この色や質感に抵抗のある人もいるかもしれない。しかし一度は食べてみて!

名古屋の「赤味噌文化」を象徴するのが「味噌おでん」だ。赤味噌でグツグツ煮込まれたその色は、赤や茶色を通り越して真っ黒なこともあり、他県からの旅行客が驚くことも多い。今回は味噌おでんで名を馳(は)せる超人気店4店舗を取材。ディープな味噌おでんの世界を味わってほしい。

八丁味噌一筋の「味噌おでん」

まずは創業が昭和24年(1949)、屋台から出発したという「島正」から行こう。現在の店はオフィス街の中にあり夜の6時前後になるとカウンター主体の店内は、ほぼ満員という人気店だ。店主の木村竜治さんは、「うちは昔から八丁味噌一筋だよ」と微笑む。

中区栄の「島正」。ここでは八丁味噌一筋の「味噌おでん」を堪能できる

味のポイントは「味噌が甘くなり過ぎないよう、砂糖は入れ過ぎない」とのこと。味噌ダレは継ぎ足しながらだが、様子を見て作り変えることもあるそうだ。それゆえに、この店ではフレッシュでさっぱりした味噌の味わいが楽しめる。「昔ながらの味? いやいや昔よりおいしくしなきゃイカンね!」と、木村さんはカウンターでいつも忙しそう。おでんの盛り合わせ一式で(こんにゃく、卵、大根、牛スジなど)1,250円にて提供している。

「島正」では、おでんの盛り合わせ一式で1,250円

●infomation
島正
名古屋市中区栄2-1-14マルイチセンタービル 1F

味噌をブレンドした複雑な味わい

次に紹介したいのは、各種ガイドブックやマニア向けグルメ本などで頻繁に掲載され、今やザ・名古屋の代表的な居酒屋といえる「我楽多文庫 栄・昭和ビル店」。店内はアンティーク調でレトロ感が満載で、昭和のにおいがプンプンしている。ここの味噌おでんは赤味噌ベースだが、白味噌や高山味噌を絶妙にブレンド。複雑な味噌の味わいを醸し出している。

「我楽多文庫」では147円から294円。白味噌や高山味噌もブレンドしている

しかも、一度火を入れてから薄い味噌でおでん種を煮込み、1日寝かせてから仕上げに濃い味噌でたくという。居酒屋だからここでは手羽先など他の名古屋メシも堪能できる。名古屋グルメを思う存分、楽しみたい観光客にはベストな一店だろう。

おでんは147円~294円。「味噌おでんは家庭料理の延長みたいなもの。いろんな店で味わってみてくださいね」と店長の佐藤公明さん。

●infomation
我楽多文庫 栄・昭和ビル店
名古屋市中区栄4-3-26 昭和ビルB1

風情も値段も庶民的

3 軒目はぐっと庶民派の店「とん八」をチョイスしたい。昔から変わらない一杯のみのおでん屋という風情が、とても魅力的な店である。「ウチにこだわりなんてないんだよ! 普通に作ってるだけ」と店主の彦坂泰朗(やすろう)さんが言う味噌おでんは、バットの中の味噌ダレが真っ黒でビックリ!

黒いといえばあまりな黒さ! 一見して驚く客も。1本150円

「ここで1日じゅう煮込んだら形がなくなっちゃう」というおでんは、朝に軽く煮込んだものをその日に売り切るというスタイルだ。継ぎ足し継ぎ足しで守ってきた味噌はコク満点。名古屋の豆味噌をベースに、牛のスジ肉のダシがよく出ている。これぞオヤジパラダイス。おでん1本150円という明朗会計もいい!

●infomation
とん八
名古屋市東区代官町32-5

オーナーがソムリエの店

最後に紹介するのは、名古屋の味噌おでん界のニュー・ウェイブ「カモシヤ」。この店は何と「味噌おでんでワインを楽しむ」がコンセプト! オーナーの橋本雄生(ひろむ)さんはソムリエで、「以前は高級店にいたけれど、気軽にワインを飲んでもらいたくなって」という思いから、カモシヤをオープンしたという。

カウンター横にある大鍋でぐつぐつと煮込まれた「味噌おでん」は、牛スジ肉とシジミが味の決め手だ。あえて「風味が強い」かつおダシを使わないことがミソだという。大根は最初に昆布ダシで炊き、3日間仕込んでから4日目に出すという手の込みよう。ワインは白でも赤でもOK。しかも、おでんは90円からというのもうれしい。デートでもオススメの一店なのである。

味噌おでん界の新星「カシモヤ」のおでんは90円から。白でも赤でも、この店のおでんはワインによく合うのだ

●infomation
おでん&ワイン カモシヤ
名古屋市中区錦3-16-8 森万ビル1F

以上、一見そのヴィジュアルを見ただけでは、なかなか伝わらない名古屋の「味噌おでん」の魅力そしてうまみ。とりわけ薄味や白味噌の味わいに馴れた他県の方の中には、もう写真を見ただけで「結構です!!」となる人も多いようだ。しかしそれが名古屋っ子には残念でたまらない。一度味わうと、赤味噌ならではの深みや個性にやみつきになる人も多い。是非とも食わず嫌いではなく、一度はトライしてみてほしい。