「人が想いや行動を『同期』することであたらしいビジネスが生まれるのではないか」という視点から、ソニー・ミュージックコミュニケーションズによる企業向けの展示会「Sync.(シンク)」が開催された。同社では、音楽にまつわる企画からクリエイティブ、プロモーションからイベントの運営までトータルで行っているため、展示内容はB to Bのものがメインながらも、興味深い先進技術も多く、本レポートではその中からいくつか紹介したいと思う。

ソニー・ミュージックコミュニケーションズは、先端技術を活用した企業向け展示会「Sync.」を開催した

展示会の運営をスマートにするシステム「Sync.」

まず紹介したいのは、会場内展示物のいたるところに設置されていた「Sync.」というシステム。展示会名と同名であることからも分かるように、同社が今回の展示会のために開発したものだ。来場者は入り口で登録を行う際、シールをはりつけた入場証を受け取る。そして、場内の展示物に興味をもった場合、そのシールを、各展示ブースに設置された装置にタッチする。こうすることで、端末がシールに登録された識別情報を読み取り、来場者ごとの行動履歴が記録される。そのため、会場出口そばに設置されたタブレット端末にシールをかざせば、興味を持った内容を"おさらい"できる。いわば、リアル版の「いいね!」ボタンというわけだ。

一方、主催側はこのシステムを活用することで、来場者ごとの滞在時間や興味をもっている対象を、展示物ごとに細かく把握することができる。加えて、展示会でよく行われている紙を使ったアンケートと違い、集計の手間もない。今回の展示会のみならず、さまざまな方面のイベントで活躍しそうな技術だ。

名刺の裏にこのようなIDの組み込まれたシールを貼付ける。ちなみに使い捨てだそう

出口近くに設置された端末にシールをかざすと、Sync!!した展示の一覧が表示される

観客がライブの演出に参加する次世代型ペンライト「FreFlow」

次に目を引いたのが次世代型ペンライト「FreFlow(フリフラ)」。これはコンサートやライブ、イベントなどで参加者が使用するペンライトを一括で制御できるという優れもの。たとえば、コンサートなどでは音楽に合わせて数万本のペンライトがリアルタイムに変化する演出が可能となる。これまでもNHK紅白歌合戦やミュージックステーション、著名アーティストのライブなどで用いられているため、会場全体が一体となった演出に感動した方もいるのではないだろうか。

ちなみに、展示会場ではフリフラとインタラクティブサイネージシステム「M!TENE(ミテネ)」との同期によって、フリフラを振るとスクリーンにその軌跡が描けたり、表示される花火に照準をあわせるとアニメーションが変化するなどの参加型プレゼンテーションが展開された。

ペンライトはサイズの割に軽くて持ちやすい。一斉制御されていない時は、手元のボタンで8色の中から好きな色を選択できる

展示会会場では参加型のプレゼンテーションが楽しめた

3Dプリンタでフィギュアを制作

同社は、最近各方面で話題を集めている3Dプリンターを使用したサービス「3Dプリント・フィギュア」も展開しており、会場出口近くに特設ブースを設置していた。このサービスは、3Dスキャナで全身を撮影し、そのデータをもとに3Dプリンタを用いて出力したフィギュアを提供するもの。3Dデータの色調や質感などは人の手により1体ずつ調整され、出力後のフィギュアは磨き加工を施し、表面にワックスを塗布して完成させる。

同社のサービスで出力されたフィギュア

同社の水野道訓代表取締役社長に、同氏の3Dデータを元にしたフィギュアと同じポーズを取っていただいた

このフィギュアの製作工程をみてみると、まず、フルカラー3Dスキャナで全身を撮影。未来のレーザーガンのようにも見えるこの機器で、スイッチを押しながら全身をぐるりと360度から撮影してもらうと、あっという間にパソコン上に3Dの自分がワイヤーフレームのような状態でデータ化される。

こちらが3Dスキャナ

撮影者が対象をスキャンすると…

本人そのものの3Dデータが!

色情報を含め、データを3Dプリンターに転送して、印刷開始。このフィギュア、横に倒した輪切りの状態でなんと485層もの石膏の粉でできていて、1層あたり約0.1mmという細かさ。これを約1時間半かけて"プリント"していく。プリントが終わると隣のスペースで周りについた余分な石膏をエアガンで落とし、表面に定着用のワックスを塗布して完成。触った感じは塩化ビニール樹脂でできている市販されているフィギュアとは違い、ざらりとしていて硬く、崩れたりすることはなさそうだ。本人を3Dスキャンしたデータを使っているため、本人とのシンクロ度は98%だそう。

縦横は輪切りにしたときに面積の広いほうで輪切りにする

着色は外周のみ。一層見ただけでは何が描かれているのかわからない

広報室の坂本良和氏によると「3Dプリンタはもともと業務用で自動車部品や工業製品の試作品などに使われていましたが、それをエンタテインメントの業界でも活用できないかと考えたのが(同サービスの)はじまりです。コスト面から個人のニーズはまだ少ないのが現状ですが、さまざまな企業さまから多くの問い合わせをいただいています」とのこと。

価格は、Sサイズ(高さ約15cm)が4万9,000円(複製2万円)、Mサイズ(高さ約20cm)が6万9,000円(複製4万円)、Lサイズ(高さ約30cm)が12万円(複製9万1,000円)。なるほど、たしかに彼氏のフィギュア(Lサイズ)を12万円出してでも作りたい!という変わりものは少ないかもしれないが、アイドルグループの実物そっくりフィギュアを作ることが可能なら、ニーズも十分にありそうだ。実際、同社はロックバンド「ViViD」の商品購入者特典として3Dプリンタ製のフィギュアを提供するなど、アーティストやアイドルなどとのコラボレーションに着手している。

展示会場の様子

そのほかの展示も、会場の魅せ方へのこだわりは「さすがプロフェッショナル!」とうなってしまうほど。興味深い展示も多く、会場を一周するうちに取材をしていることも忘れ、すっかり楽しい気持ちになってしまった。

人と技術、人とその想いがシンクロするエンタテイメントの展示会を通じ、これからも世の中をどんどん面白くなるビジネスが生まれることに期待したい。