夏野:「"そういう仕組みだから有料になっちゃってるんだよねー"と言えるんですよ。有料(コンテンツ)に対して、クリエイターの人ってちょっと引きがあるじゃないですか。"そういう決まりだから"って言える立ち位置がやりやすい」

佐々木:「それは無料で発信する素人と、有料でマス向けに儲ける境があった時代の考え方ですよ。100人、200人を相手に儲けていく、あるいはミュージシャンでも1000人、2000人しかファンがいなくて、でもそこに月1000円払ってくれれば食えるという状況では、自前主義が出てこざるを得ないです」

津田:「損益分岐点が変わってくるという話でもありますね。小規模の場合では、あえて本人そのものも"苦しいんだけどやってるんですよ"っていうのが、親近感をもたらす場合もあります」

岩崎:「僕の場合、コンテンツを面白くする方に考えたいのですが、そのときは間にエージェントが立っていてくれた方が結果的にコンテンツが面白くなるんです」

津田:「もうひとつの論点でいうと、エージェントがどれくらいとっていくかですよね。50%とかとられたらやっていけない。川上さん、ドワンゴは手数料で儲けるビジネスは考えていないんですか?」

川上:「夏野さんの前で言い難いですけどね(笑)」

夏野:「考えてないです(笑)」

津田:「ではブロマガを始めることでどういう狙いが?」

川上:「もともと"ネットはフリー"という考え方は間違っているとずっと思っているのですが、現状は資本市場から株でお金を集めて無料コンテンツを提供するというのが10年くらい続いています。どこかで正しい方向に揺り戻しがくると思っていて、お金がかかっているものに対してはお金が回収できるモデルができないと行き詰る。そろそろそのタイミングかなと」

佐々木:「有料課金の波がグローバルにそろそろやってきていて、日本企業が慌ててとりに走っているという見方もできます」

川上:「というよりも、有料課金のモデルを作ったのって日本ですよ。夏野さんですよ。みんな忘れてますよね(笑)」

iモードの生みの親として知られる夏野剛氏

夏野:「最初の有料課金を作ったときに参考にしたのは、エロコンテンツだったんですよ。エロコンテンツはみんな月額課金で、それに対してほとんどの企業とクリエイターは都度課金じゃないと嫌だと。しかも月300円までしかダメって上限を抑えたら反発していました。でもやってみたら、3年後にはみんな感謝してるわけですよ。ビジネスモデルの課金の問題は決済額が大きくなって初めて評価されるものなんです。今ちょっともったいないなと思うのは、Androidが課金で大失敗していること。だから今回、もう一回ブロマガっていう形に仕切りなおして、サブスクリプションモデルを主流にしたいなというのがぼくの願いです」

川上:「ITの世界でもプラットフォームを作るのは欧米が強いんですが、課金プラットフォームを作るのは歴史的に見ても日本が強いんですよ。ITで強力な月額課金制度を始めたのはiモードだし、さらにいうとコンテンツの売り方も任天堂が始めたモデルなんですよ。課金モデルは、日本が世界に発信しているんです。コンテンツ課金モデルに関しては海外が未来だと考えないほうがいいです」

夏野:「Facebookの株価がこんなことになっている最大の原因はそこですよね。きちんと収益を稼げないプラットフォームは、ユーザーがいるだけじゃダメというのが主流の考え方になってきた」

佐々木:「LINEのスタンプ課金なんかはお上手だと思いますね。もう少しシンプルに考えると、コンテンツって作る側と読む側の二者しかない。両者の間にいかに付加価値を与えられるかがプラットフォームの仕事です。AppStoreやキンドルストアが30%もとって多いじゃないかって文句いう人もいる。でもあれはなぜ30%かというと、プラットフォームの市場支配力が強いからという理由があるんです。ドワンゴの場合はそこまでの市場支配力がないけど、そこに動画や生放送という付加価値を与えられるのが大きい。そういう意味では新しい市場を形成できる可能性は高い。特にミュージシャンとか動画中心の人にとっては」

