――阪本監督作にも数多く出演されていますが、今回の話は事前に聞いていたのでしょうか。

それは、ありましたよ。脚本ができる前から「M資金」というワードだけ聞かされていたので。また、厄介なことやるなと思ってましたけど(笑)。こういう「M資金」の使い方があるとは思っていませんでした。『KT』(2002年)の話を聞いたときも、なぜこのタイミングで「金大中拉致」なのかと。危なっかしいなと思いましたけど案の定、阪本監督も当時は随分と後をつけられたそうです。

今回、この詐欺師をどういうふうにやろうか、非常に悩みました。M資金詐欺で父親を亡くした真舟は、自らM資金詐欺をやっています。アイロニカルなキャラクターしか浮かばないんだけれども、事件に巻き込まれながら能動的に前に立っていくというのがどうも自分の中ではまらなくて。それをどうしようかと考えたままロシアでクランクイン。最初はアムール川で、オダギリ(ジョー)扮する鵠沼をだますところから入るんだけれども、その後に誕生日パーティーでロシア人と踊るんです。

そこで、阪本監督に「なりわいとしていることと、人間のキャラクターを1度乖離(かいり)させたい」とお願いしました。映画やドラマなどの作品は、過去のことは役に投影していないとよしとされない部分があります。でも、人間ってすべての人がそうではないんですよね。それを映画でやることはすごく難しいこと。そういう流れもあって、真舟は素直で愛嬌(あいきょう)のある人間になりました。現場に入ってキャラクターを変えたのは初めてでした。

――そういう経験はこれまでなかったのですか?

もちろん、やってみて違うことに気づいて、多少、方向転換をすることがありますが、ここまで根本的にキャラクターを変えたのは初めてだったと思います。阪本監督も鵠沼の誕生日パーティーを見ていて、「そっちのほうがあるのかな」と思ったらしくて。意外に冒険だけれど2人で了承し合って、いきなり舵(かじ)を切りましたね。

――これまで10作の阪本監督作に出演されていますが、毎回そのようなやりとりがあるのでしょうか。

そんなことはないですね。事前に全部ピースをはめきって、それが多少色味が違うと感じることは現場でありますけど。最初に打ち合わせして、現場で言い合うことはやめようと。事前に解決できることは解決させるというのがお互いの中で暗黙のルールなんですよね。

――本作に込めた阪本監督の思いとは?

阪本監督が弱者に対して思いを寄せるのは、根っこの部分にずっとあるものだと思うんですよ。『闇の子供たち』(2008年)の時と変わったなと思ったのが…ある国の人たちが1日1ドルで生活していると聞いて驚きますが、その国の人にとっては1ドルで十分なのかもしれない。つまり、こちら側からの価値観や目線ですべてを見るというふうなスタイルではなくなってきてるんじゃないかなと。『闇の子供たち』が必ずしもそうだったとは言えませんが、「阪本順治」側からの発信だったので、それが今回は違っているのかなと。だから、森山未來演じる石優樹がラストの国連で「援助はいらない」と言うセリフは、それがストレートに伝わりましたよね。

――阪本組の魅力はどういう部分にあるとお考えですか。

エラ呼吸じゃないけど、"映画呼吸"なんですよね。趣味は? と聞かれて「映画鑑賞」と答える人が多いですけど、年間何本見るんだよと。TSUTAYAが映画館じゃないんだよと(笑)。でも、映画はそれくらい裾野が広がりすぎてしまっているから、対象物としてすごく難しいんです。

阪本さんや何人か知ってる監督たちは、映画というものが無くなった時に、呼吸ができなくなる人たちなんですよ。それは映画を見るだけではなくて、現場の空気感の中で、自分が生きていると実感できるということ。阪本監督はそういう数少ない監督の中の1人なんです。それが、阪本組の中で以心伝心、スタッフにも伝わっているんだと僕は思います。役者もそういう気構えで来ていると思いますし。

――ニューヨーク大手投資銀行員のハロルド・マーカスを演じたヴィンセント・ギャロ。彼との共演シーンにも注目が集まっていますね。

ギャロはテンパッてましたね(笑)。現実問題として、できあがった現場に入るのはやっぱり嫌なんだなと。これは僕らでもそうなんだけど。できあがったところに入るのは、居場所がないんですよ。彼もそうなんだと知ったと同時に、日本の映画だからと言ってなめてない彼の真面目な部分が伝わった。セルフィッシュとは言わないけど…自由にやってましたね(笑)。

彼のセリフからはじまるんだけど、1分半くらいしゃべらないんですよ。部屋の中をウロウロしていて。それからやっとしゃべり出すんだけど…阪本監督は「もうちょっと早めにしゃべり出してください」って(笑)。とにかく、いろんなことを試していましたね。その中でアドリブも出てくるし、マスタリングで撮ってる本番なのに、急に2ページ前のセリフに戻ったりするから。そうすると僕の立ち位置が違うんですよね。「あれ? 戻った」と思いながら、僕も2ページ前の立ち位置に戻るわけで。

その時は、「このやろう…(笑)」と思いましたけど、今思えば、彼の中でのテンパり感もあったし。僕も戻ることはありますが、それはあくまで自分を撮っている場合で。全員が動いている中でそれはなかなか珍しいと渡辺謙さんも言っていました(笑)。

――真舟の座右の銘が「押しても駄目ならもう駄目だ」でしたが、佐藤さんは押しても駄目ならどうしますか?

どうなんでしょうね。それってガッツ石松さんの座右の銘らしいんですよね。それを監督が引用してきて。僕はやっぱり、押しても駄目なら引いてみるタイプかな。役者はいろいろやってみないとね(笑)。でも、やってみたい役のことは考えないようになりました。これやれますかと提示をされることが、自分にとっては期待されていることなんだなと思えるので。今まで見たこともないようなハードルの高い役を提示されると、「まだ役者として死んでないんだ」と思えるんですよね。

――それでは最後に本作について一言ください。

一緒にジェットコースターに乗ってください。そして、見終わったら財布の中身をチラッと見てください(笑)。大丈夫? 記事になりますか?

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