多くのユーザーが「Officeカスタマープレビュー」で、次期OfficeスイートとなるOffice 2013の体験していることだろう。今回興味深かったのが、そのインストールプロセスである。その答えは、Office系公式ブログのなかでも、次世代のOfficeに関する記事を公開している「Office Next」で紹介された「Click-To-Run」にあった。今週は次期Officeスイートに組み込まれている技術を解説する。

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Click-To-Runが2.0にバージョンアップ

以前からMicrosoftは、Officeシリーズに対して「Click-To-Run」という仕組みを導入していることをご存じだろうか。Click-To-Runとは、ソフトウェアをインターネット経由で配信する仕組みで、同社のストリーミングシステムと仮想化技術を用い、ユーザーの待機時間を大幅に削減するというものだ。もっとも、Click-To-Runが本格的にテストされたのは、Microsoft Office 2010のテクニカルプレビュープログラムからであり、同社App-Vチームが開発した技術がベースになっているため、仮想アプリケーション環境上で動作する。

このような機能なので前面に押し出される機能ではなかったからこそ、あまり話題にならなかったのだろう。だが、当時の公式ブログを見ると、「かんたん起動」という日本語訳を使用し、説明が行われている。その一方でmicrosoft.com全体で「Click-To-Run」という単語を検索してみたが、日本語コンテンツを探し出すのは難しかった(除くMicrosoft Answers)。

英語コンテンツと比較すると、その数は大きな開きがある。米国と日本のOfficeに対する温度差や、仮想アプリケーションに対する取り組み具合に差が生じたのかもしれない。このようなことを思い出しながら情報を調べていくと、興味深いコンテンツに出会った。それが「Click-To-Run 2.0」である。記事を書いたのは、同社リードプログラムマネージャーのPaul Barr(ポール・バラー)氏だ。

同記事では冒頭から1990年代に始まったOfficeシリーズのセットアップ機能に特化した歴史を振り返っている。Microsoft Office 97からMicrosoft Office 2010までのセットアップ画面を見ていると、その時代に活躍したWindows OSを思い出すのではないだろうか。ここにMicrosoft Office 95がない点はご愛敬だが、インストーラーの改善と共に歩んできたことを同氏は述べている(図01)。

図01 歴代Officeのインストール画面。ウィンドウフレームを見るだけでも懐かしく思えてくる

そして本稿冒頭に登場したClick-To-Run(1.0)の反省点に立ち返り、ローカルファイルシステムドライバーを作成するにあたり、一部ユーザーの間で問題を引き起こした点や、実行時のパフォーマンス低下、全体処理のスピード向上を求めるといった、改善の余地があったことを認めている。

これらの経験を踏まえClicl-To-Run 2.0では、更なる統合や応答性の向上、そして高速化を目標に掲げ、App-Vチームとの共同作業により新しい経験を享受できるそうだ。この仕組みは現在実施中の「Officeカスタマープレビュー」に盛り込まれており、「Office Professional 2013プレビュー」「Office 365 Small Business Premiumプレビュー」「Office 365 ProPlusプレビュー」などで使用できる「クイック実行」がそれにあたる(「Office Professional 2013プレビュー」の導入に関しては、こちらの記事を参照)。

「Office Professional 2013プレビュー」を例にその流れを追いかけよう。ダウンロードページから入手したセットアップファイルを同社は"ブートストラップ"と呼び、起動すると現れるスプラッシュ画面の裏ではストリーミング処理が行われている。この処理を同社は"First Run Experience(初実行時の体験)"と呼び、最小限のコンポーネントをダウンロードしている。

続く処理はOffice本体のダウンロード。ここで最初のプログラムは終了し、「integratedoffice.exe」にタスクが移動する。同実行ファイルのプロパティダイアログを確認すると、説明に「Microsoft Office Click-to-Run」とあるように、「クイック実行」と呼ばれているものの実態がClick-To-Runであることを理解できるだろう。なお、図04の画面のOfficeに関するムービー再生中にはバックグラウンドでダウンロードが行われい、順次セットアップが実行されるという仕組みだ(図02~04)。

図02 スプラッシュ画面表示中の間に最小限のコンポーネントをダウンロードしている

図03 最初のプログラムはすぐに終了し、「integratedoffice.exe」にタスクが移る

図04 「Office Professional 2013プレビュー」のみ表示される動画の裏で、ファイルのダウンロードやセットアップが行われている

Click-To-Run 2.0の実装により、通常のWindowsインストーラーパッケージよりも素早くアプリケーションをセットアップできる仕組みは、「クイック実行」の名にふさわしいものである。同機能がOfficeスイートにとどまらず、同社の各ソフトウェアにも導入されれば、我々はより快適な導入環境を手に入れることができるだろう。

阿久津良和(Cactus