--考えないで仕事をしていること、している人というのも存在しますか

ありますね。自己判断なしに、頼まれたことだけを出してしまう。例えば手帳にスケジュールだけ書くというのも、受け身なんですよね。「ああしよう、こうしよう」って思いながら書く欄があるっていうのが大事で、自分が主役の部分が混じっているというのが、ほぼ日手帳の最初のコンセプトですね。

誰でも書く欄が真っ白だったら困りますよ。どう使っていいかわからないと言われることがあるのですが、いい買い物したときってみんなそうですよね。レンタカーなら乗る目的がはっきりしているけど、すっごくいい車を買ったときは「誰を最初に乗せよう」とか考えてしまいます。まず1回立ち止まっちゃうというのは、面白い商品の特徴ですよね。どう使ったらいいのかわかりません、ってものの方が面白いんですよ。

手帳が重いって文句を言われることもあるんですけど、同じ人が「手帳を使い込んで厚くなってきちゃった」って喜んでいたりもする。不思議なんですよ…なんだろう、「これだけが欠点なんだよな」と思うものって、欠点じゃなくて特徴なんじゃないでしょうか? 「あいつお人好しなんだよなあ」というのは、お人好しっていう特徴なんでしょうね。「スケベなんだよな」っていうのも、これで人類がね、やっていけてるわけで(笑)。

手で書くからこそできることがある

--手で書いたりデジタルで記録したり、情報をどうまとめたらいいのかという悩みもあります

紙で、もう1回書くこと。白い紙にもっと親しんだ方がいいですよ。元になる材料は手帳にあるかもしれないし、携帯電話にあるかもしれない。それを書いてみて、ふくらみを見渡せるもので考える。これは僕がずっとやってることなんですけど…。

糸井さんが実際に考えをまとめているという紙

もとはこの真ん中にあることだけなんです。「100戸のツリーハウスをつくる」というだけ。それがどれだけ広がるかっていうのを、まわりに書く。

--すごくかわいいですね!

まあ、かわいい人が書くとかわいくなりますね(笑)。これを書いているときは楽しい! 僕は夜中に書いてたんですけど、やめられなくなる。気仙沼での活動スタートも、このような紙から始まって。見ている人が一緒に、「これはさ」って言えるし、宇宙をつくる、模型ができるわけですね。

--ちなみに、今持ってらっしゃるスマートフォンと手帳との使い分けはどうされていますか?

スマホはどちらかというと、大量生産のイメージ。手帳は自分の手で書いている分だけ、愛情があります。僕はあんこを作るのですが、買ったあんこも全部おいしいけど、自分で作ったあんこには愛情がありますよね。手書きも同じように思います。Twitterなどでは「使う言葉」を書いているけど、手帳では「出てきた言葉」を書いているのが、面白いですよ。またありがたいんですよ、昔の自分が書いたことは! ほんとにすごいんです。

--今振り返って印象に残っているものはありますか?

「すべては人だ」って言葉。暗記できるような言葉じゃないですか。タイピングしても同じなんですけど、書いておこうと思った、というところに意味がありますよね。ほんっとうにそう思ったんですよ。

もののこと、関係のこと、進化のこと、様々なことを考えていたときに、「"人"をみんなが一番大事にしてない限りは何ともならない」って、書いておきたかったんでしょうね。今でも書いてるときのことまで思い出します。去年だったかなあ、だからそれ以来、いろんなことを「人のこと」として考えることが多くなりましたね。

本物を知ってもらえていればいい、と考え方が変わってきた

--先日行われた「手で書く手帳展。」について、手書きメモや他社の手帳も含めて展示されたところに、世界を広げる意図があったとおききしました

そうですね。こういう考えに至ったおかげで、随分楽になりました。心が。お互いにいいものをつくって喜ばれましょう、と思います。

--そういう気持ちでみんな仕事ができたら幸せかもしれないですね

僕も、やっとそうなったのかも。例えば何かの類似商品を作った企業に、「よそが似たような品を作って、いやですよね」って言わないでしょう? ということは、知ってるんですよ、みんな。何が元祖か。で、みんなも知ってるんだったらそれでいいなって。本物はどれなんでしょうね? って、問いかけができる立場でありたいですね。

本当に僕らが幸せなのは、使ってる人の「うれしい」って声が聞こえること。店頭で人が人に勧めているのを目撃できたときも、どれだけうれしいか。最近の大ヒットは、お客さんが「今年は何か違う年にしたいなって思うんだったら、絶対使った方がいい」って友達に勧めるのを、うちの会社の人がきいたんだって。いいでしょ? しびれますよね。

まあ、僕らはよそのメーカーが「手がかかるからやらないよ」ってことを今までもやってきたので、これからもそういうことをやるんでしょうね。そこに共感する方がいてくれたらと思います。