2014年を締めくくる全20作がそろった秋ドラマ。いろいろあった今年らしいバラエティ豊かなラインナップとなった。全作の初回放送が終わった中、視聴率で絶好調なのは、シリーズ3作目となる『ドクターX』。常時20%を超えるなど、早くも独走状態に入った。その他、『信長協奏曲』『きょうは会社休みます』なども多くの支持を集めている。

秋ドラマの主な傾向は、[1]百花繚乱のヒロインたち [2]草食系男子が集合 [3]強烈キャラの実写化 [4]『花子とアン』俳優が絶好調 の4つ。

傾向[1] 百花繚乱のヒロインたち

『信長協奏曲』で主演を務める小栗旬

これほど主演女優がそろったクールも珍しい。仲間由紀恵、武井咲、永作博美&石田ゆり子、深田恭子&寺島しのぶ、綾瀬はるか、沢尻エリカ、米倉涼子、石原さとみ&松下奈緒、榮倉奈々、満島ひかりと、円熟した実力派とフレッシュな若手がそろった。

さらに、『アナと雪の女王』『花子とアン』の系譜を継ぐダブルヒロインが3作あり、女性目線を重視したドラマが確実に増えている。恋や仕事のスタンス、人間関係、服装やヘアメイクなどで、「誰に共感できるか? 感情移入できるか?」は、ドラマ人気を左右するバロメーターになるだろう。

最も熱いのは、水曜22時に得意のキャラで真っ向勝負している、"しくじり女子"綾瀬はるかvs"悪女"沢尻エリカ。さらに、米倉涼子も髪をバッサリ切って撮影に臨むなど、いずれも気合が感じられる。

傾向[2] 草食系男子が集合

ヒロインたちが元気な一方、ヒーローたちは極めて普通。というよりダメ男に近いキャラが多い。『信長協奏曲』のサブローは歴史に無知で逃げグセがあり、『地獄先生ぬ~べ~』の鵺野先生は間抜けで女性に弱い、『ぼんくら』の平四郎は無精でサボってばかり、『ごめんね青春!』の平助は流されやすく失恋がトラウマ。その他も『ドクターX』の男性医師たちが未知子に軽くあしらわれるなど、草食系やダメキャラが目立っている。

そんなキャラが増えた理由は、「女性の魅力と強さを引き立てるため」、あるいは「成長する姿がカッコイイから」の2つが考えられる。1話約50分のうち、最初の40分は草食系かダメ男で、残り10分からが彼らの見せ場。そのギャップに彼らの演技力が試される。

傾向[3] 強烈キャラの実写化

鬼の手を持つ教師やさまざまな妖怪が登場する『地獄先生ぬ~べ~』、歴史本来の人物像から大胆なアレンジが目立つ『信長協奏曲』は言うまでもなく、その他の作品も個性派ぞろい。また、『きょうは会社休みます。』は30歳処女の卑屈OL、遊び人風の現役大学生、謎の多いイケメンCEOの対照的な三角関係が楽しい。さらに、『黒服物語』は医学部受験に3度失敗して夜の世界に入る主人公と先輩黒服、池袋の個性的なキャバ嬢たちが乱戦状態に。

これらはいずれもマンガ原作だが、実写化になったことで俳優の熱演が加わり、いっそうキャラが濃くなっている印象。なかでも、『信長協奏曲』で豊臣秀吉役を務める山田孝之の演技は必見だ。

傾向[4] 『花子とアン』俳優が絶好調

先月27日まで放送され、過去10年で朝ドラ最高記録となる平均視聴率22.6%を叩き出した『花子とアン』。主演の吉高由里子こそ休んでいるものの、他の主要メンバーは秋ドラマにも次々と参加している。

主人公・花子の"腹心の友"蓮子を演じた仲間由紀恵は、"愛に生きる女"から一転。『SAKURA』では、警察の苦情処理係、地元ラジオDJ、潜入捜査官の3キャラを演じ分けるコメディエンヌ路線を復活させた。

幼なじみの朝市を演じた窪田正孝と、兄の吉太郎を演じた賀来賢人は、そろって『Nのために』に主要キャストで出演。かつて向井理や福士蒼汰がそうだったように、着実に出演ポジションを上げた。さらに、石炭王・伝助役で話題を集めた吉田鋼太郎は、『すべてがFになる』でヒロインの保護者役で、新たな一面を見せている。


これらの傾向を踏まえたオススメは、エンタメ&ヒューマンの両面を持ち、細部にまでこだわりが見える『信長協奏曲』。あえて「普通の日々を描く」という最も難しい道を選んだ『ごめんね青春!』も往年のドラマ好きにはたまらない作品。さらに、現実とファンタジーを織り交ぜた絶妙な世界観が光る『きょうは会社休みます。』、湊かなえ原作らしいどっしりとしたミステリーに若手もベテランもハマった『Nのために』、視聴率は苦戦しているがスケールアップにトライした『ファーストクラス』と続く。

一方、これからの巻き返しに期待したい3作は、謎の設定変更と流行に飛びついた『地獄先生ぬ~べ~』、ストーリーからキャラのセリフまでほとんど予想できてしまう『ディア・シスター』、ダブルヒロインの魅力が今ひとつの『女はそれを許さない』。いずれも脚本にもうひとひねり入れれば印象が変わりそうなだけに、意外性のある展開を望みたい。

【おすすめベスト5作】
No.1 信長協奏曲(フジテレビ系 月曜21時)
No.2 ごめんね青春!(TBS系 日曜21時)
No.3 きょうは会社休みます。(日本テレビ系 水曜22時)
No.4 Nのために(TBS系 金曜22時)
No.5 ファーストクラス(フジテレビ系 水曜22時)

【「がんばって!」の3作】
地獄先生ぬ~べ~(日本テレビ系 土曜21時)
ディア・シスター(フジテレビ系 木曜22時)
女はそれを許さない(TBS系 火曜22時)

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。