サラダパン考案者の西村智恵子さん(84歳)。現在も看板娘として活躍中!

「サラダパン」というネーミングを聞いたら、どんな味のパンを想像するだろう? 恐らくほとんどの人が、コールスローやトマトが挟まったフレッシュなメニューを思い浮かべるのではないだろうか。しかし、滋賀県のそれには、何とも意外な食材が使われているという。

マヨネーズに感激したおばあちゃんのパン

サラダパンを製造しているのは、創業1951年の「つるやパン」(会社名:つるや)だ。代表の西村豊弘さんにお話を伺ったところ、何と、サラダパンは創業数年後からのロングセラーで、今年で発売56年目だという。

西村さんによると、「サラダパンを開発したのは、僕のおばあちゃんなんです」とのこと。半世紀以上前に“サラダパン”とはハイカラな発想である。一体どこに着想を得たのだろう?

「当時、雑誌でマヨネーズのレシピをみたおばあちゃんが、その通りに作ってみたところ、そのおいしさに感動して、マヨネーズと相性のいい食材と組み合わせて独自のメニューを開発しようと試みたんです。

だけど、マヨネーズって脂っこいでしょ? だから、食べてくれる人の胃に負担をかけないためにも、それを中和させる食材をと考えた結果思いついたのがキャベツだったんです。というのも、『キャベジンはキャベツからできているらしいから、キャベツの千切りを使えばプラマイゼロで胃にやさしい食べ物になるはず』って考えついたそうなんです」。

うーん……なんともユニークな開発秘話。ということは、サラダパンのパッケージに使われている黄色って、もしかしてマヨネーズを表現しているの? 「そうなんです。たくあんと勘違いされがちなんですが(笑)、実際は、黄色はマヨネーズ、緑はキャベツをイメージして作られたようです」。

今日もサラダパンは大人気!

160cmの巨大コッペパンの看板が目印

キャベツがたくあんになった理由

しかし、現在のサラダパンにはキャベツは入っていないようだが……。と思いきや、まだまだこの話には続きがあるようで、西村さんがさらに言葉を継ぐ。

「おかげさまでお客さまから好評を得ていたサラダパンですが、販路が拡大するにつれ、製造当日ではなく、翌日に販売する店が増えてきたんです。すると、キャベツの水分が抜けてべちょべちょになるという問題が発生しました。

でも、黄色と緑のイメージで作成した袋が大量にあるし、どうしたらいいんだろう……と考えたおばあちゃんが思いついたのが、キャベツのかわりにたくあんを使用することだったんです」。

現在のサラダパン(140円)

たくあんは、当時から滋賀県では家庭でも食べられているもので、色も食感もまさにサラダパンのイメージにぴったりだったという。以来、姿を変えたサラダパンは、口コミでより多くの人に愛されるようになり、現在では、様々なメディアに取り上げるまでに至っている。

サラダパンの中身は、マヨネーズで和えた千切りのシャキシャキたくあん

「サラダパンは、おじさんがまとめ買いしてくれることが多いんですよ。『こんな面白い商品があるよ』っていうネタとして買っていくことも多いみたいで、みなさん、半笑いで来店して購入していかれますね(笑)。あと、僕も地方に出かける際はお土産として配ってますよ。県外の人には大抵『こんなパン初めて見た!』って驚かれます(笑)」。

「スマイルサンド」も3年前に復活!

ちなみに、つるやパンには他にもオリジナリティあふれるパンがいくつも存在する。サラダパン同様のベストセラーを誇る「サンドウイッチ」には、マヨネーズと魚肉ハムが挟まっている。これは、開発当時、通常のハムだと予算オーバーするため商品化が難しかったからなのだとか。

子どもからお年寄りにまで愛されているサンドウイッチ(140円)

また、3年前に復刻した「スマイルサンド」も人気だ。このパンには、バタークリームとゼリィが使用されている。

「高級なケーキが普及していなかった時代に、『これならケーキの代わりになるんじゃないか?』ってことで開発されたんですよ(笑)。でも、その考え方自体、どこか懐かしくてほっとするでしょう?

このパンは震災を機に復刻したんです。東北から遠い地から、何かできることはないかと考えあぐねて出した答えが、『まずは、自分の周りにいるみんなから笑顔にしていきたい』だったんです。それによって、日本全国に笑顔が広がればいいなと思って。合わせて、1個の売り上げに対して10円の募金も続けてきました」。

パッケージもキュートなスマイルサンド(130円)

震災3年目を迎える今、改めて、作り手の想いがこもったパンでみんなが幸せな気持ちになってほしいものだ。