コンピュータの得手不得手

現在のコンピュータはどれほど強いのか? この問いに対しては、「第2回 電王戦」でコンピュータがプロ棋士に勝ち越したことがひとつの答えを与えてくれる。コンピュータ将棋は1974年から開発が始まっているが、当初の強さがアマチュア初段にも遠く及ばなかったことを考えると、隔世の感がある。現在は並の強さでないことは確かだが、まだ課題が多く残されていることも事実。というわけで、ここからは「苦手」をテーマにした2つのトピックから、コンピュータ将棋について見てみたい。

2003年、第13回一次予選6回戦▲GPS 将棋-△椿原将棋戦より。敵の本陣へ向けて「討ち取られたら負け」の大将が先陣を切って突撃。当然勝てるわけがない。 「第2回 電王戦」に出場したGPS将棋が自由奔放だった頃の貴重な棋譜である

コンピュータは「読みが速い」とよく言われる。現在のコンピュータ将棋は1秒間に数百万局面以上を探索することができる。「第2回 電王戦」で大将を務めた「GPS将棋」にいたっては、その速さは秒間3億局面にも達することがあるほど。この数字だけを見ると、人間にはとても勝ち目がないように思えてしまう。実際、目指すべきゴールが明確な状況、つまり王手の連続で相手の玉(王様のこと)を捕まえるといった条件では、人間では到底太刀打ちできないのが現状だ。しかし、ここからが誤解されやすいところなのだが、1秒間に数百万局面を探索するからといって、数百手先が読めるわけではない。どういうことかなのか?

将棋は1つの局面にある選択肢(指せる手)の平均が80と言われている。大ざっぱに言えば、80通りの手を読めれば1手先が把握できるということだ。2手先になると、自分の指した手それぞれに相手の手が80通りあるから、80×80=6400通りを読む必要がある。では3手先は……少し電卓をはじいてみると、すぐに天文学的な数字が出てくる。いくら時間をかけても10手先なんてとても無理、ということがわかるはず。実際はもっと効率はいいのだが、それでも本質的に深く読むことが大変であることに変わりはない。現在はトップクラスのコンピュータ将棋で対局中に20手から30手ほどの深さを読むが、それがいかに工夫を重ねた成果であるかがわかるだろう。

大きな話題となった「第2回 電王戦」第4局 塚田泰明九段 VS Puella α。互いに入玉したことで劇的な展開となった

もうひとつの例は評価関数から取り上げよう。評価関数には、大量のプロの棋譜(将棋の対局を記録したもの)を手本にしてコンピュータ自身に調整させるという手法をとることで、飛躍的に進歩したという経緯がある。これは反面、プロの実戦で現れにくい局面の評価がとても苦手ということにつながる。最も顕著なのは「入玉(自分の王様が相手陣に入ること)」で、「第2回 電王戦」では「Puella α(プエラアルファ)」が入玉は果たしたものの、その後は途端に指し手がボロボロになってしまった、という例があった。人間は展開が入玉含みになると価値観を切り替えて指すことができるが、コンピュータはうまく対応できないのが現状だ。

以上、2つのトピックを取り上げてみた。コンピュータが強い強いと騒がれているが、決して完全無欠の存在ではない、ということを強調しておきたい。「こんな一面もあるんだ」という発見の一助になれば幸いだ。……続きを読む