近年のMicrosoftは、さまざま要因からブランド名や機能名の変更を強いられることが多かった。「OneDrive」(旧SkyDrive)もそのひとつである。今週はOneDriveが備えた新機能と、同時期に名称変更したOffice Online (旧Web Office Apps)に関するレポートをお送りする。

「SkyDrive」改め「OneDrive」が全世界でローンチ

米Microsoftは2月19日(現地時間)、オンラインストレージサービスである「SkyDrive」の名称を「OneDrive」に変更した (図01)。同社は改称理由を明らかにしていないが、2013年に英国衛星放送サービスのBSkyBから商標侵害であると提訴されたことが最大理由となったのは確かだろう。この訴訟は2013年7月にMicrosoftがSkyDrive改称することで和解が成立している。

図01 新たな「OneDrive」のロゴ。デザインコンセプトはSkyDriveを継承している

さて、SkyDriveからOneDriveとなったことで変わったのは名称だけではない。OneDriveにはいくつかの機能が追加されている。同社のブログ「OneDrive Blog」において、Windows Services担当コーポレートバイスプレジデントのChris Jones氏は、「OneDriveは主要なプラットフォームで利用可能になる」と述べ、Windows OSやWindows Phone、Office、Xboxといった自社製品ではもちろん、Mac OS XやiPhone、Androidでも利用できることを強調している (図02~04)。

図02 ブログに掲載されたワンカット。Windows以外のプラットフォームでもOneDriveが利用可能であることを表している

Android版のOneDriveアプリ(左)では、撮影した写真を自動的にOneDriveへアップロードする「カメラバックアップ」機能を新たに搭載した。iOS版(右)では以前から同機能をサポートしていた

さらに、OneDrive上の無料版オンラインOfficeでリアルタイム共同編集に対応した。正直なところOffice Web Appsを使う機会が少ないので、以前と比較するのは難しいが、調べた限りでは新機能に数えていいようだ。共有設定を行って他のユーザーを招待すると自身のカーソルは緑色で、相手のカーソルは赤色で示され、文字どおりリアルタイムで互いの編集が反映されることを確認している。

簡単な編集や内容の確認であればExcelのファイルを電子メールに添付して送るよりも、OneDrive上で共有設定したURLを相手に伝えるほうが早い。OneDriveとOffice Web Appsによって、本当の意味でシームレスな編集が行える時期が訪れたといえよう (図05)。

図05 OneDrive上のExcelファイルを共有編集しているシーン。セル選択するカーソルの配色も変更され、想像以上に使いやすかった

興味深いのはWeb Office Appsの名称も改称された点だ。新名称は「Office Online」。新たなポータルサイト「office.com」を用意し、Office 2013やOffice 365と同じようにテンプレートを利用できる。OneDriveとOffice Onlineは連動し、テンプレートを用いたドキュメントは自動的にOneDriveに保存される仕組みだ。また、リボンの「~で開く」をクリックすれば、同じドキュメントをローカルデスクトップで編集できる (図06~07)。

図06 「Web Office Apps」の名称も「Office Online」に改称された

図07 Office OnlineのExcelに用意されたテンプレート。作成したワークシートはOneDriveに保存される

話をOneDriveに戻そう。もう一つの新機能が「シームレスな動画ファイルの再生」だ。新たに動画のトランスコーディング機能を備え、多くの動画ファイル形式を再生できるようになった (図08)。また、ネットワーク帯域に応じて適切なビットレートが自動選択されるため、バッファリングを繰り返して動画視聴を妨げられることも減った。

図08 OneDriveにアップロードしたQuickTime形式の動画もスムーズに再生された。ビットレートは自動調整されるが、自身で変更することも可能だ

この新機能は、Internet Explorer 11がHTML5をサポートしたことが大きく寄与している。ソースコードを確認したわけではないが、メディアストリーミングを実現するMSE (Media Source Extensions)を利用し、バッファリング中の再生状態を維持するための仕組みをOneDriveに加えたのだろう。同機能に関するデモンストレーションは「Professional Quality Video in IE」で確認できる。

ここで一度整理すると、OneDriveへの改称とともに、「Android用のOneDriveのカメラバックアップ機能」「Office Web Appsのリアルタイム共同編集機能」「シームレスな動画ファイルの再生」という、3つの新機能が備わったことになる。

ストレージプランの充実も興味深い。これまで年単位だったアップグレードオプションに月単位の支払いが選択可能になった。例えば50GBの追加は499円/月となる。無償で容量を増やせるシステムとして、前述したカメラバックアップ機能を有効にすることで3GB、紹介した知人が使い始めると500MBが追加される。ただし、紹介システムで得られる容量は最大5GBだ(図09~11)。

図09 アップグレードオプションに<月ごとの料金を表示>が加わった。1カ月だけ容量を増やすことも可能だ

図10 カメラロール機能を使うと、自動的に3GBの容量が追加される

図11 OneDriveの公開を記念して、先着10万名に1年間有効の100GB追加キャンペーンも行われたが、瞬く間に予定数に到達した

その歩みは決して早くはないものの、OneDriveは機能拡張に努めてきた。今後、日本語に対応してほしいサービスとして、写真の文字をOCRでテキスト化する「OCR powered by Bing」がある。英語ほど単純ではないものの、すでにWindowsストアアプリ版のOne Noteでは実現していることから、そう遠くない時期に利用可能になるだろう。

ただし、他者にデータの命を預けるようなオンラインストレージに万全の信頼を置けないのも事実である。2013年末にSugarSyncが無償アカウントの提供を終了したように、突然サービスが終了することもある。さらに、Microsoftは通知なしでアカウントを凍結する権利を保持しているため、同社の倫理規定に反するデータをアップロードすることは基本的に不可能である。

それでも、Windows 8.1と密接に連動するOneDriveはローカルストレージ側でバックアップを作成することが可能なため、データ消失のリスクは他社オンラインストレージに比べて低いはずだ。MicrosoftはOffice Onlineとの連動強化により、クラウド上での利便性をさらに高めている。容量の拡大と利便性の向上で存在感を増すOneDriveが、今後も注目株であることは確かだ。

阿久津良和(Cactus)