大阪が舞台の作品で、コテコテの関西弁をしゃべるのは唯一、野田というシステムエンジニアのみ。野田を演じた桐谷健太は『ゲロッパ!』(2003年)、『パッチギ!』(2004年)など、井筒監督作にも数多く出演してきた。

井筒:「あんな風に(関西弁を)しゃべれる子は、東京の芸能界にはいないんですよ。仕事を変えて、別の人生を痛快に生きてやろうぜっていうような子どもの気持ちも持っていないと役に合いませんからね。そういうことで選んでいくとアイツしかいないのよ。健太ちゃんは『ゲロッパ!』の時から一緒にやってるし、言ってみればうちの卒業生。まぁ、首席の優等生ですから(笑)」

そのほか、北川を演じた浅野忠信も井筒組は初となる。数多くの俳優を起用してきた井筒監督にとっても浅野の"役者像"は独特だったようだ。

井筒:「浅野くんは非常に切れ味がありますよね。計算してるんだけど、あまり計算を見せない、なんというかな…自由な役者ですよ。1回やったことは2度としないような。自分の不格好さを見せてやろうというゆとりのある人が最近少なくて、自分のことをよく見せようとしか考えない男優とは今回はやりたかった。浅野くんは、自分の思いを素直にどうやって表現するかを考えるタイプなんで、そういう意味ではクリエイターだろうね。あの人は、最初の衣装合わせで角刈りにしてきたからね(笑)。えらい、はやいでんな~まだ撮影まで1カ月ありまっせって(笑)。こだわりのあるオリジナルなヘアカットらしいよ、アレは」

劇中の6人は、自身の仕事や人生を投げうって果敢に夢を追いかける。監督業を続けてきた井筒監督にとって"仕事"とは。

井筒:「そういう感覚がないんです。高校出てからあまり仕事してないのよ。ほぼ40年間。よく生きてきたなと思うくらいさ。大学の文化祭で学生から就職のことで質問されても、俺みたいにずっと遊ぶことを考えなって言いますからね。そしたらどんなことでも仕事に思えるし、どんなことでも仕事に思えないようになりますし、どうやって面白く遊んでやろうかとかどうやって痛快に飲んでやろうかとか、そういうことでいいんじゃないのって。飽きたらやめたらいいわけですし。そう思って生きてきましたからね。生きてることが趣味みたいなもんやから(笑)。朝起きたら趣味がはじまってるなと。撮影でも、仕事とは思ってなくて面白いことしてるんだと。作品を納品して、映画館にかかると皆がガハハと笑ったり、『よっし行け!』ってヤジまで飛ばしてくれるような活動写真、それこそが映画。そういうものを作るんだから、仕事とは思ってないんです」