年末年始、実家に帰省した際などに古い家族のビデオなどを見つける機会があるかもしれない。しかしビデオテープの耐久年数というのは、保存状態がよくても30~40年程度という。そのうえ最近では再生環境が現役で維持されていることが少なく、せっかく撮影した思い出の映像も死蔵されていることが多い。

そんな映像を再び観賞するために利用したいのが、ビデオテープの映像のデジタルダビングサービス。この種のサービスは、フォトラボの延長のような形で提供しているカメラ販売店などもあるし、市中には小規模な専門業者もある。そんな中、ビデオカメラや家庭用ビデオとの関わりがそれほど強いわけではない富士通が、「思い出ダビングサービス」という、ビデオ映像のデジタル化サービスを提供している。なぜ同社はビデオダビングサービスを提供しているのだろうか?

あくまでも「個人的な映像」のデジタル化サービス

「思い出ダビングサービス」がどういうサービスかというと、端的に言えば「ビデオテープの映像をDVD化・Blu-ray化するサービス」ということになる。対応するメディアフォーマットは下記の14種類。想定されているのは、家庭用のビデオカメラで撮影した結婚式などのイベント、子供の成長の記録といった、あくまでも個人的な映像のデジタル化だ。テレビ番組を録画したものや市販の映像ソフトなど、他者の著作権や肖像権を侵害するもの、あるいは公序良俗に反する映像は対象としない。

取り扱い可能なメディアフォーマット

8ミリビデオ系 Video8、Hi8、Digital8
DV系 miniDV
VHS系 VHS、S-VHS、VHS-C、S-VHS-C
メモリメディア系 SDメモリーカード、miniSD、microSD、メモリースティック、USBメモリ
光ディスク系 DVD

このサービスでユーザーの元に納品されるのは、DVD-RまたはBD-Rに焼き込まれたDVD-Video/BD-Video形式のディスク。メニューは「標準ダビング」「簡易ダビング」の2つのメニューが用意されており、標準ダビングではタイトル入りメニュー画面/タイトル入りレーベル面印刷/トールケース/タイトル入りジャケットが含まれるが、簡易ダビングはそれぞれタイトル入りメニュー画面なし/レーベル面印刷なし/スリムケース/タイトルなしジャケットとなる。また、それ以外の大きな違いとして、映像が標準の変換で1枚のディスクにおさまる長さ(約2時間程度)を超える場合、標準ダビングでは複数のディスクに分割してデジタル化してくれるが、簡易ダビングでは1枚のディスクにおさまるぶんだけをデジタル化する。

パーソナルビジネス本部 リペアサービス統括部 修理ビジネス企画グループ 田上賢次氏

納品までの期間はとくに明記されていないが、同サービスを運営するパーソナルビジネス本部 リペアサービス統括部 修理ビジネス企画グループの田上賢次氏によれば、現時点で約1週間ほどになるという。実際に依頼される映像の内容は、日常風景、子供の成長に合わせてのさまざまなイベント、結婚式などが多く、「家族の風景」といえるものが過半数にのぼる。とはいえやはり著作権を侵害する映像をおさめたメディアが送付されてきたこともあり、その際にはユーザーへ連絡して内容を説明したうえで、ダビングを行なわずにメディアを返却した。この確認のため、実際の作業の際には最低限の内容確認が行なわれるとのこと。実際の作業が同社のPC修理拠点のひとつで行なわれるので、セキュリティや個人情報の管理はこれまでのノウハウの延長で十分に安全なものとなっている。


PCのユーザーサポートの延長としてのサービス

同種のサービスは、フォトラボの延長のような形で提供しているカメラ販売店などもあるし、市中には小規模な専門業者もある。そんな中で、決してDVDメディアやデジタルビデオカメラを主力商品としているわけではない富士通がこのサービスを提供しているのはなぜだろうか。

パーソナルビジネス本部 リペアサービス統括部 シニアマネージャー 猪目祐輔氏

実はこのサービスを運営しているリペアサービス統括部は、同社の中でもPCなどのユーザーサポートを担当している部門。パーソナルビジネス本部 リペアサービス統括部 シニアマネージャーの猪目祐輔氏によれば、ユーザーサポートに寄せられる声から、「写真はデジタルカメラへの移行が進んでそれなりの時間が経過しているためにデジタルで管理・観賞することがかなり浸透しているものの、映像についてはどうやってデジタル化するかを知りたいという声が少なくない」ことがわかってきたという。とくに、「シニア層は知識の面で、若年層は作業に要する時間などの面で」(猪目氏)それぞれハードルの高さを感じており、それならば映像のデジタル化サービスにはニーズがあるはず――ということで、2011年にこの「思い出ダビングサービス」がスタートした。

いわば同社製PCのサポートの延長としてはじまったわけで、これが冒頭の「なぜ富士通がダビングサービスを行なうのか」という疑問の答えとなる。猪目氏によれば、そのままユーザーサポート部門がサービス運営を担当しているのは、同社がユーザーサポート部門をたんにユーザーの問い合わせ・要望に対応するだけでなく、積極的にユーザーニーズをくみ取って新しいサービスに反映する部門と考えていることが背景にあり、猪目氏は「(修理拠点の)工場としても新たなチャレンジとなるので、モチベーション高く取り組んでくれている」という。

サービス開始の経緯とサービス内容、そしてこれまでこのサービスの告知が富士通FMVシリーズのユーザー向けWebサイトが中心だったことから、サービス利用者の中心は富士通製PCのユーザーが8割を占めるという。また、サービス利用者にとくに年齢などを尋ねているわけではないものの、「センターからお客様への連絡を行なった際のやりとりなどから判断して、シニア世代の利用が大半のようです」(田上氏)という。

「My Cloud」との連携でさらなる広がりを

最近になって、この「思い出ダビングサービス」は富士通がこの夏より展開している個人向けクラウドサービス「My Cloud」の一部と位置付けられるようになった。加えて、プリント写真やはがきをデジタルデータに変換する「My Cloud思い出フォトサービス」というサービスも開始されている。この両サービスは、たんに「My Cloud」のサービス名を冠したというだけでなく、「将来的にはデジタル化したデータをMy Cloudのオンラインストレージにアップするような連携も図っていきたい」(猪目氏)というビジョンも持っているという。

「富士通は箱=PCを売る会社というイメージが強いのですが、箱=PCを起点としていろいろなことができるサービスを提供している会社であることを伝えていきたい」と田上氏は語る。大掃除や帰省の際に古いビデオテープやプリント写真を見つけたら、このサービスを利用してデジタル化を行ってみてはいかがだろうか。