2009年にリリースした「For You」で多くの人に知られる存在となったレゲエ歌手・leccaが、今月6日に9枚目となるアルバム『tough Village』をリリースした。2006年にメジャーデビューして以来、1カ月4曲ペースで作詞・作曲をこなすほど楽曲を量産し、音楽業界を駆け抜けてきたlecca。彼女が語るレゲエの魅力とは? レゲエとの出会い、早稲田大学への進学とその後の進路、歌手デビュー秘話など、leccaの軌跡とこれからを語ってもらった。

lecca(レッカ)
2000年から歌手として、渋谷asiaなどを中心にレギュラーイベントを含め、多数出演。2002年に大学卒業後、武者修行と称してニューヨーク、トロントに半年間滞在した。2003年帰国後、国内での活動を再開。2005年に14曲入りのフルアルバム『烈火』でインディーズ、2006年4月にミニアルバム『Dreamer』でメジャーデビュー。2009年3月には自身初となるシングル曲「For You」をリリースし、配信の総ダウンロード数80万超えを記録。2012年5月には自身初の日本武道館公演を行った。
撮影:石川信介(Sketch)

――今回のアルバム『tough Village』にはどのような思いが込められているのでしょうか。

前作『TOP JUNCTION』は、聴いてくれた人が背中をたたかれて「よし! がんばろう!」という気持ちになれるようなアルバムを目指しました。でも、それを作り終えると…自分が頑張りたくなったんですね(笑)。実は前作が出る前から今回のアルバムは作りはじめていました。でも今は…出がらし状態(笑)。もう、何も出てこないです。

――月に4曲ペースで作っているというのは本当ですか?

そうですね。でも、今月はこれが出来上がってから1曲も作ってないです。去年のアルバム『TOP JUNCTION』のために40曲。今回は30曲ぐらい作ったので、もういいんじゃないかなと思って(笑)。基本的にそういう山がないタイプなんですけどね。本当に今はカラッポの状態。やりつくした気持ちでいっぱいです。

――これまでさまざまな方とコラボされてきましたが、本作中ではJUMBO MAATCHさんとの「Vibes Up feat. JUMBO MAATCH」が特に印象に残る楽曲でした。

今から十何年も前の話なんですけど、JUMBO MAATCHさんに初めて会った時からむちゃくちゃ憧れてしまって。あのスタイルと声と正義感と。日本人ではなかなかできないスタイルだと思います。初めて会ってから次の沖縄のレゲエ祭では、初対面でのJUMBOさんの服装をトレースして。ちょっと気持ち悪いレベルですよね(笑)。最近そのことをお伝えしたら「へぇー…」って言われたんですよ。

――ちょっと引いてるじゃないですか(笑)。

どう反応していいのか分からなかったみたいで(笑)。とにかく、それぐらい好きだった。数年前に「HIGHEST MOUNTAIN」というJUMBO MAATCHさんがずっと出ているフェスに呼んでいただいた時も「もしなんかあったら俺に言ってな」みたいにすっごく温かくて、兄貴肌な方。今回はレゲエのアルバムを作りたかったので、これを逃したらないと思ってお願いしました。

――その楽曲「Vibes Up feat. JUMBO MAATCH」は、「レゲエとは?」を追求した1曲と聞きました。leccaさんにとってレゲエとは?

すごく簡単に言うと、人の心を強くする音楽です。カウンセリングとかセラピーとか、そういうものに近いのかもしれない。レゲエを10年間聴き続けたら、心の強い立派な人間になれると思います。私がジャパレゲ(ジャパニーズレゲエ)に出会ったのが二十歳くらいのころ。その頃はまだヒップホップも好きだったんですが、レゲエの文化とちょっと違うんですよね。レゲエは愛に溢れてて人を責めない。ヒップホップは言葉遊びでまずはディスる。それは遊びなんですけど、ずっとそこに触れているとちょっと疲れてしまって。

そういう心が病んでいた時期にレゲエに出会ってみると、すごく新鮮でした。どんな人でも受け入れるようになるんです。たとえ犯罪者やヤンキーだろうがむちゃくちゃなお坊ちゃんだろうが、「自分が同じ立場だったら同じようになっていたんじゃないか」と考えるようになりました。相手に対する最大限の理解とリスペクト。

レゲエには"You and I"という言葉はありません。"I and I"。両方が"I"なんですよ。自分が相手になり得たかもしれない。だから、全然自分と違う人でも責めない。中には怖いメッセージが入っているものもあるんですけど、日本にはすごく向いている音楽なんじゃないかなと、私は思っちゃいます。

――言われてみれば日本のイメージに近いような気もします。

私が勝手に思っているだけなんですけどね。RYO the SKYWALKERさんも大好きなんですけど、最初に聴いたときに先生とか部活の先輩とかが言ってくれそうな言葉をフェスで全員に言ってくれるわけですよ。そんな音楽ってほかにないなと思いまして。応援歌でもあるし、シンプルなメッセージでもあるし、演説にも近いし。MCを含めての音楽だったりするので。

――合間のMCもレゲエの一部なんですか。

そうですね。そこも曲を伝えるための音楽の1つ。見ると驚く人も多いと思うんですけど、ずっと曲を流しながらMCをするんです。歌うときにはまた盤をゼロに戻して。MCをすることによって曲を知らない人にもその曲に込めた思いを伝えられますし、政治家の演説みたいな感じかもしれません(笑)。

――まだレゲエに親しみがない人は、まずフェスに行くのが一番いいかもしれませんね。

そうですね。怖いイメージとかあるかもしれないんですけど、もしあるとしてもそれは一部分の話で、本当にピースです。例えばヒップホップのフェスって出演者同士ってあまりしゃべらないんですよ。終わったらみんな帰っちゃう。誰が来てたのか気づかない時があるんですけど、レゲエのフェスだとみんな最後まで残ってて、ラバダブ(複数での即興歌唱)をやったりとか。最後は記念撮影したりもします。

――ヒップホップと全然違いますね。

ええ(笑)。レゲエの発信源の人たちはめちゃくちゃピース。ワンラブとかリスペクトとか聞くこともあると思うんですけど、本当にそれが一番ある音楽なんじゃないかなと思います。