「3.11と原発」

東日本大震災によって発生した福島原発事故は、日本のみならず世界中に大きな衝撃を与えた。今なお収束しない原発事故から私たちは何を学び、今度どう向き合っていくのか。

第3部ではフリーアナウンサーの伊藤聡子氏を司会に招き、東京工業大学助教の澤田哲生氏、多摩大学大学院教授・元内閣官房参与の田坂広志氏、東洋大学社会学部教授で活断層研究を進める渡辺満久氏らが話し合った。

東日本大震災以後、日本国内の原発ではストレステストが実施され、新安全基準の骨子案が作られて原発再稼働へと向かっている。新安全基準では、航空機やテロなどへの対策や炉心損傷対策、直下に活断層がないこと、最大級の津波に耐えられる防潮堤を造ることなどが挙げられているが、中でも重要なのが活断層の有無だ。

活断層を研究する渡辺氏によると、「活断層は増えてきたのではなく、ないとされていたものが出てきただけ。活断層の上に建物があると土地がずれ、その部分の建物も割れてしまう。今までそれを考慮しないといけなかったのにいろんな理由をつけて、これは活断層ではないという審査がなされてきた」という。

重要なのは地震による揺れではなく、土地がずれてしまうこと。東日本大震災では津波にしろ地震にしろ過小評価していたことが問題なのだと渡辺氏は述べる。

これに東京工業大学助教の澤田哲生氏は次のように反論する。

「地震によって明らかに壊れたという原発は今のところない。女川原発は1メートルほど沈下したが危機は壊れていない。福島原発は津波によって壊れたもの。ずれを想定することは科学的に見て可能だと聞いている」(澤田氏)

この意見に渡辺氏は「ずれの予想はできない」と再反論。ここは番組内で意見の分かれるところとなった。

今後の原発事故の可能性を考えたとき、話題に上ってくるのが「原発をゼロにできるかどうか」という問題だ。ニコニコ生放送でのユーザーアンケートでは、原発ゼロを求める意見がやや多かったが、田坂氏は「そもそも原発をゼロにするかどうかの議論がおかしい」と述べる。

「使用済み核燃料の最終処分問題がある限り、原発はゼロにせざるを得ない。解決策があるのかを考えるべきで、原発ゼロか否かと問いかけるとイデオロギー的な議論になってしまう」(田坂氏)

田坂氏によると、そもそも「原子力の安全には技術的なものと制度的なものの二つがある」といい、「事故の多くはヒューマンエラーであることを考えると、重要なのは制度の方。技術的な安全対策を高めるだけでなく、組織の品質を徹底的に上げるべき」なのだという。

人的な要因が大きく影響することは、福島原発の事故にも表れていると澤田氏は言う。「福島第二原発も想定外の津波で浸水したが、人がうまく動いたことで電源を確保できた。第一と第二の何が違ったのか、そこから教訓を得られるはず」(澤田氏)

技術的、制度的な安全を確保できれば法律的には原発を再稼働することができる。しかし、一方で原発問題についてはもうひとつの重要なポイントがある。それは先ほど田坂氏が述べた使用済み核燃料の最終処分場の問題だ。

田坂氏によると、世界中の放射性物質廃棄の問題は、技術的ではなく住民の理解が得られない"受け入れ拒否問題"にあるという。「これを解決するためには政府が国民からの信頼を獲得するしかなく、その意味ではフィンランドでは比較的スムーズに進行している」(田坂氏)

これに対して、澤田氏は別の意見を提示する。「使用済み核燃料の最終処分は地中深く埋めることだが、空気冷却するシステムがあり、中間的にしばらく保存しておく手がある。アメリカのユッカマウンテンでは燃料がそのまま貯蔵してあり、技術が進歩する100年後にはそれが宝の山になる可能性もある」(澤田氏)

最終処分ではなく貯蔵するという考えに、田坂氏も賛同する。

「日本の原発50基が再稼働すると、使用済み核燃料プールはあと6年ほどで満杯になる。その後どこに持っていくのか。焦って地面に埋めるのではなく、人間が管理する貯蔵という手段をとるべき。たとえば明日脱原発政権が生まれたとしても、使用済み燃料の処分問題は残る。問題を国民に対してオープンにし、使用済み核燃料の捨場がないことについてしっかり議論をスタートすることが大事。満杯になってから考えようというその場しのぎのやり方が国民からの不信につながっている」(田坂氏)

最後に、未だ収束しない福島原発の廃炉問題について田坂氏は「世界の中でももっともやっかいな問題」と指摘した上で、「通常の廃炉が30年かかるから福島原発も同じというやさしいものではない。世界で誰も取り組んでいない技術開発に取り組むという覚悟を持つべき。その代わり、成功すれば正解最高の技術を持つことになり、世界に対する日本の役割が意味を持ってくる」と述べ、さらに被災して福島に帰還できない人々の問題については、「被曝していなくても3人に1人が癌になる時代。しかし福島の人々は戻った後、同じように3人に1人が癌になったとき、あの被ばくが原因だったんじゃないかと思ってしまう。そうした精神的な問題をケアしていかないといけない」と、政府にさらなる対応を求めた。……続きを読む