何度死んでも生まれ変わる「時のループ」に巻き込まれたトム・クルーズ演じる主人公ケイジが、同じ日を繰り返しながら正体不明の敵と戦い続ける異色のSFアクション大作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が、7月4日より全国公開される。実はこの映画、桜坂洋の同名小説を基にした「日本原作のハリウッド映画」なのだ。日本生まれの作品がハリウッドでどう生まれ変わったのか、プロデューサーのアーウィン・ストフ氏に話を聞いた。

アーウィン・ストフ
これまでに、フランシス・ローレンス監督の『コンスタンティン』(2005年)をはじめ、『アイ・アム・レジェンド』(2007年)、『マトリックス』(1999年)、『イルマーレ』(2006年)などの作品に携わっており、現在進行中のアンジェリーナ・ジョリーの監督作品『Unbroken』にも参加している

――日本の小説がハリウッドで、それもトム・クルーズという大スターの主演作として映画化されるというのは、これまでほとんど例がありませんでした。この映画に対して特別な関心を寄せている日本人は多いと思います。最初に原作を読んだとき、どういう感想を持たれましたか。

まずオープニングに驚かされました。冒頭からいきなり正体不明の敵との大規模な戦闘シーンから始まる。読み手はいきなりバトルに放り込まれるわけです。しかも、主人公はとっとと死んでしまう(笑)。

――そして、すぐに生き返る(笑)。

そうです(笑)。物語の「掴み」としては完璧。アクション作品としてこんな最高のオープニングはないだろうと思いました。また、謎に満ちたヒロインのリタをはじめ、キャラクターがとても魅力的です。そしてなによりも、「何度死んでも生まれ変わる」という斬新な設定。とにかく、ユニークな要素に満ちた作品だと感じましたね。

――「何度死んでも生まれ変わる」という設定はどこか仏教的というか、アジア的な感覚に通じるものがある気がします。日本生まれの作品が西洋の観客にウケるのか、ひとりの日本人としては気になるところなんですが。

この映画を見た西洋の観客は、みんな最初あっ気にとられてましたよ。「おいおい、主人公が死んじゃったよ」って(笑)。でもね、何度も生き返るうちにみんなこの物語がどういうものか分かってくる。そして、この物語の斬新さに気付いてくれるようです。ある観客が、ケイジが生き返るたびに隣の観客とハイタッチしてるのを見ましたよ(笑)。確かに、生死が繰り返すという設定は、西洋の人には馴染みがないでしょう。しかし、だからこそ私はこの作品を映画化したかったんです。

―― 一方で、映画化にあたってストーリーや設定を原作から変えた部分もあります。例えば主人公ケイジのキャラクターは原作とは大きく異なりますね。

ケイジのキャラクターは、原作では若くナイーブな少年兵ですが、映画の場合、口では威勢のいいことばかり言うものの、いざ戦場に行けと言われると途端に弱腰になる臆病者という設定に変えました。その方が社会的な責任や価値観について掘り下げられ、映画としてはより深みが出るんじゃないかと考えたのです。

謎の侵略者“ギタイ”の攻撃に、世界は滅亡寸前まで追いつめられていた。ウィリアム・ケイジ少佐(トム・クルーズ)は機動スーツで出撃するがすぐに命を落とす。しかし、次の瞬間、彼は出撃前日に戻っていた。無数に繰り返される同じ激戦の一日。果たして彼は世界を守れるのか

――そんな臆病者で軟弱なケイジ役に、なぜトム・クルーズという俳優をキャスティングしようと考えたのですか。

私が知る限りトムは、世界で最も勇敢な俳優です。どんな役に対しても恐れずに全力で挑戦する。そんな勇敢なトムに臆病者のケイジを演じさせたら面白いんじゃないかと思ったのです。物語の序盤で、機動スーツを着たケイジが落下するシーンがありますね。

――予告編にも収録されている輸送船のシーンですね。

そうです。ケイジにとっては初めての出撃だから怖がりまくる。でも、そのシーンを撮影した翌日、トムは「もう1回撮らせてくれ」と志願してきたんです。「昨日のビビり方ではまだまだ足りない。僕にはもっとビビる演技ができる!」って(笑)。とにかく彼は本当に努力家なんです。おべっかではなく、彼との仕事は本当に楽しいんですよ。

――日本でも近年はマンガや小説の実写映画化が盛んですが、必ずといっていいほどファンから賛否両論が起こります。原作ものの映画化は、ある意味とてもリスキーなのではないでしょうか。

確かにハリウッドでも人気のある小説やコミックを映画化すると決めた途端、ハードコアなファンからは必ず言われます、「なんてことをしてくれるんだ!」とね。2005年にコミックを原作にした映画『コンスタンティン』を製作したときも同じ経験をしました。「原作ではコンスタンティンは金髪なのに、主演のキアヌ・リーブスは黒髪じゃないか! 」なんてね(笑)。

――ファンにはちょっとした変化も許しがたいことに映るんですね。

原作が小説であれマンガであれ、原作とまったく同じ形で映画化することは不可能です。メディアが異なれば表現も変わってくる。どうしても何らかのアレンジを加えなければならないことがあります。気をつけなければいけないのは、どんなに熱心なファンがいる原作であっても、彼らのことだけを心配していては良い映画はつくれないということ。物語の本質をおさえたうえで、あとは最高の映画にするべく努力をするしかないんです。実際に映画を見てもらえれば、原作のファンもきっと気に入ってくれるはずですから。

――そういった意味では、原作国・日本でこの映画を公開するのは特別なのではないでしょうか。

プレッシャーと責任感を感じてますよ(笑)。日本で生まれたこの映画を日本のみなさんに見ていただけるということは我々にとって特別なことですし、意義深いことです。自信をもってお届けできる映画になったと思うので、是非劇場に足を運んでください。



原作ものの実写化というと、原作の要素がいかに忠実に映像化されたかという「再現度」だけで評価されがちだ。しかし、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、原作をリスペクトしつつも独自の解釈によって新たな物語になっている。つまり、映画は映画でひとつの「オリジナル作品」なのである。その象徴はラストシーンにある。原作とは異なるが、これはこれで「アリ」だと思わせるエンディングで、アーウィン・ストフ氏もお気に入りのシーンらしい。原作と映画とが異なる魅力を放ちながら共存する。そんな好例を見た気がした。

映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、7月4日より2D/3D&IMAX同時公開。

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