夏野:「niconicoの最大の競合対策はもうからないってことですからね(笑)。動画プラットフォームはお金がかかりすぎて」

津田:「ブロマガは(従来のメルマガと)また違ったお客さんをつれてくる可能性がありますよね」

佐々木:「よくメルマガを配信しますよっていってくる会社がいるんだけど、結局宣伝するの俺じゃんっていう。あんたがやってるのメールの配信だけでしょ、なんでそれで30%とか40%とかとるの、と。そうすると、中間業者でしかないものにいくら払うかって難しい問題で、配信のほかにどんな付加価値を与えてくれるのっていうのを問わないといけないんです」

津田:「佐々木さんがブロマガを始めるということは、ドワンゴに関しては中間業者としても可能性を感じている?」

佐々木:「いやそれはドワンゴという会社が好きで期待しているからです(笑)。動画や生放送っていう、今までにないコンテンツを付加するのは可能性があるんじゃないかな」

岩崎:「佐々木さんは単なる文章を発信するだけの人間じゃない、と。ぼくも文章を書く人間なんだけど、場を作っていかないと追いつかない。川上さんが言っていたプラットフォームのプラットフォームという考え方はしっくりきます。ぼくは文学シーンを盛り上げていきたいんだけど、話が合う人がつくれない。既存のプラットフォームではできないし、一人で戦っていても孤軍奮闘でプラットフォームになっていかない。そういうのをエンパワーしてくれる場であればいいですね」

津田:「以前ははてなにそれを期待していたのですか?」

岩崎:「いや、そこまで気づいてなかったんです。はてなは"はてな村"というのがひとつのプラットフォームで、僕はそこにのっかっていった。はてなとは違う文脈で僕には語りたいことがあります」

佐々木:「岩崎さんが仕事をしている文芸の世界というのは気持ち悪い世界です。老舗の出版社の編集者がぞろぞろ作家を取り巻いて旅行にいってるっていう、あの世界って死に絶えるわけです。そうじゃない文芸をやろうとしている人もいっぱいいて、旧来の文壇的な世界に入り込めないから孤立無援になるわけ。そういう人がどうやって自分の場を作るかは大きなテーマで、みんな苦労しています」

岩崎:「それをやりたいなと思ったんですよ。古いメディアと戦うわけじゃないけど、プラットフォームを作りたいというのは時代の変遷ともマッチしているんじゃないかな。相互発信というか、小さなプラットフォームが共存できる社会がきたと思うので」

津田:「コミュニティ機能でいうと、動画で放送もできて、そのまま『笑笑』が予約できるみたいな機能があって、突発オフみたいな機能までインクルードされてると便利かなと(笑)。川上さんに最後にお聞きしたいのですが、(ブロマガで)新しい著者と読者との関係が実現するといいなという期待は?」

川上:「ネット上でファンクラブが作れるようにしたいなというのがありました。みんな情報の発信者に対して近づきたいという欲望があるんです。ネットで限定されたユーザーに対して何かをしたいという人はたくさんいます。そういうプラットフォームになればいいなと」

夏野:「津田さんがブロマガに期待することって?」

津田:「やっぱり『笑笑』予約機能がほしいですね(笑)。突発的に何かできるっていうのがいいなって。すごくやりたいのは、文学フリマで自分のDVDとか寄せ集めのコンテンツをCD-Rで売ったりしたんですけど、デジタルコンテンツを売りたいんですよね。たとえば5年前の取材音声がすごい面白くて、テキストに起こすのは面倒だけど、許可とって音声で売りたいなと思ったときに、ファイルを売れる機能がついたら最強だなと」

川上:「それはリリース予定に入ってますね」

ネットの有名人をごっそりと取り込み、新たに有料メルマガ市場に参入したniconico。果たして今後、川上氏が言う"プラットフォームのプラットフォーム"として確固たる地位を築けるのか、各界から注目が集まっている。