地域特有のご当地グルメには事欠かない名古屋。味噌カツや味噌煮込みうどん、きしめん、ひつまぶしなど名古屋だけで食べられるメニューは枚挙にいとまがなく、それらは「名古屋メシ」と総称される。その中で新たな名古屋メシとなるか? と注目を集めているのが「台湾カレー」。今年4月に名古屋からほど近い愛知県犬山市にその名も「元祖台湾カレー」がオープンし、話題となっている。
なぜ名古屋なのに台湾カレーなのか? なぜ1店舗の看板商品にすぎないメニューが注目を集めているのか? 名古屋以外の人は疑問を感じるのではないだろうか。
進化の系譜「台湾ラーメン→台湾まぜそば→台湾カレー」
名古屋メシにある程度関心のある人であればすぐにピンと来るが、台湾カレーはそもそも「台湾ラーメン」の派生メニュー。台湾ラーメンとは名古屋市千種区に本店を構える台湾料理店「味仙」(みせん)発祥のラーメンで、台湾出身の店主が現地の担仔(タンツー)麺を激辛にアレンジしたもの。
台湾ラーメンは昭和40年代に考案され、今では名古屋市内のラーメン店、中華店のおよそ半数で台湾ラーメンが食べられると言われるほど。本場・台湾には存在しない名古屋生まれの台湾ラーメンとして定着しているのだ。
続いて、この台湾ラーメンをヒントにして生まれたのが、台湾ミンチ(豚のひき肉に唐辛子などを合わせて炒めた激辛ミンチ)をゆで麺にぶっかけた「台湾まぜそば」。「麺屋はなび」(名古屋市中川区)が2009年に考案した。店主は味仙出身者の店で修行した、いわば味仙の孫弟子筋にあたる。
この台湾まぜそばも、元祖店での爆発的ヒットを受けて後追いが続出。今では名古屋近辺のおよそ200店舗で食べられると言われ、しかも、うどん店や居酒屋、焼肉店、さらにコンビニなどラーメン店以外でも広く採用されている。奇しくも台湾ラーメン同様の広がりを見せていて、今や堂々と名古屋メシの仲間入りを果たしたと言える。
そして、この最も新しく最も勢いのある名古屋メシ、台湾まぜそばを生み出した「麺屋はなび」が監修したのが台湾カレーなのである。
「"台湾ミンチをカレーにかけたらうまいんじゃないか"という大将(『麺屋はなび』の新山店主)の思いつきから生まれました。台湾ミンチは『麺屋はなび』のレシピ通りですが、ルウはスパイスの調合や隠し味の追加など試行錯誤をくり返し、台湾ミンチの存在感と両立するものに仕上げてあります」と中西将基店長。
メニュー化の際には「元祖」にこだわり、インターネットで類似するメニューがないかを徹底的に調査した上で、これまでにない新しい料理として売り出すことにした。「麺屋はなび」は名古屋では既に行列のできる店として名前が通っているが、そこからあえて独立させた台湾カレー専門店としてデビューさせたことからも、新たなご当地メニューに育てていきたいという並々ならぬ決意が伝わってくる。
トッピングにもインパクトあり!
さて、台湾カレー(790円)を実食。台湾まぜそば同様、まずはルウとご飯、トッピングの卵黄などをしっかりとかき混ぜる。口へ運ぶと確かに辛い! が、ルウそのものは中辛でコクとまろやかさがあり、これがミンチの辛みなどを包み込む。そのため、まぜそばほどは辛みが直接的ではなく食べやすい。台湾まぜそば以上にジャンクで、クセになりそうな味とインパクトだ。
また、カレーパウダーのトッピングやキムチ食べ放題のサービスもあり、辛さのさらなるアップ&ミクスチャーも可。とにかく味を足し算していくのと、過剰なまでのサービス精神も名古屋っぽい。
トッピング系でイチ推しだという「カラアゲカレー」(850円)もついでに実食。このカラアゲがまたスゴい。子供のゲンコツ大ほどもあるジャンボサイズが何と4ピースも! 特製ダレにひと晩漬け込んであり、ニンニクなどの風味やうまみが肉にしっかりしみ込んでいる。衣はサクサクで肉はジューシー。だが、味もさることながらボリュームが半端なく、台湾カレーのインパクトとジャンク感をいっそうアップさせている。
「カラアゲカレー」850円。カレーが見えないほどカラアゲの存在感ありすぎ! カラアゲは1個80円でトッピングもできる |
券売機で提供はスムーズ。トッピングは台湾ミンチ200円、チーズ150円、牛もつ300円、生卵50円など |
「お客さんは20代の男性が中心ですが、女性も4割近く。近隣の女子高生のグループや、カップルも来てくれますし、『麺屋はなび』の常連さんがわざわざ足を運んでくれることも多い。最初は"辛くて食べられない!"と言っていた人がリピーターになってくれるケースも多く、そういう点は『はなび』と似ています」と中西店長。
B級感とヤミツキになる中毒性、そして大胆な組み合わせは既存の名古屋メシに数多く見られる特徴と共通する。名古屋は世界一のカレーチェーン「CoCo壱番屋」のお膝元(本社は名古屋にほど近い愛知県一宮市)で、カレー好きな土地柄でもある。台湾カレーが次代の名古屋メシとしてブレイクする日もそう遠くない、かもしれない。
●infomation
元祖台湾カレー
愛知県犬山市大字上野字米野1106-1
※記事中の情報・価格は2014年10月取材時のもの。価格は税込
筆者プロフィール : 大竹敏之(おおたけとしゆき)
名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。