、何かと比較されていたが、視聴率も視聴熱も終始『きょう会社』の圧勝だった。
ここまで大差がついたのは1つの理由だけではないだろう。もちろん単純に「綾瀬が沢尻に勝ったから」ではなく、主に2つの理由が考えられる。
1つ目は、イケメン中心と悪女中心のキャスティング。『きょう会社』は主演以外に福士蒼汰、玉木宏、田口淳之介、千葉雄大、水上剣星、渡辺邦斗ら、年齢の異なる正統派イケメンをそろえたが、『ファースト』は青柳翔、岡本圭人のみで“悪女イレブン”の引き立て役に過ぎなかった。もともと水曜22時は、長年女性視聴者が支えてきたドラマ枠だけにこの差は大きい。
2つ目は、「人を信じる」と「人をだます」メインコンセプトの違い。『ファースト』のマウンティングは、もともと女性特有の小さな悪意やいやらしさだったはずなのに、第2弾では犯罪まがいの悪行に変わっていた。一方、『きょう会社』には悪人がほとんど登場せず、舞台が身近なオフィスであり、ターゲットのOLたちが安心して見られる作りに。『ファースト』は中盤から悪女同士のチームワークも描いたが、時すでに遅し。
また、『ファースト』は23時代に放送された第1弾こそ思わず口コミしたくなる仕掛けがハマったが、第2弾はパワーアップさせようとしたのが逆効果。大幅に増えたキャストの人間関係すら把握できない視聴者は、最後までシンプルな『きょう会社』を選ぶことになった。
ただ、水曜22時バトルで最も得したのは福士蒼汰だろう。ホストや黒服を思わせるしなやかな立ち居振る舞いと笑顔で、10~30代女性の心を完全につかんでしまった。よほどのスキャンダルがない限り、今後数年間“主演俳優”というステータスは約束されたようなものだ。
■ポイント3 キャラクタードラマのあり方とは?
今クールは、『地獄先生ぬ~べ~』のぬ~べ~、『信長協奏曲』の高校生信長・サブロー、『黒服物語』の3浪新人黒服・小川彰、『SAKURA』の苦情処理係&ローカルDJ&コスプレ捜査官・水沢桜、『素敵な選TAXI』の優柔不断なドライバー・枝分と、主演に超濃厚キャラを据えた作品が目立った。
ここまで主演のキャラが濃いと、敵味方問わず共演のキャラも濃くしなければ釣り合いが取れない。しかし、演出のさじ加減を間違えると、チープなギャグマンガのように「笑われるだけ」になってしまう。それだけに各作品とも、別のトーンやほどよいリアリティを採り入れていた。
たとえば、『地獄先生ぬ~べ~』は大マジメに子ども向け演出を追求し、『信長協奏曲』は戦を全て史実通りにし、『黒服物語』は全編劇画調のトーンで統一し、『素敵な選TAXI』はローテンションな世界観に抑えつつ小ネタを散りばめていた。唯一、『SAKURA』は「声が聞こえる」設定やアクションシーンも含め演出のトーンがバラバラで、主人公のキャラがぼやけてしまったか。
主演のキャラが濃いドラマほど、演出のさじ加減に制作側のセンスと潔さが問われている。その点『信長協奏曲』は、主人公のサブローに歴史的人物たちをあだ名で呼ばせたり、徳川家康をエロ男扱いさせたり、徹底して遊ばせることで各話残り10分間のシリアスとのギャップを作り、魅力を増幅させていた。
以上を踏まえた上で、今クールの最優秀作品に挙げたいのは、連ドラらしいミステリーに真っ向挑み、若手俳優4人の魅力を引き出した『Nのために』。他枠が安易な1話完結ドラマに逃げる中、内容を水増しすることなく、恋や仕事など等身大の生き様を交えて描き切った。
挑戦という意味では『信長協奏曲』も負けていない。大河ドラマには絶対にできない歴史のアレンジと笑いの追加で敷居を下げつつ、キャストの熱演を引き出し、時代劇の新たな可能性を感じさせた。『JIN』『信長のシェフ』らエンタメ時代劇の世界をさらに広げただけに、「映画ありきのラスト」は残念でならない。
一方、ウラ最優秀作品は『SAKURA』。仲間由紀恵の存在感に頼るのか、さまざまな要素で盛り上げるのか、どちらつかずで、制作陣の迷いが見えるようだった。また、『ディア・シスター』はキャラの心理描写がアバウトで誰にも感情移入できず……ストーリーもご都合主義的な展開が続き、こうなるとキャストがどんなに頑張ってもドラマ性は感じにくい。
【最優秀作品】『Nのために』 次点-『信長協奏曲』
【最優秀演出】『信長協奏曲』 次点-『さよなら私』
【最優秀脚本】『ごめんね青春!』 次点-『信長協奏曲』
【最優秀主演男優】竹野内豊(『素敵な選TAXI』) 次点-小栗旬(『信長協奏曲』)
【最優秀主演女優】永作博美(『さよなら私』) 次点-榮倉奈々(Nのために)
【最優秀助演男優】向井理(『信長協奏曲』) 次点-小出恵介(『Nのために』)
【最優秀助演女優】佐藤仁美(『さよなら私』) 次点-木村佳乃(『ファーストクラス』)
【最優秀新人】黒島結菜(『ごめんね青春!』) シシドカフカ(『ファーストクラス』)
【ウラ最優秀作品】『SAKURA ~事件を聞く女~』 次点-『ディア・シスター』