独身女性の気持ちを綴った連載『ずっと独身でいるつもり?』の雨宮まみさんと、"交際0日婚"の新婚生活をテーマした連載『嫁へ行くつもりじゃなかった――私の新婚日記』の岡田育さん。昨年末に、それぞれマイナビニュースでの連載最終回を迎えたお二人による、連載終了記念対談が実現。対談もいよいよ後半戦。前回に続き、盛り上がりを見せた対談の模様をお送りします。
■恋愛という悪夢
雨宮「男の人も結婚に対して色んな感情はあると思うけど、女の方が出産があるから、人生設計が恋愛にすごく絡んできちゃって。それって男の人からはすごく重いし、計算高く見えるんだろうなと思うんですよね。お前は恋愛にすごい不純物を持ち込んできたな、みたいな。俺はただ恋愛をしているだけなのに、そこまで責任を持てないよって引いちゃうんだろうなーと」
岡田「しかしですね、出産や結婚を視野に人生設計している20代後半ぐらいの女子に、『もっと純粋に恋愛を楽しもうよ』と声を掛けてくる男って、それはほとんど"都合のいい女"を求めてるわけじゃないですか……最悪の場合、既婚者だったりとか。そういう男に言われるがまま、『そうか、恋する、愛するって、もっと純粋なことかもしれないわー』と従ってみたものの、ボロボロになって終わる、という話は世の中にたくさんありますよね。割り切って恋愛だけを楽しむ人生だって素敵よね、と思う気持ちもあるんですが、私はどうにも気が落ち着かず、実践できなかった。恋愛願望と結婚願望がうまく噛み合ったためしがなくて、今は、結婚によって恋愛路線から下りることができてホッとしている感じです。その点、雨宮さんは、今までに恋愛してきた相手を、親に紹介したりだとか、試しに同棲を始めたりだとか、結構いいところまで行ってる感じなんですよね」
雨宮「いいところまでは行った! 私は一生彼氏ができないってずっと思っていたので、自分のこと好きになってくれる人が現れたときに、すぐ結婚を考えたんですよね。人生で初めて付き合った人とも一緒に住まないかという話はしたし、その後付き合った人と一緒に住んだかなと思います。やってみたかったというのもあったし、やってみてやっぱり駄目だったなということもいっぱいあったんですけど、恋愛は私好きだと思う。でも、何で2年前、連載を始めたときにあんなに結婚したかったんだろうって考えたら、『もうこの人と結婚したい、この人が人生で一番好き』みたいな人と駄目になってしまって。そのときに、恋愛は失うと本当につらいのに、こんなことをいつまでもやってらんないって思ったんですよ。それで、『私はもう一度だけ悪夢を見ましょう』と思って」
岡田「(笑)。分かる人は分かると思いますが、『ファイブスター物語』という漫画にそういうセリフがあるんですよね」
雨宮「あるんです。そういうセリフが」
二人「もう一度だけ悪夢を見ましょう」
雨宮「もう一度だけ恋愛という悪夢を見て、その恋愛でもう結婚しようって思ったんですよね。それもなかなかうまくいかなくて、それで結婚についてうだうだ考えてると、『んー』ってああいうぐちゃぐちゃした連載になっていって。多分悩んでいることのうちの半分以上は結局やってみなきゃ分かんないってことがほとんどだと思うんですよね。一人で考えていても、相手にもよるし。さっき岡田さんがおっしゃっていたみたいに(前編参照)、お泊まりするのに何を持っていかなくてはいけないかってことを考えなくてもいい相手かもしれないじゃないですか」
■引き出物には○○を
岡田「そうやって連載や執筆の経緯を聞けば聞くほど思うんですが、雨宮さんのこの本(『ずっと独身でいるつもり?』)は、いつか来る雨宮さんの結婚式の、引き出物にできますよね」
雨宮「できるかなー」
岡田「できると思うんですよ、私。自分はどういう人間であり女性であるか、自分が絶対に手放したくないことは何か、一緒に人生を歩む相手にどんなことを求めるか、全部ここに書いてある。このほとばしる熱い想いがすべて結実したのが、この披露宴なのね、このお相手で、このガーデンウェディングなのね、と、ご親族様もご来賓の皆様も、ものすごく納得すると思うんですよ」
雨宮「よかったねーって感じにはなりますよね」
岡田「私、この連載を読んで『雨宮さん、こんなの書いちゃったらもう一生結婚できないんじゃないのー?』とか言ってる外野の人たちに、勝手に腹が立ってるんですよ。私は全然そうは思っていないので。こういう人生観を持って、こういう結婚観の本を書いた人間が、こういうお相手を見つけましたよ、と願望通りの結婚をしたっていいじゃないですか、引き出物に配ったっていいじゃないですか。ずっと独身でいたって、いつか誰かと結婚したって、雨宮さんは雨宮さんだ、という、そういう連載だと思うんです。まぁ、これは、私自身が結婚パーティーの引き出物として結婚について書いた文章を配ったから連想したことであって、強いるつもりはないんですけど……」
雨宮「連載やってるときに、本当に結婚はもういいって気持ちになったことが、何度かあったんですよね。結婚なんかしなくてもいいじゃないか、っていう言葉が喉元まで出かかったし、結婚しろってプレッシャーとか、しなきゃ幸せじゃない、してない女はバカにしてもいいっていうのには本当にむかついたから、だったらもうそんな"制度からの卒業"をしてやろうじゃねーかみたいな、もういい年して」
岡田「区役所の窓ガラスを……戸籍課の窓ガラスを割っていく……」
雨宮「戸籍課の窓ガラスを割って回ってやろうか、婚姻届燃やしてやろうかぐらいの気持ちになってたこともあったんですけど、そこでどうしても『結婚なんかもういい』とは書けなくて。考えてみたら、結婚って制度上のことではあるけれど、人とつながる側のことじゃないですか。それに対して、やってもないのにそんなことしなくていいとか、人とつながる側のことを否定するのは自分の中の最後の一線として、してはいけないことのような気がして。結婚はしなくていいという風にはどうしても思わなかったですね」
岡田「そうですね、結婚といっても、本当にいろいろな形がありますからね。制度にまつわる話が大きくなりすぎて『する/しない』ばかりが議論になりがちですけど、本当は、人と人とのつながりって、他人がとやかく言うことじゃない」
雨宮「しなきゃいけないとは思わないけど」
岡田「はい。私の場合、自分でしてみても、そのことについて書いてみても、今ひとつ"結婚"というものの正体が掴めずにいたのだけど、『嫁つも』の連載中に諸先輩方からじつに多種多様な反応をいただいて。『うちの関係性と同じだ』とか、『うちは別の理由で事実婚を選んだ』とか、『この問題についてはうちではこう解決している』とか……。それで初めて、『あ、なんだ、みんなバラバラで、たった一つの正体なんてものは、ないんだ』とわかったんですよ。これからは私も"結婚"を信奉する側に宗旨替えをしなくては、という悲壮な覚悟で海を渡ってみたら、こちら側の軍勢、まったく一枚岩じゃなかった。戒律なんかないし、バラエティの豊かさにおいては"独身"の軍勢といい勝負だった。逆に言うと、何であんなに世間的には、"既婚"と"未婚"とがたった二つきりしかない思想信条を賭けて、二大勢力に分かれて戦っている、みたいな図式で語られてしまうんだろう? と思いましたね」
雨宮「百年戦争はなかった、と」