TizenやFirefox OSの登場で、モバイルOS向けのHTML5アプリが脚光を浴び始めている。これまでも既存OSでHTML5アプリを利用することはできたが、パフォーマンスなどに不安があり、あまり一般的に広まってはいない。

Tizenは、HTML5アプリとネイティブアプリの双方に対応することで、幅広い開発者を獲得しようとしている。開発者がTizenをサポートするメリットは何か。TizenのOS開発の中心メンバーであるインテルと、事業者の中心であるNTTドコモに、Tizenの魅力ついて話を聞いた。

オープンだからこそTizenを支援するインテル

インテルで今回話を聞いたのは、ソフトウェア・サービス戦略本部 アライアンスマネージャーの柳原 明人氏と、技術本部 ソフトウェア技術統括部 アプリケーション・エンジニアの尹 栄植氏。

Tizenは、Linux財団のLinux Projectが開発を行うオープンソースのOSだ。インテルは、もともとオープンソース陣営に対してさまざまなサポートを提供しており、Linuxベースのモバイル向けOSの開発に携わってきた。Tizenはその流れをくんでおり、インテルが「オープンなソフトウェアのイノベーション」(柳原氏)に力を入れてきたことの延長線上にある取り組みだ。

Tizenをサポートすることに対して柳原氏は、「顧客からのニーズが大きい」という点をまず挙げる。メーカーやキャリアが独自のサービスを提供することでエコシステムができあがり、それがうまく回ることで業界全体として盛り上がるため「そこにインテルのビジネスチャンスもある」(柳原氏)という認識を示す。

将来的にはインテル製チップの採用も見込むが、直近の利益を求めるのではなく、Tizenによる新たなビジネスモデル、エコシステムの構築によって収益を上げていきたいという考えのようだ。

HTML5だけではないTizenの利点

インテル ソフトウェア・サービス戦略本部 アライアンスマネージャー 柳原 明人氏

そのTizenは、HTML5に最適化したOSとして開発されている。同じ第3のOSとして話題にあがるFirefox OSも最適化プラットフォームであるが、TizenはHTML5のWeb標準を一番高いレベルでサポートするOSとしてアピールしている。実際に、HTML5のサポートレベルを表すベンチマークテストで最も高いスコアをマークしており、「HTML5アプリが実力を発揮できるプラットフォーム」を目指している。

それでも、HTML5アプリにはパフォーマンスの懸念がつきまとう。尹氏は、「アプリの性格によってはHTML5が向いてない分野もあるだろう。しかしすべてのアプリがパフォーマンス・クリティカルだとは思わない。また、TizenではWebアプリでも最高のパフォーマンスを出せるようプラットフォームの最適化を行っている」と語る。Webランタイムやレンダリングエンジン、JavaScript解釈エンジンなどはプラットフォームで最適化し、最善のパフォーマンスが出せるように開発を行っているという。

特にTizenが持つ強みとしては、HTML5の標準APIに加え、デバイスの各種リソースにアクセスできる固有の「Device API」がある。これによりWeb開発者はネイティブ並みの強力なWebアプリが開発できるため、「デバイスの様々な機能にアクセスできるDevice APIを是非利用して欲しい」と尹氏は語る。さらにWebとネイティブを組み合わせて、ハイブリッドアプリを開発することも可能だ。これはFirefox OSにはない特徴といえる。

HTML5に最適なプラットフォームである一方で、大容量で高画質のゲームといった端末のフルパワーが必要になるようなアプリでは、やはりネイティブアプリの方が適している。逆に言えば、そうした選択肢を用意することで幅広いアプリをカバーできるOSが、Tizenと言えるだろう。

開発者にとっては、ネイティブアプリがC/C++で開発できるため、過去にライブラリなどの資産があれば、ほとんどそのままTizenに移植できる。

HTML5アプリについても「既存のHTML5アプリから、資産や開発経験がそのまま生かせる。是非積極的に取り組んでいただきたい」(柳原氏)としている。

もちろん、Tizen固有のDevice APIを除けば、HTML5アプリはTizen以外のプラットフォームでも動作する。一つのコードがあれば、複数のプラットフォームで動作するという「Write Once, Run Anywhere」が実現できるわけだ。「開発リソースが削減でき、ユーザー層も広げられるため、開発者にとっても理想的」と柳原氏は語っていた。

日本発のアプリを世界へ

インテル 技術本部 ソフトウェア技術統括部アプリケーション・エンジニア 尹 栄植氏

ほかにもTizenは、HTML5でUIを、ネイティブでデータ処理するエンジン部分を構築する、ハイブリッドアプリの制作ができる利点がある。WebデザイナーがUIを担当し、開発者が機能実装に専念する、という作り方もできるようになる。

開発者にとって過去の資産を生かすことができ、Web開発者の参入も期待できるTizen。インテルでは、開発者向けのセミナーアプリコンテスト、ハッカソン、コミュニティー活動のサポートをするなど、開発者環境を盛り上げる施策を、今後も継続的に打ち出していく意向だ。

柳原氏は、グローバルでのTizen端末のリリースで日本とフランスが先行することから、「アプリ市場に参入するチャンス」と強調する。早期に参入してTizenのアプリマーケットである「Tizen Store」でアピールできれば、先行者として日本発のアプリを世界に向けてリリースできる。柳原氏も、「インテルとしても応援して一緒にやっていきたい」と話す。

尹氏は、「開発者から見ると、Web標準を使って強力なアプリが開発できるし、ネイティブへの道も用意されているため、選択肢がある」という点をメリットとしてあげ、さらにエンジニアとして「TizenはLinuxのコアスタックを全て搭載していて、Linuxそのまま」である点を「面白いし、可能性を見ている」と話す。

TizenはLinuxのコアモジュール(glibc、 D-Bus、X11、GStreamer、PulseAudioなど)に加えて、モバイルOSに必要なソフトウェアスタックをオープンソースプロジェクトとして独自実装している点を、大きな魅力としてアピールしている