その第一番目としては、僕がとても便利だったらしいので、今こういう形で席に立たされたということもあります(笑)。そして、富野だったら一発目はできるだろうと「Legacy Effects」のスタッフも思ってくれたということです。このことは、おそらく日本のアニメファンは今日まで誰も信じていなかった。まして関係者は、こういうことがあるなんてことを信じていなかったということです。ですから、僕はこの歳になりましたけども、こういう若い世代の人に騙されたと思って、今ここに立っています。

実際に映画企画は進むのではないかと思っていますし、これから数年先の東京でのアニメ制作状況は大変厳しいということは、関係各位や皆さま方はご存じかと思います。ですから、新しい制作現場というものを手に入れていきたい。そして、僕自身もです。旧作のものだけではなく、僕にとって「Legacy Effects」は、新型の戦闘機に乗るような気分です。つまり、元ゼロ戦のパイロットがアメリカ一番の最新鋭の戦闘機に乗せてもらう気分であれば、87歳までの間に、もう一本や二本、新作がつくれるのではないかと信じてもいます。そのためのフィールドとしては、とてもいいことではないかと思っていますので、これに乗るつもりで今日ここに立っています。

87歳という年齢については、ある前例を聞きました。現にその年齢でも映画を作って、撮って、大変素敵なコメディー映画を作っている監督がいるとすれば、やはりそれは僕にとっての目標値にもなります。そういう監督に負けないようにがんばりたいと思います。監督の名前を挙げておきます。アラン・レネです。(※フランス人監督。現在91歳。87歳時の2009年に『風にそよぐ草』、2012年に『あなたはまだ何も見ていない』を発表)

以下からは質疑応答。

もし富野がやるんだったら全面的に協力をする、というスタッフが本当にいた

――富野監督の過去作品は色々ありますが、ただ過去のものを単純に映画にするわけないと思いますので、どういうビジョンで、どういう料理をしたいのか。過去に映画化したものとどう差別化するのか。今後の展望をお伺いしたいです。

富野監督:こういう答え方ができます。今までの自分の経歴の中では、TV版そのままを題材にした映画をつくるということをさせてもらいました。つまり映画を作る時での再構成です。ですから、僕にとっても、全くの新作で映画をつくったという思いはほとんどありません。『ガンダム』は新作ではありませんので、映画版としての新作であっても、新作とは言いがたいと思っています。ただ、どちらにしても他の映画監督、アニメ監督と違って、かなり色々な手法でやらせていただきました。

今晩、このようなシチュエーションをいただいた時に「おれだったらまた別の方法ができるのではないのか」という"自惚れ"がございます。この場合の"自惚れ"がどういうことかと言いますと、所謂"リメイクもの"という映画で成功したものがあまりない。だったら「成功させるためにはこうするんだよ」ということを年嵩の人間が、偉ぶってこういうサンプルを作ってみせる、ということはしてみたいと思っていました。

そして、ここ数年の間、死ぬまでにやりたいなと思いながらも、結局は権利問題がありました。同時に、日本で映画をつくる場合は資金というものをなかなか集めることができないということがあり、かなり自暴自棄になっていた時期もございます。この10年間のことです。

今回、このようなお話をいただきましたので、まず騙されたと思って乗ってみましたら、先ほども言ったとおりです。「Legacy Effects」のようなスタッフがいてくれて――ということは実を言うと、もし富野がやるんだったら全面的に協力をする、手伝う、というスタッフが本当にいたということです。このことは、やはりアニメ業界のみならず、アニメファンにとってもとてもうれしいことなんだ――だけど、それがなぜ今まで実現できなかったんだ、という部分を本当につきつけられました。……続きを読む