新フォーマット「*.ibooks」を探る
これまでiBooksおよびiBookstoreは、オープンな電子ブックフォーマット「EPUB」を前提に運営されてきた。iBooks 2では従来のライブラリが引き継がれ、EPUBコンテンツも支障なく閲覧できることからも、EPUBのサポートは継続されると考えていい。
一方、iBooks 2/iBooks Authorで使用される新フォーマット「.ibooks」は、昨秋仕様が確定した「EPUB 3」をベースとしつつ、独自の拡張がくわえられている。
「.ibooks」ファイルは、iBooks Authorのメニューバーで「ファイル」→「書き出す...」を実行し、フォーマットに「iBooks」を指定すると生成される。同じく「ファイル」メニュー以下にある「公開する...」を選択すれば、iTunes Producer(iTunes Storeへ楽曲や電子ブックを登録するときに使用される専用ツール)でiBookstoreにアップロードするためのファイル(iTunes Package)を出力できる。なお、作業中の文書は「.iba」ファイルとして保存されるが、これは「.ibooks」生成前の一時ファイルという位置づけだ。
「.ibooks」の拡張子を「.zip」に変更すると、そのフォーマットがEPUBをベースにしていることがわかる。内部にはEPUBに必須の「META-INF」や「OPS」といった要素が確認でき、コンテンツも基本的にXHTMLとCSSで構成されているうえ、拡張子を「.epub」に変更すればサードパーティー製EPUBリーダでも(一応)開くことができる。
しかし、細部を見ると両者に違いは多い。EPUBに必須のファイル「mimetype」では、「application/epub+zip」と記述されているところが「application/x-ibooks+zip」に変更されていたり、CSSにはAppleによる独自拡張と思われる「-ibooks」から始まる記述が多数含まれていたりする。EPUB 3で実現された日本語組版に利用できる機能(ex. 縦書き、右開き)に対応しない点にも注目したい。
以上を踏まえると、「.ibooks」がEPUBベースであることは確かだが、EPUBと同一視するのは誤りだろう。Appleは「電子ブックは(仕様がオープンな)EPUBで」という当初のポリシーを維持しているが、iBookstoreでデジタル教科書など新機軸を打ち出すために、新フォーマットを「+α」で用意した、と理解したい。iBooks Authorは、あくまでiBookstore専用の制作ツールなのだ。
電子ブック制作ツールとしてのiBooks Author
最後に、オーサリングツールとしてのiBooks Authorの特徴についてかんたんにまとめておこう。Appleの電子ブック戦略と不可分のツールではあるが、単体で見れば画期的な機能を多く備えているからだ。
まず、ワープロ/DTPソフト的なデザイン能力の高さに注目したい。図の周囲にテキストを回り込ませるときには、テキストボックス内に文章をコピー&ペーストすればよく、テキストと図の間隔など詳細はインスペクタで調整できる。
実機(iPad)での検証がスピーディーに行える点も画期的だ。ファイル(*.ibooks)に書き出すことなく、Macに接続したiPad/iPad 2へ直接出力できるので、端末との同期やファイル転送といった作業を考える必要がない。
インタラクティブな機能が「ウィジェット」として部品化され、かんたんに電子ブックへ組み込める機能は、他の制作ツールでは見ることができない。たとえば、「練習問題」というウィジェットを配置し、2~6つ設けられる選択肢に模範回答を入力しておけば、読者が選んだ選択肢が正解かどうか判定できるオブジェクトとして動作する。JavaScriptなどプログラミング言語を一切必要としない点も、電子ブック/デジタル教科書の位置づけからして歓迎だ。
今後の方向性だが、どうしてもデジタルマガジンの分野で先行する「Adobe Digital Publishing Suite(ADPS)」と比較せざるをえない。Androidなどマルチプラットフォームに対応し、InDesignとワークフローを一本化でき、記事や広告コンテンツがどのように伝わっているかを調査可能、といったiBooks/iBooks Authorにはないプロ向けの機能を備えるADPSなどの製品とどのように棲み分けを図るのか、あるいは真っ向から争うのか。現時点における「.ibooks」専用ビューアであるiBooks 2ともども、注視していく必要があるだろう。