プロの仕事とは、刷り上がった"ナマ"の印刷物をより良く、美しく仕上げること。それは受発注者が直接顔を合わせることのない「印刷通販」という分野でも変わらない。そこで「まごころ印刷通販」を掲げるアルプスPPSで、製本加工のプロフェッショナルに「仕事へのこだわり」について伺った。 前編に続き、今回も「まごころ印刷通販」を掲げるアルプスPPSの「断裁」担当・薄井良和さんに、「仕事へのこだわり」についてお話を伺った。

「後加工の同僚にスムーズな仕事をしてもらえること。それが断裁担当である私のモチベーションです」とアルプスPPSの薄井良和さん

機械だけでは完成しない「断裁」という仕事

今は印刷機はもちろん製本加工機も機械化、デジタル化が進んでいる。だから、アナログ的な手仕事が必要なことは少なくなっているのでは? と聞くと、意外な答えが返ってきた。

「確かに機械化、デジタル化は製本機でも進んでいますが、それは最新鋭の機械ですよね。まだ製本の世界は職人的な感覚や経験値でコンマ何ミリの微調整が必要です。例えば私が扱う断裁機には、社内にある大小25台の印刷機のクセをすべてデータ化して、仕事ごとのプログラムを断裁機のコンピュータにインプットしています。これが基礎データになるわけですが、お話しした通り"紙は生き物"ですから、それだけですぐ刃を入れられるわけではない。当日の状態を見て、刷り上がった実物を見て、表裏を見て、絵柄を見て……、とチェックするポイントは多岐に渡り、それを断裁機にインプットしないと良い仕事ができないから、結局は人の手と経験が仕上がりを左右する世界なのです。それにどんな綴じ機、折り機を使うのかによっても断裁の仕方は変わります。当社の場合、後加工の機械がすべてそろっていて同じ場所で作業できるので、すぐに疑問点を聞きに行けたり、加工方法のやり方を聞けるので、断裁の1刃目も迷いなく入れられることがメリットですね」

印刷通販の場合、発注者はスピードや安さを求めることが多い。発注者やデザイナーといったお客様それぞれに許容値があって、アルプスPPSのように数ミリの狂いもなく絵柄をピタリと合わせなくても大丈夫な印刷物も多いだろう。しかし薄井さんは「でも私たちがその許容値を決めちゃダメですよ」という。

「顔が見えない印刷通販だからこそ、完璧な物を仕上げないといけません。最終成果物が"アルプスPPSの全力の仕事"だと思われてしまうからです。お客様に仕上がりがどうだったか聞いて回ることはできませんが、クレームゼロを続けることはできる。そしてリピート発注が掛かったときに、お客様に満足していただける仕事ができたのかな、と思います」

断裁という仕事は奥深い。ただトンボで切れば終わりという簡単なものではなく、後工程の指針、原点ともいえる加工のスタート地点になるのが、断裁という仕事なのだ。名の通った製本会社では、暗黙の了解として「断裁オペレーターが工場長」となる場合が多いそうだが、なるほど、それもうなずける話だ。

断裁機にセットしてから再び空気を抜き、1刃目を準備する。ちなみに写真に写る印刷物で500枚。断裁数は仕事の難しさによって変わってくるそうだ

重要な直線の原点となる1刃目。手前に見える長辺部分を一気に裁ち落とす

複数の印刷物が付け合わせられた刷り本を手際よく回転させながら、2刃目、3刃目と断裁する

仕上げサイズに合わせて断裁機に数値を入力。この数値入力の微調整が、薄井さんの本領である

アッという間に断裁が終わり、ペラ物の印刷物が完成。横から断裁面を見ると真っ直ぐにそろっていることがわかる。断裁職人の腕の良さが証明される部分だ

薄井さんの認識では、「断裁で100%の仕事をしないと後加工でも品質のいいものはあがらない」そうだ。人手(手間)がかかるほど品質は落ちていく、逆に完成するまでの行程を減らせば減らすほど、品質が良い物があがる。だからこそ、職人技が必要となり、より良い物を作ろうとする信念が生まれるというワケだ。単純作業の裏には、1刃で印刷の仕上がりを左右するクリエイティブな世界が拡がっているのである。

撮影:伊藤圭