9月17日、ニコニコ生放送にて『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』などで知られる映画監督の押井守、スタジオジブリプロデューサーの鈴木敏夫、ドワンゴ川上会長の3名による対談が行われた。

左からドワンゴ川上会長、押井守監督、鈴木敏夫氏

本対談は、押井監督がniconico運営の有料メルマガサービス・ブロマガで執筆を開始したことを記念して行われたもので、押井監督の映画論や人生哲学が語られたほか、ジブリ映画に関する議論などが交わされた。クリエイター志望者はもちろん、そうでない方にもぜひ目を通してほしい必見の内容である。

映画監督の仕事とは何か

対談は、川上氏による「押井監督の映画は現実と虚構がごっちゃになるという話が多いが、そこに根源的なテーマがあるのか?」という問いかけからスタートした。これに押井監督は「現実だの虚構だのを言い出したのは(アニメージュ編集長時代の)鈴木さん。雑誌的には僕の作品を語るには、それが一番わかりやすいから。僕は映画の作り方としてそうやった方が自分の言いたいことを語りやすいからそうしているだけ。別にテーマがあるわけではない」と反論する。

先制攻撃を受けた鈴木氏は、これに「今日は(押井監督の)引退記念かと思って来たんだけど(笑)」とジョークを交えながらやり返し、「押井さんは最近働かないらしい。うる星やつらの頃は働いたのに、今は映画を作るときだってわざわざ演出を立てて、全部人にやらせている」と押井監督の仕事ぶりに言及。これがきっかけで、トークは「監督とは何か。表現とは何か」というテーマに突入することになる。

数十年の付き合いである友人であるからこその毒舌トーク!

押井氏:「レイアウトはやるが、後は人に任せる。人に任せないと映画にならない。2年間とかかけてアニメを作るのは途中で飽きる。達成感だけ求めるならそれでもいいけど、情熱を維持するのは難しい」

そう語る押井監督に、鈴木氏は自らが宣伝プロデューサーを務めた『イノセンス』を例に挙げ、次のように疑問を投げかける。

鈴木氏:「『イノセンス』にはバトーというキャラクターが出るが、最後の方の芝居がそれまでとまったく違っていた。それを見たとき、『押井さん、これ見てるの?』と思った」

これに押井監督は「キャラクターって結局、大勢のアニメーターが描くわけだから、その数だけバトーがいる。そこで顔とか動きの癖とかを統一することよりも、デザインや美術的要素など大事なことがほかにある」と持論を展開し、「お客さんが映画を見るときはキャラクターの芝居やドラマしか見ていない。なぜならそれが楽だから。それ(キャラクターやストーリー)も映画の一部ではあるけど、一番重要ではないと僕は思っている」と語った。

では映画を作るときの、監督の仕事とは何か。

"表現"と"演出"は違うと語る押井監督

押井監督によれば、「演出でお客さんを泣かせたり笑わせたりすることほど簡単なことはない」が、「裏のテーマを見せて一瞬お客さんを立ち止まらせるのは難しい」のだという。

その上で「演出家としては泣かせたり笑わせたりすることは正しいんだけど、でも監督としてはどうなのか。監督は演出家でもあるが、同時にそうでない部分もある。映画全体をどう構造的に作るか、どういうテーマを持たせるかを目配せできるのは監督しかいない」と述べ、それ故に「現場にいると(作品との)距離感がつかめなくなってくる。やればやるほど達成感におぼれてしまう」と、作品と距離をおくことの重要性を説明した。……続きを読む