トラベルライターという職業柄、仕事はもちろんプライベートでも旅をすることは多い。あるとき、3歳になりたての娘を連れてアジアンリゾートへ。娘はこれまでに何度も飛行機に乗っていたので、いつも通りの感覚で飛行機に乗り込んだ。はい、もちろんエコノミークラス利用です。そのとき、予想外の出来事がっ!!
なぜかシートベルトを拒否
3列ずつ配置された座席の通路側を希望する娘。「子供ならふつう窓際でしょ」と思うものの、どうやら窓際に知らないおじさんが座っているのがイヤだったらしく、私が真ん中に座り、通路側に娘を座らせる。さて、シートベルトを着用……のはずが、なぜか娘がシートベルトをイヤがり、ぐずりだした。生後2カ月から旅に連れだし、飛行機には乗りまくりの娘。国際線では2歳から座席に座らせなくてはならないし、車のチャイルドシートやベビーカーでシートベルトは慣れているハズなのに……。
思えば、「魔の2歳児」と呼ばれる2歳児のイヤイヤ期というものをウチの娘は経験していない。3歳になって、少し遅れてこの状態になったのかもしれない。しかしそのときはそんなふうに冷静に考える余裕もなく、必死になだめる。娘のお気に入りの絵本を取り出したりお菓子で釣ったりととあの手この手だが、それでも娘はイヤだイヤだを繰り返す。そしてとうとう、客室乗務員(CA)から「早くシートベルトを」と注意されてしまった。
CAの注意に娘は……
小さくなって謝るものの、娘はなかなかシートベルトを着用しようとしない。出発時刻が近づくにしたがって注意しにやってくるCAの口調も厳しくなる。ふと、病院で看護師さんに声をかけられるとおとなしく言うことをきくことがあるのを思い出し、事情を説明して「CAさんからちょっと娘に言ってみてくれませんか」とお願いしてみた。
CAは「かしこまりました」と快諾。すっとしゃがんで娘と目線の高さを合わせ、じっと娘の目を見据え、「あなたがシートベルトをしないために離陸することができません。安全のためシートベルトをご着用ください」。
無表情で能面のように注意するその様に、隣にいた私まで「ヒッ」とのけぞってしまった。美人ゆえの迫力……。しかし、それまでただぐずるだけだった娘は、この瞬間ギャン泣きに。泣いてのけぞってシートベルトを体中で拒否し出した。そしてその後、更に激しく注意されたことは言うまでもない。
ちなみに、これが大人の乗客だった場合、降ろされても仕方のない状況である。乗客は安全な飛行のために機長及びCAの指示に従う義務があるのだ。3歳児を完全に大人扱いするCAの対応に、「降ろされる……」と内心ひやひやだった。周りの乗客も固唾をのんで動向を見守っていた(ような気がする)。旅慣れた私も、あれほどの焦りと居心地の悪さを感じたのは後にも先にもこのときだけである。