主要アンチウイルスソフトで「玄人受けする」と名高いESET社。同社アジアパシフィックでCOOを務めるLukas Raska氏と同セールスディレクターのParvinder Walia氏にインタビューすることができた。

ESETのアジア地域における拠点はシンガポールで、2010年から運用が行なわれている。Walia氏は、日本におけるESETの販売代理店であるキヤノンITソリューションズとの窓口役としてESET内でキャリアを積んできたが、昨年からアジア全体のセールスディレクターに就任した。

Walia氏はESETの現状について「世界的に二桁成長を続けている」と好調ぶりをアピールする。「オーストラリアで新たに支店を開設したし、日本についてもキヤノンのお陰で今年度も良いスタートが切れていると思う」(Walia氏)

日本における「玄人受けする」というイメージは、海外でも同様の傾向だという。

「これまでのESETを振り返ってみると、企業内のIT担当者がアンチウイルスソフトベンダーを精査した上でESETを使い、そこから私用でESETを活用、周りに口コミで拡がっていくという傾向が見てとれる。そうした人たちが我々の製品の良さを気に入って根強く利用してくれているので、マーケティング活動ではなく、製品の開発に重きを置いているんだ」(Walia氏)

特に日本についてはセキュリティ製品に対する要求水準が高く、それだけに「品質が高い」とされるESET製品はIT担当者からの信頼も厚いようだ。

「日本の環境は非常にハイテクで、IT教育水準、リテラシーが高く、要求が厳しい。だからこ、非常に良いフィードバックが得られる。世界のβテスターが日本にいる、そのお陰で製品の完成度が高められると思っている」(Walia氏)

他国との製品に対する要求水準にはどのような違いが存在するのだろうか。

「どこの国においてもサイバー犯罪やマルウェアからシステムを守るということは同じ。ただ、日本は成熟市場であるという点で、データ漏えいやマルウェアに対する知識が高いし、ダウンタイムに対する要求も高い。他国では、その水準まで行っておらず、例えばインドは技術力やセキュリティ意識が高いものの、要求水準という面ではそこまでではない。その他のアジア諸国では、具体的にどこの国とは言えないが、政府レベルであってもセキュリティ知識が劣っているケースがある」(Walia氏)

また、一般ユーザーのITリテラシーも大きく異なることを強調。

「エンドユーザーであっても、しっかりとセキュリティソフトを買ってくれる。他国だと海賊版を落とすけどね(笑)。高いレイヤーでの保護を必要として、アンチスパムまで重要視されていることを感じる」(Walia氏)

一方、Lukas Raska氏は、個人ユーザーの意識レベルをもう少し高める必要があると指摘。「日本の人口は世界的に見れば10番程度だが、ネット人口で見れば4番目と非常に大きい。ユーザーが多ければ多いほど、PCが十分に保護されていないケースがある。個人データは重要で、隙あればユーザーのお金を狙ってくる。ネット人口の大きさがそのまま日本を標的にすることに繋がっている」(Raska氏)と、母数が大きいからこそ、高いセキュリティ水準を誇っていても、一部のほころびから個人情報やネットバンキングからの不正送金が起こる現状を分析した。

先日行なわれたJapan IT Weekでも大規模に出店していたESET

エンタープライズ向けも徐々に拡充を

海外ではエンタープライズ向け製品を多く投入しているが、一方で日本市場についてはエンドポイント製品のイメージが強かったESET。しかし、5月に「ESET、法人向けゲートウェイセキュリティを日本市場で展開」を発表するなど、着実にエンタープライズ向けの拡充も図っている。

「エンタープライズ向けに注力しなかったというわけではなく、1万~1万5000人程度の従業員規模を持つ企業への導入は従来から多かった。ここ2、3年では特にそれ以外にも拡販している。今年度には、3年にわたりスクラッチで開発を進めてきたESETのシンクライアント管理プログラムを投入する予定であるし、お客さまとのタッチポイントを拡大する製品の投入を意識している」(Raska氏)

「先日発表したゲートウェイセキュリティ製品は、全く新しい製品というわけではないが、日本市場の需要に応えて投入した。特に、SMBなどの小規模企業からの要望が多く、他市場で性能は実証済みの製品を満を持して投入した。これは、キヤノンITソリューションズのヒアリングから生まれた製品帯で、無事、日本への製品投入が決まった」(Walia氏)

Walia氏はほかにも製品の投入を検討しているものとして、二要素認証を手元のスマートフォンで実現するESET Secure Authenticationを挙げた。「競合他社でハードウェアトークンを利用した二要素認証があるが、いつも手元にあるとは限らない。スマートフォン上でワンパスを使うことで、利便性があるし、何より先行投入しているいくつかの市場で良い反応をもらっているよ」(Walia氏)